あとがきのまえがき

@ais-akountine

本編

私は一昨年母を亡くしました


ええ


私はもう、ああ!


落ち着いて


だから、非常に辛くて、通夜でも一言も、ええ、言わなかった。と思います。それで、それから先は真っ暗闇でみんな私に冷たくしているのだと思われて、母の閉じられた目は、私は田舎の出なんですが、九州の方、で、帰ってみて、とても優しく私を包んでいるような気になってですね、私はその後、父がいませんから孤児になったわけで、


ほう


そうなんです。ただ一つの光明を除いて! 私には友がいました。私はなんとか東京に出まして、大学に行き、ご存知のとおりでしょう? そこで、彼と出会いました。彼は私の話をよく聞いてくれる人でした。そういうのが得意だった。そして、彼はまたとても機知に富む人だった。私は最初は物怖じしていたんですが、彼から話しかけてきてくれたんですよ。君はそういうのが好きなのかい? というようなので、そのとき私は、何を持っていたか、うむ、岩波の赤だったかと、書名はもう忘れました。そんな具合で、ええと、ポスト=モダンの事柄がこのあとの話に続けてやろうと、だが、やめときましょう。結論を急いでいるようだから。


ええ


その親友も、今ははるか遠い外国へ行ってしまいました。ですから私は今その光明すらも閉ざされて、真っ暗闇を一人でぐるぐる回っているわけですよ。ああ、暗く冷たく青い緑と反射の光線よ!


要するに


ええ、私は孤独なんです! 『孤独』なんです! しかし、この孤独はあんまりにも欺瞞的だと思うんです。欺瞞なんです。そう、私は孤独であろうとしているんだと思う。あえて我が道を行きたいんだろう。こうやって、自分がすっかり特別で、とても特別でそんな意志で生きていこうとしてるんだと思うん、こう話していると自然とね口角があがってくるんですよ、喉をつっつくみたいな笑いがね、それのなんと気持ちいい……そして嫌なこと! だから、私は母が死んだことも、喪失を全ての、その別離すらも喜んでいた。心底で悦んでいたんだ


ええ


だから、私は彼から洋行の話を聞いてうんと言った。心に恐ろしく快い震えをもって


ええ


かがやき振るう恒星的拳でもって!


「ああ」


 高らかな喇叭が響き、天使とともに白髭の老爺がやってきて言う。

「あなたは選ばれた人だ。あなたは救世主だ」

さっきまで話していたのが自分を指差す。老爺が頷く。その指は震えている。


 天界への扉が彼に光線を浴びせかけ、小部屋は祝福的な湯気に満たされた。





四月一日

 こんな紙片を二日前B棟で拾ったがこれをうわ言として捨てられるのは叶わない。書いた主も私には分かるのだ。人は意味がわからなかったりするとすぐ隅に追いやるから、ここに取っておこうと思う。

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