第70話 検証作業
時間操作による傷の治癒。王女の呪いを解く為にしているけど、自分に傷をつけるのは抵抗がある。最初はしたけど、もうしたくない。誰だって自分から怪我をするのは嫌だろう。とは言え人体実験というのは人聞きが悪過ぎる。
父さんにお願いして、領地の教会で怪我の治療をさせてもらおうかな。教会で働く人は神父以外は治癒魔法が使える。ちなみに神父は鑑定スキル持ちがなる事ができる職業だ。教会で働く人の中には治癒魔法が使えない人もいるけど、収入は治癒魔法を使える人に比べて少ない。
そういうわけで俺は父さんの領地に行く事にした。移動方法は瞬間移動で、勿論、アミスに行く事は伝えておいた。
「父様、お願いがあります」
「何だ?突然」
実家の執務室で父さんに話しかける。
「ある事情でスキルの実験をしたいのです」
「スキルの実験なら今までもしていただろう?」
「そうなんですが、今回はスキルの検証に相手が必要なんです」
「…まさか人体実験ではないだろうな?」
「悪く言えばそうなります」
「それは、ならん」
「内容だけでも聞いてもらえませんか?」
「………聞こう」
良かった。話は聞いてもらえるみたいだ。
「実は時間操作の実験なんです。傷を負った際、時間を巻き戻して傷を負わない状態に戻せるか試したいんです。自分では成功したんですけど、やはり自分で自分を傷つけるのは、何度もしたくないので」
「…ふむ。だが結界で自分が怪我をする心配はないだろう?」
「そうなんですけど、今回は自分の怪我が問題ではないんです」
「他人の怪我、か。ラソマが人体実験をしてでも治したい相手か。誰なんだ?」
「まだ言えません」
相手は王女だからな。いつかは言えるかもしれないけど、現状では言わない方が良いだろう。
「その相手は傷が回復した際、害を成す存在か?」
「いえ、断じてそういう存在ではありません」
「そうか…」
そう呟いて父さんは目を閉じて考え込む。俺は黙って待つ。やがて父さんは目を開けた。
「人体実験は難しい。だが教会で怪我の治療をしているのは知っているな?そこで怪我の治療をするのだ。神父様には私から話を通しておこう」
「ありがとうございます!」
良かった。俺の考えていた事になったな。さて、教会で働いてくるか。
「神父様、今日はよろしくお願いします」
教会で神父に挨拶をする。
「ラソマ様、レミラレス伯爵から話は聞いております。具体的にどのような事をするのですか?」
「スキルの検証です。俺のスキルは超能力ですが、その中に時間を操作できるものがあります。その時間操作で、相手の傷を治そうと考えています」
「なんと!時間操作ができるのですか!?いやはや、英雄と呼ばれる方は凄いですね」
「神父様まで英雄だなんて…」
本心から凄いと褒めてくれる事に照れてしまう。
「しかし時間を操作して怪我を治すとは、珍しい考えですね。普通なら治癒魔法を使うのですが。具体的にどうするのですか?」
「怪我を負った箇所の時間を巻き戻して、怪我を負っていない状態に戻します。実際に見てもらった方が早いですね」
そう言って俺は自分の腕に結界刃で傷をつける。勿論、結界を張って無菌室のような状態にしている。
「な、なにを!?」
「大丈夫です、見ていてください」
そう言って時間を巻き戻して傷をなかった事にする。
「なんと!」
「こういう感じです」
「時間操作はそのような使い方もできるのですね。しかし、自分に傷をつけるのであれば先に言って欲しかったです。驚きましたよ」
「す、すみません」
確かにそうだな。説明不足だった。
「ですが、その方法なら傷を治せますね」
「はい。ただ、自分以外にした事がないので、そこが不安なんです」
「治癒魔法でも最初は誰でも初めてですよ。万が一何かが起きても、私達がカバーします」
「ありがとうございます」
神父の言葉に後押しされて、俺の実験が始まった。…実験と言葉にするのはやっぱり嫌だな。
さて、結論だが、スキルの検証は無事に成功した。特筆すべき事はない。最初の人の怪我は小さかったけど、時間操作で簡単に治す事ができた。2人目も3人目も、最終的に少し大きな怪我の人も来たけど、治す事ができた。
「素晴らしいですね!」
検証が終わってから神父と話をする。
「治癒魔法と違って、魔力切れが無いというのも良いですね。魔力には限界がありますから、普通なら1人でこんなに大人数を治す事などできないんですが」
「そうですね。限界がないというのも不思議な話ですが、こういう時は役に立てるので嬉しく思います」
「このまま教会で働いてほしいくらいですね」
笑いながら神父は言う。雰囲気的に半分本気で半分冗談だろう。
