第40話 三浦の魔術
「じゃあ、俺は三浦の試合を見てくる」
「あ、俺も行くぞ」
俺が三浦の試合を見に行こうとすると沢村もついてきた。
さっき三浦に応援されたわけだし、そりゃ様子が気になりもするか。
「
「んー……それなら俺もついていくかな」
俺達3人が三浦の試合が行われるコートに着いた時には、想像以上に多くの生徒が集まっていた。
コートでは両チームのメンバーが既に配置についていて、三浦はジャージの上着を脱いでTシャツ姿になっている。
「ん?」
さっきまではジャージに隠れて分からなかったが、三浦の首に細いチェーンがかかっているのに気づく。アクセサリーっぽいけど、普段そんなものを着けてたっけ?
俺が三浦の服装を思い返そうとしていると、試合開始のホイッスルが鳴った。
練習の成果か、三浦達はメンバー同士が声を掛け合い、連携して試合を進めていく。
三浦自身の動きは正直あまり速くないし、技術が優れているわけでもない。だけど誰よりも懸命にボールを追いかけてチームの役に立とうとしていた。
最初は思った以上に三浦が頑張っている、ぐらいの感想だった。
だが、真剣な表情で試合に打ち込む三浦の姿を見ている内に、だんだん試合観戦に熱が入る。俺はいつの間にか三浦のチームに点が入れば喜び、逆に点を取られたら明確に悔しがるようになっていた。
両チームの実力はほぼ互角で一進一退の展開が続く。
しかし、試合が終盤になったところで、三浦のチーム全員に疲れが見え始め、少しずつ点差が開く。
現在の点数は19対22でこちらが3点負けている。25点先取で勝ちになるから大分厳しい展開だ。
ここで三浦のチームがタイムを申し出た。メンバーがコート中央に集まり、相手チームを時折見ながら話し合っている。
話が終わってメンバー全員が元の配置に戻ると、三浦がTシャツの胸元にいきなり手を突っ込んだ。
はい!?
突然の行動に俺が面食らっていると、三浦がTシャツから丸い金属のついたペンダントを取り出した。そのペンダントは丸い金属部分に赤色の魔法陣が描かれていて、明らかに
三浦はペンダントを握りしめると、人目も気にせずに何ごとかをブツブツとつぶやきだし、そのただならぬ様子にギャラリーがざわめきだした。
「うわぁ……一体何をやってるんだよ?」
「多分、あのペンダントは何かのお守りで、つぶやいているのは試合に勝つための呪文じゃないかな……」
「だとしても、試合中に普通やるか?」
「つまりは試合に勝つためのおまじないってことだな」
いや、あれはおまじないなんて可愛らしいものじゃなくって、もっとガチなオカルトだと思う。
それにしても、三浦は気持ちを切り替えようとしているんだろうが……他に方法は無かったのか。
場が
ここで点差を詰めないと負ける。
俺が心配していると、敵の打ち込んだボールが今まさに味方のコートに落ちようとしていた。
点を取られる!! そう思っていたら。勢いよく飛び出した三浦がボールを拾い上げる。 危機を救うあざやかなプレーに声援が上がり、俺も自然に三浦へエールを送っていた。
その後も三浦は見違えた動きでボールに喰らいついて失点を防ぐ。三浦の必死なプレーが反撃のきっかけになり、チームは25対23で見事に逆転勝利を収めた。
三浦達から喜びの歓声が上がり、ギャラリーからも拍手が送られる。
俺もギャラリーの1人として拍手をしていたが、こっちに気づいた三浦が俺達の所にやって来た。
「試合中にもしやと思ったけど、応援に来てくれてたんだ」
「そりゃ俺達の試合に来てくれたわけだし、それくらいは……。それにしても、試合終盤になってから、三浦の活躍は本当に凄かったな」
「ふふっ、それができたのもこれのおかげ」
そう言うと、再び三浦がTシャツの胸元から例のペンダントを取り出した。
「……そういや、その魔法陣が描かれたペンダントってお守りの一種?」
「正確に言うと、これはソロモンの魔法円が描かれてる魔術道具で勇気と力をもたらすの。バレーボールの練習も大事だけど、試合に勝つための後押しが他にも欲しかったから作ったんだ」
「ソロモンって、もしかしたらバエルやバルバトスを始めとした72柱の悪魔を使役した逸話があるやつじゃ……」
俺がゲームで覚えた知識をうっかり口にすると、三浦が嬉しそうに早口で語り始める。
「ソロモンを知ってるんだ!! あ、でもこの魔法円には悪魔じゃなくって、天使であるマエミエル、バルザキアム、エシエル、イシュリエルの名前が書かれてるの。さっきは試合に負けそうだったから、より強い勇気と力の加護を天使達に願ったんだ。それで私に活力が宿って今まで以上に動けるようになったわけだから、魔術って凄いでしょ?」
「ああ、うん、それで三浦の動きが良くなったのは間違いないよな……」
それは魔術というより、力が宿ったと自己暗示をしているのではなかろうか。
いや、それでも実際に効果が出てるわけだし、三浦にとっては立派な魔術なのかもしれないな。
……こんなことを考える俺も、三浦のノリに大分染まってきたんだろうか。
沢村は会話についていけずにぽかんと口を開けているし、
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