第58話 詰めの甘さ
「こっの……ば、化け物め―!!!!」
ユナに抱きしめられているのを、無理やり解き、ケイに向かって手をかざす。
「炎と風よ、1つになり、水で包んで爆ぜる玉となれ!『合成魔法』!」
「止めてちょうだい、フラット! お願いだから、母の言うことを聞いて! 離れないで!」
母であるユナには、わかっていた。目の前にいる化け物達には、絶対に勝てないと。
だが、フラットは親の気持ちも知らずに、手のひらで炎の竜巻を作って、水で圧縮させていく。
「今度は外さない! これさえ当たれば、お前なんて死ぬんだ! 喰らえ!」
「あ? なんだクソガキ?」
「行っけぇぇぇぇぇえ!!!!!」
直径3cmの小さな『合成魔法』はケイを目掛けて、一直線に飛んでいった。当たれば包んでいる水は弾けて、圧縮された炎の竜巻は一気に解き放たれる仕組みだった。
「そ、そんな……」
「へぇ、これ、そんな仕組みだったのか」
ケイは飛んできた球体を、腕を伸ばして握り潰した。その瞬間、ボンッ!と音がなり、指と指の間から湯気が出てきた。ただ、それだけだった。
「あ、当たれば……即死の……」
「うーん、あの小賢しい鳥の温度に比べたらあんまりだな」
「そ……そんな、そんな訳あるかぁぁぁぁあ!!」
再びフラットは掌で『合成魔法』を作り出そうとしていた。だが、そんなフラットを止めるのは母親であるユナであった。ユナは再び抱きしめて、フラットが作り出そうとしていた『合成魔法』を止める。
「フラット! もう止めなさい!」
そして、すぐさまケイに向かって土下座をした。
「お願い……お願いします。どうか、この子だけでも助けてください!」
「お母様!? こんな奴に頭を下げるなんて!」
「黙りなさい! お願いしします、この子だけでも……」
ユナは必死に「お願い」をする。何度も何度も頭を下げて、泣きながら乞う。
「………………」
「ユ、ユナ? 何をしてるんだ! こんな……こんなやつに頭を下げる必要なんてないんだ!」
必死にお願いをするユナに対して、街と執事達を全滅させられたことによって呆けていた松風が反論した。それは、フラットの行動を加速させるものであり、ユナの願いを踏みにじる言葉だった。
「そうだ、お母様! よく見ててよ。さっきのきっと間違いなんだ! 僕はこんな奴に負けるはずが無いんだ! 炎と風よ、1つに──」
「俺はな、例え何されようと殺す」
その言葉を聞いた瞬間、ユナは叫ぶ。
「そんな! あんまりじゃありませんか!」
「理由は簡単だ。そこのデブの大切な物だからだ。ユイ、水を付けてくれ」
「……ん、『付加魔法──ウォーターハンド』」
ケイの手には、空から降る雨の水滴が集まり、包み込む程度の水玉に右手が覆われた。実際の感覚は、水の抵抗は感じず、いつもと変わらない感触だ。
「──玉となれ!『合成魔法』!」
「何も学ばない。だから、お前は弱い」
「死ねぇぇぇぇぇえ!」
再び一直線にケイに向かって玉は発射された。真っ直ぐ、一直線にケイの顔面に目がけて飛んでいった。
「おい、ぶたァ。もう一度、絶望させてやるからよく見てろ」
「な、なに!?」
ケイは飛んできた玉を右手で掴んだ。
「やった! 弾けろ!!……あれ?」
「これ、要は水の薄い膜を壊さなければ爆発しないんだろ?」
『合成魔法』の招待は、圧縮された薄い水の膜が破けて一気に拡散する爆発させる魔法。ケイの右手には水で覆われており、柔らかいクッションのような物になっていたため、水は割れず、玉として掴めている。
「これ、返すぜ」
ケイは一瞬で間合いを詰めた。
「い、嫌だ……やめっ──ゴフッ」
ケイの右手は、フラットの心臓を突き抜けさせた。そこにきちんと玉も置いて行くことを忘れずに。
対して、フラットは心臓を破壊された。口からは血を吐き出し、目からは涙が溢れて、何をされたわからない顔になっている。
即死には違いは無かったが、脳ではないためと、右手の水のおかげで外に血が出ていないことが、ほんの僅かだけだが余命を伸ばしていた。。
「「フラット!!」」
松風とユナは同時に叫んだ。
「あぁ、そう言えば母親が離れたくないってよ。じゃあな」
貫通した右手を引き抜くと、ケイはフラットをその後ろにいたユナに向けて蹴飛ばした。ユナは飛んできたフラットを大事そうに抱き抱えて、穴の空いた箇所を必死に抑えてる。
「あぁ、フラット!! 」
「ユイ、解除」
「……ん、『解除』」
ユナが『付加魔法』を解除した瞬間、出来た穴に溜まっていた水が弾け、それと同時に『合成魔法』が爆ぜた。炎の竜巻がユナとフラットのを包み込んだ。
「あぁぁぁぁぁぁあ!!」
中からユナの悲鳴が聞こえるが、それは次第に小さくなり消えた。比較して、大きい声になっていたのは松風だった。
「なんで……なんでなんでなんでなんで!! 俺……俺の大切な!!」
「その大切な物だからだろ? どうだ壊された気分は? 確か……選ばれし者、だったか? 確かに選ばてるな。 3分の1の確率で生き残れて、10分の1の確率で初めに殺されるんだからな!!」
「……もう、俺は何も無い……」
「あ?」
松風は顔を沈めて、頭を抱えて、ブツブツと独り言を言い始めた。
「そうだ……それでこそ豚だ。憐れに、惨めに膝まづいて頭を下げるのがよく似合ってるぜ!」
「我の力が集中し、1つに纏まる。その力は強力にして、絶大。全てを燃えつくし──」
「あ? なんか言えよ〜」
ケイは蹲っている松風の画面を蹴りあげた。そこに居たのは狂気に満ちた松風の笑顔。鼻血を出しながら、気色が悪くて、薄気味悪い松風がそこにいた。
「……全てを破壊する! ケイ、最後だ。最後のお別れだ。よくも俺の街を、執事立ちを、そして家族を!! 無能の癖に、無能の癖に、無能の……癖にぃぃぃぃい!! お前だけは絶対に許さん! 一緒に来てもらうぞ!」
「……ケイ、この人壊れた?」
「たぶん?」
「『炎魔法、最終奥義──大爆発』」
松風の全身がだんだんと赤くなり、そして、膨れ上がった。体は徐々に大きくなり、風船のように膨れ上がっていく。
「!! こいつ、まさか! ユイ、逃げるぞ!」
「……ん」
「逃がすか!! 俺の恨みを思い知れ!……発動!」
松風が一言、発した瞬間、辺りは一瞬眩い光に包まれ、大爆発が起こった。
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