第23話 戦場に向けて


 王都を出発してすぐに後から追いかけてくる集団がありました。


「歌姫様〜!」


 馬車から顔を出して見てみるとワイバーン討伐時にご一緒した騎士団の皆さんでした。



『やっぱり来ましたね』

『そりゃあ来るだろよ』

『ですよね〜』



 騎士団の皆さんが言うには、どうしてもわたしの護衛に従事すると騎士団長さんに掛け合っていて出発に間に合わなかったそうです。


「皆さん、お久しぶりです。よろしいのですか?わたしのところに来られて?」

「はっ!問題ありません!」

「言うだけ言って勝手に出てきましたから!」

「いや……ダメだろ?それ」

「何を言うか!か弱き女性を守ることこそ騎士の誉れ!」

「……本当のとこは?」

「ファン倶楽部として当然の……」

「はあ……お前らアホだろ?」


 冒険者さんと騎士さんも仲良くお話しをされているようですので、きっと大丈夫なのでしょう。



『アイツらいつの間に』

『あの冒険者の男が中心になって作ったみたいですよ』

『仕事……してるんですかね?騎士って』

『さぁ?』



 という訳で騎士さん達を加えたわたし達は一路国境を目指して進んでいきます。

 王都から国境近くの鉱山までは凡そ5日ほどの距離になります。

 間にはいくつかの街や村がありますが、今日は野営になりそうです。


「よ〜し!お前ら!今日はここで野営にするぞ」

「そうだな。もうすぐ日も暮れるし森に入るには危険だな」

「よしっ!お前とお前は野営の準備、お前はあっちに貴様は向こうに、俺はこっちを捜索する!」

「「はい!」」

「何を捜索するんだ?こんな平原に何か……ま、まさか!」

「そうだ!そのまさかだ、俺の冒険者としての勘がそう言っているのさ……ふっ」



『17番及び48番〜50番。準備は?』

『抜かりなく!』

『よし!55番!今日の献立は?』

『今日はちょっと暑くなってきましたので、サッパリとした素麺をご用意しました』

『おおっ!ナイスアイデア!』

『こないだ40番さんが、揖保◯糸を買ってきてくれましたから』

『……何やってんだあの人は……』



「隊長〜!目標発見しました!」

「よし!全員に連絡!魔物に警戒しながら目標まで進め!」

「はいっ!」


 冒険者さんと騎士さんはわたしの馬車を護衛しながらその目標に向かって進んでいきます。


「よ〜し!隊列を組め!目標はすぐそこだ!」

「はいっ!」



『アイツら言ってることと、やってることは如何にも冒険者なんだけどなぁ』

『実際は、メシ食いに行ってるだけなんだよな……』



 平原の真ん中に前回の討伐でもお世話になった御食事処がありました。


「おおっ!素麺だぜ!」

「暑い時には最高だよな」

「素麺ってさ、この一本だけ赤いヤツ入ってるとテンション上がるよな」


 冒険者さんも騎士さんも素麺には大満足だったようです。

 しかし、その後大問題が発生したのです。


 わたしが温泉(御食事処の裏が温泉でした)から上がってくると冒険者さんと騎士さんがすごい剣幕で言い争いをしていました。



「ははっ、騎士さんてのは頭デッカチでいやんなるね!」

「貴様らこそ、所詮は下賤のものよ!教養というものが足らんのだ!」

「よく言うぜ、わかってねーのはそっちだろうが!」

「何を!言わせておけば!」

「なんだ!やろうってのか!」


 何があったのかは知りませんが、お互い剣を抜きそうな勢いです。


「皆さん、やめて下さい!いったい何があったんですか?」


 わたしは間に入って冒険者さんと騎士さんに何があったのか尋ねました。


「う、歌姫様……だってこいつらが……」

「何を言うか!貴様らこそ!」

「だから!何があったんですか!」


 先程まで仲良くご飯を食べていたのに、こんなに言い争うくらいです。きっと何か重大な問題があったのでしょう。



「……えっと?もう一度お願いしても?」

「はい、素麺は"流し素麺"か"素麺流し"かってことをですね……」

「素麺流しに決まっておるだろう!」

「何言ってやがる!流し素麺だろうが!」


「…………どっちでもいいです」



『で、結局どっちなんだ?』

『流し素麺と素麺流しは素麺の流し方によって分けられている場合と、東と西で違うといった説があり明確な基準があるわけではないみたいです』

『へ〜、そうなんですね』

『流し素麺の発祥は江◯と言われていて東側、反対に素麺流しは南九◯が発祥で西にあたるらしいですよ』

『……何の豆知識だよ』



 最終的には、わたしのどっちでもいいが堪えたらしく皆さん仲良く温泉なの入りに行きました。


 だって……どっちでもよくないですか?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る