第28話 料理なんて二度としないです!
二十八
アクアと契約し、そのアクアと、何故かシュテンを召喚してしまった泉から歩き始めてから二時間。『3』の扉はやはり森林だけしか存在しないのか、依然としてその中を彷徨い続けてるです。
あ、泉から移動する前に、女神の羽衣や際どい下着はしっかり洗ったです。
シュテンやアクアがいくらボクが召喚した下僕とは言え、誰かに汗の匂いを嗅がれるのは嫌です。裸を見られるよりも。むしろ、裸を見られる方がマシです。……減るものじゃないし。
ボクの裸云々は置いといて、二時間もダンジョンを歩けばやはり魔物は襲ってくるです。
「『龍水裂斬!』――ユーリ様。
今も、シュテンの手によってアーマータイガーの群れが殲滅されました。森林は傷付けずに、です。自然破壊ダメ、絶対!
それはともかく、シュテンの放った水龍は木々の間を縫う様に、しかも凄まじい勢いでアーマータイガーの群れへと殺到し、その鎧と化した強靭な外骨格に幾つもの穿孔を
アーマータイガーも、まさか木を避けながら凄まじい水流が押し寄せるとは思わないでしょうし、しかもその水流によって致命傷を与えられるとは思わなかったはずです。
誰が想像出来るです? 水流によって幾つもの穴を空けられ、それによって命を失うなんて。
とんでもなく頼れる下僕ですね!
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
魔物名:アーマータイガー
種族名:獣魔族
ランク:Aランク
特徴:外骨格を持った虎。鉄などの鉱石を体内に取り込む事によって、その外骨格は鎧と化している。体長は4m、体高は2m程の巨体を誇る。肉食。
森林の奥深くなどに単独で棲息するが、発情期を迎えると相手を求めて移動する。
ダンジョンなどでは群れを成す事が確認されている。その場合の危険度はSランク。
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ボクの言い付けをしっかりと守ったシュテンは爽やかな笑顔をこちらに向けてきます。身体は3mと巨大ですが、牛若丸もかくやと言う程のイケメンなのでイラッとしますね……! イケメン、死すべし、です!
それはさておき、そんなイケメンのシュテンですが、やはりかつての鬼神族の王だけあって額の両脇……こめかみの辺りから鋭い角が二本生えてるです。童子水干姿の上、頭からはヴェールの様な薄衣を被っているので、どちらかと言えば般若の様にも見えます。桃〇郎侍にも見えますが。
『あー! シュテンばっかりズルい〜!! ワタシの分も残しておいてよー!』
「お主の様な下等な精霊如きがユーリ様の役に立とうなどと笑止千万。せめて、もう一段格を上げてから進言せい!」
「ま、まぁまぁ! 魔物を倒してくれるなら、ボクはどっちが倒しても問題ないです」
そして、その般若の様なシュテンへと毎回食って掛かるのが水の精霊ウンディーネのアクアです。明らかにシュテンの方が強いのに、よく食って掛かれますね。もしもボクだったら、あんなに恐ろしい力を見せられれば恐ろしくて声なんて掛けられないです。むしろ、全漏らしです。スラさんが股間に居るので下着を汚す心配はないですが。スラさん、万歳!
「ヌヴァー! 主よ。呼びましたか?」
「……呼んでないです」
スラさん、意外と鋭いですね……!
☆☆☆
シュテンとアクアの口喧嘩を仲裁しながらも森林を彷徨い、結局『3』の森林を攻略するのに要した日数は、なんだかんだで二週間にも及びました。その間、討伐した魔物の数は数百にも上るです。……倒したのはほとんどシュテンでしたが。
「これで、トドメです! 『
「グアァァァァッッ!! この【ベリアル】様が貴様の様な小娘如きにぃぃっっ!!!」
ようやく見つけたキーモンスターのベリアルへと、ボクが放った漆黒の混沌の炎がトドメを刺します。この魔法は火属性における神級魔法の一つですね。
以前、『1』の扉の先に待ち構えていたクイーン・ブリオンへと放った超級魔法の『
この魔法の知識……と言うか、他の魔法についてもそうですが、シュテンを倒した後に思い出した戦闘スキルと同時にやはり思い出した物です。
魔法の知識云々はともかく、カオスフレアの魔法を唱える為には、恐らく普通の【魔法士】百人分のマナが必要とされる程です。それだけのマナをボク
無限のマナを持つボクならば、それ程のマナでも一瞬で練り上げて使用出来ます。まぁ、これも物を創るだけの低級神……もとい、創造神であるシヴァちゃんのお陰ですね!
