第38話 最後の追い込み

 俺と沢村の2人で毎日ドッジボールの練習を重ねていく。

 他には三浦と女子数名がバレーボールの練習をしたり、バスケットボールに参加する男子のクラスメイトが練習に来ることもあった。だけど毎日6時過ぎまで練習していたのは俺と沢村ぐらいだ。


 今まで体育会系のイベントには最低限しか関わってこなかった俺が、よくここまでやっているなと我ながら思う。


 そして金曜日の夕方過ぎ。


「うおりゃー!!」


 かなりの勢いで飛んでくる沢村のシュートをどうにか受け止める。

 沢村もコントロールが身に付いてきたのか、強くボールを投げても狙いを外すことが無くなってきた。それでもコントロール重視で投げてるからフルパワーじゃないとのことで恐ろしい話だ。

 

 もし他のメンバーが練習に参加していたとしても、この強さのボールを何度もぶつけられたら、まず嫌気がさして全員が練習を切り上げるだろうな。

 俺の場合は身体が頑丈になってるから、どれだけボールをぶつけられても痛くないし、練習相手として適役だったわけだ。


 いつもの様に6時を過ぎたところで練習を終わりにする。

 沢村の強烈なシュートを受け続けたためか、俺もボールを捕るのに大分慣れてきて、守備だけは自信が付いてきた。


「来週月曜になったら、いよいよ球技大会が始まるな」

「そうだよな、本番まで後少しなんだよなー……」


 練習のかいあって、お互いに間違いなく上達している。しかし、沢村は何か言いたそうなそぶりを見せた。


「どうしたよ。何か気になることでもあるのか?」

「いやー、最初の頃と比べてシュートは大分良くなったけど、まだ足りないなって。だから土日も学校に来て練習しようと思うんだ」


 学校が休みでも練習しに行くって本当に熱心だな。ん? ということは……。


「それでその、俺1人だと心もとないから、吉村も来てくれるとありがたいんだけど……できれば午前中から……」


 やっぱり俺もか。

 とはいえ沢村の練習にとことん付き合うって三浦に話したし、俺が試合で成果を出すのを期待しているとも言ってたからなー……。


「いいよ。明日の午前からだな」

「本当か!? ありがとう!! 本っ当にありがとう!!」

「お、おう……」


 沢村が俺の手を握るとブンブンと腕を上下に大きく振る。

 

 普段はこれほどではないのに、こと球技大会に関しては沢村の反応は本当に大きい。それだけ真剣に取り組んでるってことなんだろうけど。


× × ×


 次の日の朝、俺が体育館に向かっていると、途中の廊下で沢村と合流する。


「吉村、今日も頼むぜ!」

「おう。残り2日、しっかり練習するか」


 昨日の夜、球技大会に向けて土日も練習すると母さんに話したところ、「ずっと帰宅部で運動音痴のあんたが、まさかそこまでやるなんて思いもしなかったわ」とほめているのか、ディスっているのか微妙な反応をされた。

 とはいえわざわざ弁当を作ってくれたのだから、ありがたい話ではある。


「吉村ー、今日は全力でボールを投げていくからよろしくなー」

「あいよー」

 

 沢村はこれまでコントロール重視で投げるために、腕の振りを小さくしていた。

 しかし、今日は大きく振りかぶってシュートしてくるため、これまで以上の勢いでボールが飛んでくる。


「うおっ!!」


 シュートがあまりに強いため、俺はボールを受け止めきれずに取りこぼした。


「本気を出すと流石に凄いな!!」

「そうか? でも狙いがまだ怪しいからそこを何とかしたいんだよ」


 しばらく沢村のシュートを受け続けてみるが、全力の状態だと4回に1回は狙いを外してしまう。とはいえ、最初と比べたらコントロールは大幅に改善されている。

 

「確かに外すこともあるけど、狙いは大分良くなってきてるから、全力で投げるのに慣れていけばいい感じになるんじゃないか?」

「そうか? じゃあ悪いけど、もうしばらく付き合ってくれ」


 練習を続けていくうちに沢村はだんだん狙いを外さなくなってきたし、俺も沢村の全力シュートを少しずつ捕れるようになってきた。

 日曜日も同様に練習を続けて、夕方を迎えたところで練習を終わりにする。


「後は明日に備えて休んでおこうぜ」


 練習を終えた解放感から俺は両腕を上げて大きく伸びをした。


「吉村、俺達これだけ練習したんだし、球技大会で良い結果を残せるよな!?」

「そうだな。自分でも信じられないくらい練習したんだし……」


 沢村の言葉に同意したところで、ふと思い至る。


 確かに沢村は全力でボールを投げても外さないようになったし、俺は沢村の全力シュートを2回に1回は捕れるくらいには守備が上手くなった。

 その反面、俺の大したことがないシュートでも沢村は2回に1回はボールを取りこぼすし、俺はそもそも必殺シュートをムリヤリ普通にしている関係上、投げるボールの強さが全く変わっていない。

 イメージを調整すればボールのスピードを上げることもできるだろうが、下手にスピードを変化させると、エネルギーが残っている状態で相手に当たる危険がある。そう考えると、どうしても安全重視にならざるを得なかったからだ。


 ……こうして振り返ると、沢村は攻撃ばかりが伸びて、俺は守備しか伸びていない。

 沢村は一度狙われたら、ボールが捕れずにあっさりアウトになってしまうだろうし、俺なら相手をヒットさせるのは凄く厳しいだろう。


 他のメンバーで運動神経抜群な奴がいるならまだ良いかもしれないけど、俺を含めた全員が平均以下のありさまで、まともな戦力が攻撃面で沢村、守備面で俺しかいない。これで試合を勝ち進めるかといえば相当怪しいよな。

 

 考え込んでいると、沢村が俺の肩をバシバシと叩いてきた。


「何悩んでるんだよ! 俺が攻撃して、吉村が守っていけば大丈夫じゃないか!!」


 楽観的だなあ。毎回俺の方にボールが飛んでくるとは限らないんだぞ。むしろ攻撃が厄介な沢村の方が狙われる可能性が高いってのに。

 ……待てよ。


「沢村、試合の作戦で考えたことがあるんだけどさ」

「作戦?」


 この思い付きが上手くいけば勝ち目があるかもしれない。俺が作戦を説明すると沢村が「はあー」と感心した声を上げた。


「そんなに難しい動きじゃないし、確かにそっちの方がいいな」

「まあ大した作戦じゃないけど、やらないよりはいいと思ってさ」


 練習もやり切ったし、作戦も一応考えた。後は試合がどうなるかだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る