「それでは俺は帰ります」
「もう良いのですか?」
「はい。お陰で時間操作で治す事ができそうです」
「治癒魔法で助けられるなら教会としても協力したいのですが、そうではないのですよね?」
「はい。どうやら治癒魔法も効かないらしいので」
「その方がどなたなのか、どうしてそのような状態になっているのか知りたいですが、詳しく言ってくれない辺り、知らない方が良いのでしょう。ラソマ様、その方が無事に治る事を祈っています」
「ありがとうございます」
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
屋敷に帰った俺をアミスが出迎えてくれる。
「今日の成果はどうでしたか?」
「うん、良い結果に終わったよ」
「それは良かったです。明日はどうされますか?」
「うーん、まずは手紙を書こうかな。いきなり行ったら無礼になるし、会ってくれないと思うから」
「…失礼ですが、どなたに手紙を出されるのですか?」
これはどうせアミス経由で手紙を出すから言っても良いかな。
「国王陛下にだよ」
「!!?」
俺の言葉にアミスが驚く。まあ当然だよな。
「こ、国王陛下にですか?!分かりました。気を引き締めておきます」
「う、うん、そんなに大袈裟に思わなくても大丈夫だからね」
アミスが持って行くわけじゃないし。郵便ギルドの人は驚くだろうけど、その道のプロだし、何かしらのトラブルなんて起きないだろう。なんて言ったらフラグになってしまうかな。
翌朝。俺は国王に手紙を書くと、それをアミスに手渡す。ちなみに検閲される可能性を考えて、王女の呪いについてとは書いていない。王女の件で、と書いた。これならどういう理由なのか、検閲する人は分からないだろう。
「そ、それでは預からせて頂きます」
「緊張しないで。大丈夫だから。ね?」
手紙を受け取ったアミスは緊張している。そんなに緊張する?例えば前世なら総理大臣に手紙を出すような感覚かな?いや、こちらの国王と似た身分の方か、…うん、緊張するな。
その後、アミスはきちんと手紙を出してくれた。
3日後の朝。俺の元に城から手紙が来た。内容は簡単に言えば、城に来いという事だ。というか手紙と一緒に馬車も来た。これに乗って城に来るようにという事らしい。俺はすぐに支度を済ませて行く事にする。
「それじゃあアミス、行ってくるよ」
「はい。お気を付けて」
そうして俺は馬車に乗り込んで城に向かった。城に到着すると謁見の間ではなく、何故か応接室に通された。椅子に座っていると、国王と王女が入って来た。国王と王女も椅子に座る。
「ラソマ伯爵、久し振りだな」
「陛下、お久し振りです」
「ラソマ伯爵、お元気そうで何よりです。今日は私の件で話があるとか?」
「はい。実は最近、王女殿下の呪いの解き方を考えていました」
「ま、待て!クリスの呪いの事をどうして知っているのだ?!」
「え?王女殿下から聞きましたが」
国王が驚いている。
「お主、ラソマ伯爵に話したのか?」
「はい。別に秘密にしているわけではないですし、ラソマ伯爵は信用していますから」
王女は毅然とした態度で言ってるけど、やっぱりあまり話すべき内容じゃないよな。
「そ、そうか。それで呪いの解き方は見つかったのか?」
「見つかりませんでした。ですが、解けるかもしれない方法は見つけました。私のスキルを使うのですが」
「どのように使うのだ?」
国王に聞かれた俺は、考えていた方法を話す。その過程で、父さんの領地の教会で他人の傷を治せるか検証した事も話した。
「既に検証済みか。しかし成功したから良いようなものの失敗する可能性もあったのだろう?次にそういう危険な検証をする時は余に言うが良い。うってつけの人材を用意しておこう」
「ありがとうございます」
どういう人材が用意されるんだろうか。失敗しても良いとなればどういう人材か…考えるのが怖いな。
「さてラソマよ。クリスの呪いを解く自信はあるか?」
「…正直に言うと難しいです。絶対というのは無いと思っていますから」
国王にそんな事は言いたくなかったけど、そういう嘘はつきたくない。
「うむ。その通りだな。絶対などない。それを聞いてクリスよ、どうする?ラソマの案で呪いを解いてもらうか?」
「はい!私はラソマ伯爵を信じています。それにもし失敗したとしても、誰も恨みません。今だって、こんな姿で生きているんですから」
「クリス…」
王女の言葉に国王が辛そうな声を出す。
これは絶対に成功させないといけないな。絶対なんてないけど、限りなく絶対成功に近づける!
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