第17話 砲身が焼け付くまで

 俺達の援護射撃は轟音と共にヘルンの城壁を吹き飛ばした。


 瓦礫の合間を縫って、スヴェンたちはスヴァリア軍は、ヘルン市に突入した。

 まっすぐに王を目指して広場を駆ける。山の上からでも市内の混乱ぶりが見て取れた。もしかすると、市民たちはスヴァリアの王様がヘルンにいるなんて知らなかったのかもしれない。でもそれがこちらに有利に働いた。市民の混乱を前にヘルン軍は行く手を阻まれ、少人数での乱入を容易く許してしまう。


 アクセルが望遠鏡を覗きながら、観測手を務めてくれた。腹の底に響く地鳴りと共に魔弾が発射される。何度も何度も。鶴の砲身が焼け付きそうなほど、撃ち続けて――。

 アクセルが不意に叫んだ。


「おっさんが王様の保護に成功したぞ!」

「本当か!」

「ああ、王様はおっさんの馬に同乗している。……よし、援護射撃を続けるぞ! くれぐれも王様たちに当てるなよ!」


 あと少しだ! 魔力不足なのか緊張感なのか、砲に魔力を込める手が震えてきた。


(思えばこの三日間必死だった。あとは、母ちゃんの家族だった王様を助けるだけだ! 絶対に王様は殺させない――!)


 力の限り魔力を込める。アクセルが吠えた。


「撃てェ!」


 最後の砲撃は、市門前でスヴァリア軍の脱出を阻む騎兵隊に命中した。スヴァリア軍は残兵たちを蹴散らして、一心不乱に駆ける。


 そうして、――ついに王様たちはヘルン市を脱出した。



「「「っしゃぁああああああああ!!!!」」」


 全員で快哉を叫ぶ。こんなに身の内から喜びが湧いてきたのは久しぶりだった。何度か死にかけて、それでも得た勝利に胸が震えた。


 喜びを分かち合おうと、鶴を振り返る。するとあれだけ大きな煙突の騎士の巨体は、ぽひゅんと間抜けな音を立てて縮み、後には大人の姿の鶴がへたり込んでいた。王灰のおかげで身体のひびも煙突も直ったので元の姿に戻ったのだ。近寄って、声をかける。


「お疲れ、鶴。ありがとうな」


 鶴は疲れた顔をしながらも、晴れ晴れとした笑顔だ。


『おう、涼坊。どういたしましてだ。お前もよく頑張ったな』

「うん、俺の相棒がお前でよかったよ。じゃなかったら、ここまでうまくやれなかった。ありがとう、これからもよろしくな」


 心の底からの感謝を伝えると、鶴はくすぐったそうに笑い、ばりばりと頭を掻いた。照れてる。


『ま、まぁな、お前には俺がついてないとな! てなわけで、俺からもよろしく頼むわ』

 そうして二人で目を合わせて、ニッと笑いあった。


「なあににやついてるんだ、二人とも」

 どすっと、アクセルが圧し掛かってきた。


「おう、アクセル。お前にも言おうと思ってた。お疲れさん、そんでありがとな」

「へへっ、そんなかしこまらなくても分かってるよ。お疲れさん。お前と一緒にやれてよかったぜ」


 照れくさそうにそう言うと、みんなに向かって声を張り上げる。


「さぁ、王様たちに合流するぞ! 最後まで気を抜かずにだ。王様にもらうご褒美を楽しみにしてな!」

「「「おう!!!」」」


 俺達は鬨の声を上げると、意気揚々と山を下りていった。


 ――こうして王様の救出作戦は成功したのだった。

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