利き手恋愛~左利き至上主義~

さばりん

第一章 スペシャルヒューマン出会い編

第1話 俺の名前は天馬青谷、左利きだ

 俺の名前は天馬青谷てんばあおや、高校2年左利きだ。

 どうして自己紹介でいきなり左利きなんていうことを言ったのか?

 それはこの国では効き手は今とても重要な人類の要素となっているからである。


 近年、世界中が注目したとある人物の遺伝子研究の結果が物議を読んだ。

 なんと、今まで遺伝子では見分けられないとしてきた利き手の違いが、ついに解明されたのだ。

 論文によれば、『すべての人間は生まれた時から既に利き手の遺伝子は2つの染色体によって決まっており、成長するにつれ、利き手によって様々な違いが生まれてくるようになる。』

 といった内容であった。

 つまりは2つの染色体に右利きと左利きの要素が入っているというのだ。


 そして、その研究者は後にこのようにも綴っていた。

『右利きと左利きの両親を持った子供の中には、2つの染色体が何らかの形で左右両方を持った者が生まれることがある。その染色体を持った者たちは、左利きでありながらも遺伝子的には両腕を使いこなすことが出来る遺伝子を元々持っているため、天才肌で努力家という人間最高峰のスペシャルヒューマンの逸材を生むことが出来るであろう。』

 と述べられていた。

 それによって日本政府は、この論文を信じたことで、ありえないような法律を発令した。


『右利きの人は、左利きの人としか婚約できません。』


 なんと馬鹿げた法案であろうか…しかし、当時の日本人はこの論文を全員が信じ、今後の日本の発達にはスペシャルヒューマンの確保が欠かせないという結論に至ってしまった。

 そして、発令されたのが『利き手婚約条例だ。』


 右利きの人は、左利きの人としか婚約できないという信じられない法律が可決されたのだ。


 そして昨年、全国民の血液検査を一斉調査し、利き手調査を行った。

 左利きの染色体を持った人には、『左利き認定書』という証明書が配られ、常に携帯してなくてはならなくなってしまった。


 今年度からこの条例が施行されるということで、役所には右利き同士のカップルの駆け込み婚が急増し話題になった。

 大人たちは利き手に関係なく結婚するという時代を終えて、利き手を気にする時代へと進化したのだ。

 そして、その国の流れに巻き込まれる羽目になったのが、俺たち学生であろう。

 今までは利き手に関係なく、カッコイイ、カワイイと顔で判断していた恋愛も、利き手で判断しなくてはならなくなってしまったのだから…


 新年度に入り、クラスの奴らは全員が利き手を気にし出すようになった。

 それもそうだ…左利きは全国にも約10%ほどしかいない超レア人種。探すだけでも一苦労だ。うちのクラスは30人弱なので単純計算で約3人ほどしか左利きはいない。そこから男女に性別を分けるとなると、相当な確率でしか廻りあえないのだ。

 

 しかし、世の女子生徒たちは利き手だけで恋愛を決めるなど、そんな馬鹿な奴はいない。

 結局はクラスにいいやつがいなければ、学年内、学校内と捜索範囲を広げていき、イケメンの左利きを探すのだ。

 そして、辿り着く先はうちのクラスにいる爽やかイケメン宮原隼人、サッカー部のエースで左利きという素晴らしいセンスを持った持ち主である。


 俺からしてみれば、サッカーが上手いかといわれればそれなりの選手であることは認めよう。だが、その才能を誑かすように彼は練習熱心ではない。勿体ないうえこの上ない。

 左利きの人がモテるようになると舞い上がった左利きもいるだろうが、そんなのは妄言だ。

 結局は『左利き(イケメンに限る)』が勝ち組になっただけで、右利きの奴らが飼い殺されただけだ。


 そして俺は今、授業を受けながら必死に右手でノートを懸命に取っている。

 何故かって?俺はバレたくないのだ。何故ばれたくないかって?ボッチだからだ。


 俺はこの学校で一緒に遊びに行ったりクラスで会話したりするような友達といえる存在はいない。いわゆるボッチである。

 別にボッチが好きなわけでも嫌いなわけでもない、一人の方が都合がいいのだ。

 友達からの面倒な誘いもなければ、相手の自慢話を永遠と聞かされることもない。

 つまりは基本自分のペースで自分の世界で学校生活を謳歌できる。

 ただ、一つ欠点なのはグループ決めの時に、いつもお零れになりどうしようかと全員に迷惑を掛けてしまうことぐらいだ。


 それにだ、ボッチの俺が左利きだとみんなにばれてみろ、クラスの奴からは絶対にこういわれる。


「天馬って左利きらしいぞ。」

「え?マジであの天馬が?キッモ…」


 こうなる未来が俺には見えている。だから俺は、左利きを隠すため慣れない右手で必死にノートを取っているのだ。

 

 俺が悪戦苦闘しながらノートを懸命に取っていると、右隣から視線を感じる。

 チラっと気付かれないように見ると、隣の席の綾瀬望結あやせみゆがこちらの様子を伺っていた。

 耳から掛けていた茶髪がかったスっとした真っ直ぐな黒髪が落ちて、その髪を再び耳に掛けながら首を傾げて、こちらを覗き込んでいた。

 話したことはないが、綾瀬さんはなんだかんだで2年連続で同じクラスなので顔は知っている。

 普段は全く興味も示さないくせに、今日は何故だがじぃっと俺のことを見つめていた。

 俺は居心地が悪くなり、くるっと頭を動かして綾瀬さんの方を見る。

 すると、ビクっと体を震わせ驚いた表情をし、小顔の中にあるクリっとした可愛らしい目を見開いたかと思うと、すぐに体を黒板の方へと向き直してしまった。

 何事もなかったかのように綾瀬さんはペンを持って黒板を見ながらノートを取りだした。


 俺もようやく黒板の方へと顔を向けて、ノートを再び右手で取りだす。って先生の野郎…俺が書いていた所消しやがった…これは後で聞きにいかないとダメだな…

 そんなアクシデントがありつつ、時間は過ぎていった。

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