06 無意識の活躍*
異世界に戻ってから数日経った。
神官たちの復元魔法や大工さんのおかげで、大聖堂は元通りの景観を取り戻しつつある。俺の身体であるクリスタルに入ったヒビも、自己修復スキルが働いて傷が浅くなっていた。
クリスタルの中で俺は悶々とする。
どうやったら現実世界に帰還できるのだろうか。
前回、戻る直前は絶体絶命の危機だった。もう一度、危機に陥ったら現実世界に帰れるだろうか。だが俺に攻撃を仕掛けてくる奴なんて滅多にいないから、検証しようがない。
「仲間の蘇生をお願いしに来ました」
そんなある日、冒険者が数人、動かない仲間を連れて大聖堂を訪れた。
大聖堂に寄進すると「回復」や「蘇生」の魔法を受けられることになっている。俺も魔法のレベル上げができるので、大聖堂の商売に無言で協力しているのだ。
「冒険で命を落とされたのでしょうか」
神官が、患者の症状を聞く医者のように、穏やかに冒険者たちに質問する。
冒険者のリーダーの男は首を横に振った。
「いえ。崖からパンジージャンプしました」
「は?」
「こいつ、魔法の使えない戦士の癖に、俺は風になる! って空を飛ぶ練習するんですよ……」
「それは……馬鹿ですね」
「ええ、馬鹿です」
神官が何とも言えない表情になる。
俺も呆れたけど、そんな驚かない。大聖堂に高額の寄進ができるほどの冒険者は、高レベルの変人が多いのだ。
「地面に叩きつけられる瞬間、仲間の魔法使いがあらかじめ掛けた、緊急脱出の魔法が発動したんですが、それが変に影響したのか、身体を回復させても魂が戻って来なくて……」
冒険者たちは、簡易の棺の中で眠っている仲間を、痛ましそうに見た。
待てよ……緊急脱出?
魂が戻ってこない……?
「頭が空を飛んでる馬鹿だけど、剣の腕は確かだし、勇敢で頼りになる大事な仲間です。アダマス王国の聖なるクリスタルの力なら、どんな病も治せると聞いています。金ならいくらでも出すので、どうか治してやってください!」
「我らが神、聖晶神アダマントさまは大変慈悲深い方です。必ず祈りに応えて下さるでしょう……アダマントさま?」
俺は唐突に思い付いたことがあって呆然としていた。
神官の視線に我に返る。
蘇生ね、ほれ。
「……ここはどこだ?」
パアッと魔法の光が辺りを走り、棺の中の男が目を開ける。
「馬鹿野郎! 面倒かけやがって!」
冒険者たちは歓喜の表情で起き上がった男の肩を叩き、歓声を上げる。
一方の俺は考え込んでいた。
現実世界に戻る時、無意識に俺は緊急脱出スキルを使ったのではなかろうか。心菜や真がどうやって現実世界に帰ったか知らないから、確実に脱出スキルが使えるとは限らないけれど、駄目もとで試してみよう。
緊急脱出スキルは習得済みだが、使う機会が無かったのでリストの端の方に埋もれている。
俺はステータスを表示して「緊急脱出」を探した。
あった。
しかも「緊急脱出Lv.1」が「緊急脱出Lv.3」になっている。
レベルが上がっているということは……まさか?!
「な、なんだ?! クリスタルが一瞬まぶしく光ったぞ」
「クリスタルに宿る聖なる意志が、あなたがたを祝福されたのです。滅多にないことですよ」
興奮してつい光ってしまった。いかんいかん。
しかしこれで現実世界に帰る方法が分かった。
この「緊急脱出Lv.3」を任意で使用できるようにすれば……魔法の式の一部を変更して……実行!
俺は異世界を脱出した。
ガバッと布団から上半身を起こし、俺は周囲の状況を確かめた。
ここは地球は日本の自分の部屋、ベッドの上だ。
枕元のスマホを取り上げて、メッセージをチェックする。
最後に心菜とチャットした日時から、数時間しか経っていない。
「良かった……」
異世界で何日過ごしても、こちらでは数分程度のようだ。
安心すると眠くなってくる。
また元通り寝転んで、うとうとしていると、外が騒がしくなった。
「なんだよ……うるさいな」
どこかで消防車のサイレンが鳴っている。
人の叫び声や、ざわめきが遠く聞こえてきて、睡眠を妨げた。
俺はこの時、異世界から帰ってきたばかりで……簡単に言うと、寝ぼけていた。
「……ええと……なんだモンスターの群れかー」
無意識に広域マップを操作しながら索敵スキルを使用する。
敵を示す赤い点が数十以上表示されていて、俺は「また魔族が攻めてきたのかな」と思った。異世界でクリスタルだった頃、一時期、アダマスに魔族が大量に攻めてきた事があったのだ。その頃を思い出して、夢うつつに魔法を使う。
「……
上空に展開した魔方陣から、千の雷が降る。
雷撃は速やかにモンスターを殲滅した。
ちゃんと手加減しているので、人や建物には当たっていないはずだ。
サイレンの音が消えて静かになる。
「ふああ……やっと静かになった。おやすみ……」
欠伸して、布団をかぶる。
魔法で魔力を消耗したので余計に眠い。
その朝、目覚ましが鳴っても気付かずに、俺は寝過ごした。
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