第209話一等陸士 香樹実

12月10日火曜日PM1:30

 与那国島陸上自衛隊駐屯地。

 俺とアシスタントに任命した一等陸士の篠原香樹実が作戦室に入る。


 幕僚長の田村と二階堂が大きなテーブルに並んで座っていた。


 奥の壁際には10数台のモニターが並び、日本最西端の石碑周辺に配備されたミサイル車輛等の様子や偵察機からの映像等が映し出されている。


 田村の後ろに立っていた少し偉そうな男が、俺と並んで立っている篠原香樹実に言う。

「お前は何だ? 勝手に作戦室に入るんじゃない」

 俺が男を制する。

「いいんだよ。彼女は俺のアシスタントだから」

「アシスタントって・・・」

 二階堂が言う。

「いいですよ。中本さんは施設の事も知らないので、案内役が要りますから。いいですよね、田村さん」

 田村が彼女に言う。

「階級と名前は」

 彼女が姿勢を正して応える。

「篠原一等陸士であります!」

 俺は2人の正面に座った。

 カチカチに固まった様に立っている彼女に言う。

「座りなよ」

 俺の横の椅子を引いてやった。

 彼女は、二階堂と田村以外でテーブルの周りにいる隊員達が立っているのを見て言う。

「自分は立ったままで結構です!」

「いいから座れ」

 彼女の手を引いて座らせた。


 テーブルの上を見ると田村と二階堂の前にはコーヒーが置かれている。

 立っている1人の隊員に言う。

「俺にもコーヒー貰えるかな。彼女にも」

 隊員は彼女よりも、かなり上の階級らしく、彼女の顔を瞬間睨んで応える。

「コーヒー2つ、お持ちします!」


 二階堂が言う。

「中国はいつ動いてもおかしくない状態です。準備は整ったと見られます」

 田村が言う。

「本気だよ、連中は。衛星からの写真では、沿岸部の飛行場に最新鋭の戦闘機J20が集められた。夜間攻撃が出来るJ10 も50機以上。爆撃機のH6も待機している。連中、クラスターを使う積もりだな」

 俺が聞く。

「クラスター?」

 二階堂が答える。

「大きめの爆弾の中に小さな数十個、或いは数百個の、主に焼夷弾等が詰め込まれています。メインの爆弾は地上に着く前に空中で炸裂して小さな爆弾を地上にばら蒔き、辺り一帯を火の海にします」

 田村が補足する。

「物を破壊するよりも、敵の勢力を面で制圧する爆弾だ。膨大な人的被害が出る」

 俺が聞く。

「連中も日本が台湾側につくのはわかってるよね?」

 二階堂が答える。

「分かっていると思います。ただ、彼らに取っては、あくまでも内戦ですから、専守防衛を基本とする日本の自衛隊が出てくるとは考えていない筈です」

「何だかややっこしいな」

 隣に座っている彼女の手をテーブルの下で握った。

 田村と二階堂に言う。

「まあ、俺は待機してるからさ。動く時は言ってよ。どこか休む所、あるよね」

 田村が言う。

「兵舎があるから、そこで休んでいて下さい」

 

 俺は立ち上がった。

 隣の彼女も慌てて立ち上がる。

 田村が彼女に言う。

「中本さんを兵舎にご案内して」

「はい。ご案内します!」


 その時、二階堂に電話が掛かってくる。話す二階堂の顔が興奮で赤くなる。会話は直ぐに終わった。

 二階堂が言う。

「総理からです。決定事項としてお伝えします。中国から台湾への進撃行動が認められた時は、自衛隊は直ちに中国軍への攻撃を開始すると言うことです」

 田村が無線機を手にして通話する。

「総理からのゴーサインだ。準備しておけ」

 無線から声が響く。

「了解! スタンバイ出来てます」

 田村が、与那国空港に習志野空挺を控えさせといると言う。


 俺が言う。

「じゃ、俺はその時が来るまで休むかな・・行くぞ」

 彼女に声を掛ける。二階堂から無線機と服を渡されて作戦室から出る。

 服は自衛隊の制服だった。


 兵舎に向かって歩く。前を歩く彼女、篠原香樹実一等陸士の後ろ姿を見る。迷彩服を透視して裸を楽しむ。

 左右に揺れるお尻がいい。


 兵舎の一室に案内された。士官用の部屋なのだろう。キッチンやシャワー室も付いた快適そうな部屋だ。


 12月だと言うのに暑い。

 先に中に入った彼女がエアコンのスイッチを入れて言う。

「私はドアの外に立っていますので、何かあったらお呼び下さい!」

「ダメだよ」

 彼女の腕を取り、身体を引き寄せて抱き締めた。そのまま抱きかかえてベッドに運ぶ。

 彼女は意外と大人しい。

「いいのか?」

「強い人、好きだから」


 裸にした彼女の身体は、普段の訓練で引き締まっていて美しかった。

 男の経験は少ないようだ。


 1時間後、俺がシャワーを浴びている時に彼女に呼ばれる。

「電話が鳴ってます」

 ダイニングテーブルの上にスマホを置いていた。

「誰からだ?」

「アベって出てますけど」

「出てくれ。中本のアシスタントだって言えばいい」


 シャワーを浴びる俺の耳に、彼女の声が途切れ途切れに聞こえる。

「はい、中本です・・・アシスタントの篠原です・・・はい、与那国駐屯地・・・・はい・・・お伝えします」

 シャワーを浴びて出てくると、裸の身体にバスタオルを巻いた彼女が俺にスマホを渡しながら言う。

「電話して欲しいって言ってました。さっき幕僚長といた人、二階堂さんって言うんですか?」

「そうだよ」

「あの人の事、二階堂君って言ってたけど、アベさんって偉い人なんですか?」

「偉いのかどうか知らないけど、今は総理大臣やってるからな」

「えっ!安倍総理だったんですか?」

 彼女の身体からバスタオルが床に落ちる。彼女は操り人形の様にギクシャクとタオルを拾ってバスルームへ歩いて行った。


 総理に電話する。

 自衛隊が台湾を助けたと分かるように、中国人民軍を蹴散らしてくれと言う事だった。

 報酬はどうでも良かったが、総理に10億円と言われた。




 

 

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