……シュテンとアクアは戦闘に参加してないのかって? その二人が居れば自然界のマナを集める事が出来るだろうって?
アクアの話でもあった様に、このダンジョンは、誰かがボクに試練を与える為に用意されたものです。その為、ボスであるキーモンスターとはボク一人で戦う必要があるし、そもそもシュテンやアクアがキーモンスターへと攻撃しても全くダメージを与えられなかったです。
なので、ボク一人が頑張ってた訳です。理解したですか?
「さすがはユーリ様。拙者の主に相応しき力でありますな!」
『ごめんねぇ〜、ユーリちゃん。キーモンスターにだけはワタシの力が及ばないのよ』
戦闘当初、ベリアルに対して全くダメージを与えられない事に落ち込んでた二人ですが、試練だという事を思い出したのか、最後は試合観戦さながらに応援だけしてました。応援と言っても、ボクへとアドバイス的な事を言ってくれてたですが、二人して意見が違うので何度危ない目に遭った事か。まぁ、無事に倒せたので良かったですが。
ともあれ、龍と悪魔と人間を足して三で割った、身の丈5mはあろうかというベリアルは、ボクの目の前で漆黒の混沌の炎によって灰燼に
でも、きっとそれは扉を開く為の何かですね。という事で、扉の場所まで戻るとするです。しかし、ここに来るまで二週間もかかったので、その距離を戻らなきゃと思うとため息が出るですね。
……と、帰りの大変さを想像していると……
「見て下され、ユーリ様! 彼奴の身体が消え去った辺りに扉の様な物が浮かんで来ましたぞ!」
『きっと出口だねぇ! さ、ユーリちゃん、早く出ましょ!』
「キーモンスターを倒すと出口が現れるとは、意外と親切設計ですね……! では、さっそく!」
……扉が現れました!
こうして、二週間にも及ぶ『3』の扉の攻略は終わりました。道中の事はかなり省いたですが、やはりそれなりに色々とあったですよ? 主に、食事とか。
シュテン達が増え、その分疲労の面では楽になったですが、やはり食事の面では問題が発生したです。
アクアは水の精霊なのでその辺の水滴やボクのマナなどを与えておけば食事の必要はないですが、シュテンは何故か実体化してるので食事が必要です。そしてシュテンはかつての鬼神の王。食事を作るどころか配下の者から用意されていた存在です。となると、食事を用意するのは当然ボクという事になり、オーク肉を焼いて提供したです。
ところが、初めはそれで満足していたシュテンも次第に飽きてきたのか、焼いたオーク肉を見ると顔を顰める様になったです。
ボクの家来という立場だからか文句は言わなかったですが、その顔を見ればさすがのボクも気にするです。
という訳で食べられる野草などを集め、【
……結果、見事にお腹を壊したです。ボクとシュテンの二人とも。
ボクには呪いでもかかってるんですかね!? 煮込み始めた鍋を素材が焦げ付かない様にかき混ぜてただけなのに、どうして毒々しい紫色になるですか!
味にしたってそうです。塩味のはずなのに、何故かとてつもなく苦かったです。それを食べた瞬間シュテンと二人して顔を顰めた程でした。
ですが、せっかく作った以上食べずに捨てるなんて以ての外です。何とか残さずに食べたです。
結果としてお腹を壊したですが、幸いな事に『キュア』の魔法で多少は楽にはなりました。ですが、如何せん、お腹の中に残っていたので、それを排出しなければ完全には治らなかったです。なので、ここでもスラさんが大活躍しました! ……察して欲しいです。
ちなみにシュテンは、しばらくボクの近くには戻って来なかったです。きっとどこかで用を足したんでしょうね。
ともあれ、『3』の扉を攻略した今となっては良い思い出です。
……二度と、もう二度と料理はしないと心に誓いました。
☆☆☆
分岐の間に戻って一休み後、直ぐに『4』の扉の攻略へと向かいました。
あ、そうそう。分岐の間の床に浮き出てきた淡い光の二重円には1から3までの数字がしっかりと刻まれてました。右上から1、2、3、と時計回りに刻まれた所から、やはり時計を表している様にボクには感じられたです。
という事は、きっと12までの数字が揃えば、今度こそこの試練のダンジョンを脱出出来るはずです。
頑張りますよ!
――という事で、さっそく『4』の扉を抜けて入ってきたですが、そこは神秘的な光景が広がっていました。
ちなみに、一つ目の扉の先には真っ直ぐな通路があり、そして一際立派な扉がありました。どうやら、『1』から『12』までの全ての扉の先には真っ直ぐな通路があり、突き当たりに一際立派な扉があるというのは共通の様ですね。最初に転移させられた部屋の扉もそうでした。
話を戻すですが……神秘的な光景とは鍾乳洞の様な通路の事だったんですが、何とその全てが水晶で出来ていたのです。
「ふわぁ〜〜〜!! 綺麗ですぅ♪」
『どうやらクリスタルダンジョンみたいだね!』
「拙者の力でも欠けない所を見るに、これはもしや金剛石では!?」
「……金剛石、ですと!?」
キラキラと光る壁を殴りつけ、シュテンがそう言いました。
シュテンが言う金剛石、それは……つまりダイヤモンドの事です。その言葉に、ボクは思わず目がお金マークになりました。
結果的に言えばやはり水晶だったんですが、それは壁や床を破壊出来ないというダンジョンの特性であり、見た感じは正にダイヤモンドといったものでした。
『金剛石じゃなくて水晶よ! ク・リ・ス・タ・ルだから!!』
「なぁんだ……。ガッカリです」
「……申し訳ございませぬ、ユーリ様」
シュテンは落ち込んだですが、それでも神秘的で綺麗な雰囲気はやはりファンタジー。攻略の意欲も増すってもんですね!
そうして、やる気満々という気持ちで水晶のダンジョンを進み始めましたが、その気持ちは長続きしなかったです。
「くっ!? 『ライトニングボルト!』」
『ワタシの見せ場がやってきたわ♪ 『
「拙者の力が役に立たんとは……! 何と不甲斐なき事か!!」
ボクの放った雷撃が、アクアが作り出した塩水の牢獄に囚われた『クリスタルゴーレム』三体を感電させ、そのコアとなるルビーにも似た心臓部を破壊します。
シュテンが自らの攻撃が効かない事を嘆き、自らの身体でクリスタルゴーレムの突進を押し留め様としましたが、電撃の前にそれはあまりにも危険なので止めました。せっかくの仲間をフレンドリーファイアで死なすのはあまりにも間抜けです。召喚した存在だから本当に死ぬとは限らないですが。
それでも、ボクの手で仲間を攻撃するのは嫌です。
『オオオ……オォォ……ォン…………』
「何とか倒したですが、物理攻撃が効かない魔物、ですか……」
クリスタルダンジョンの入口から進むこと三十分。
初めて現れた魔物は、体長が4m程のクリスタルゴーレムでした。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
魔物名:クリスタルゴーレム
種族名:魔力生命族
ランク:Aランク
特徴:鉱物に魔力が宿り動き出した魔物。
鉱物に魔力が宿っただけで魔物になると言うのもおかしな話だが、一説によるとゴーストが鉱物に宿るとゴーレムと化すという説もある。
体長は、小さい物で手の平サイズから大きな物で山程もある。
マッドゴーレム、ストーンゴーレム、クリスタルゴーレムなど多岐にわたって存在するゴーレムだが、弱点は心臓部にあるルビーに似たコア。魔石はコアの内部にある為、コアを完全に破壊すると魔石も当然破壊される。
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「ルビーに似たコアはゴーレムが活動停止になると石になるんですね……。えっと、魔石は……あったです! しかも、大きさは小さいけど、マナに溢れてるです! これならきっと高値で買い取ってくれるはずです♪」
「拙者にかつての力が有れば
『ふふーん! このダンジョンはワタシが活躍するんだから、シュテンの出番は無いよ!』
クリスタルゴーレムの魔石を回収して目がお金マークのボクと、活躍出来ないと嘆くシュテンに活躍した事を喜ぶアクア。三者三様の感想を述べてますが、そんな余裕があったのもここまででした。
まさか、このクリスタルダンジョン自体が巨大なキーモンスターだったなんて……想像すら出来なかったです……
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