予知と強化身体能力、変身能力と頭脳があれば他いらなくない?
六枚のとんかつ
プロローグ
「これから6秒後に君は今日の朝8時57分に、缶コーヒーではなくいつもよりカフェイン量が多いドリップコーヒーを飲んだことによって、トイレに行きたくなる。」
裸電球の明かりだけがともる倉庫の中で、椅子に縛られている黒い髪の少年が突然そんな事を話し初めた。彼を取り囲むようにしている大人たちは皆、鼻で笑っていたがその少し後に、一人の女性が急に不自然な動きをしながら、倉庫の外に出て行ったので、笑いは少しづつ収まっていった。
「…本当にこいつか…」
「噂は本当だったみたいだな…」
などと口々に少年の周囲を囲む大人が話し始める。それを見た少年はニコリとして更に続けた。
「そしてその女性がトイレに行くことにより、警備の人数が5人から4人に減少する。それによってこの倉庫には、12秒間6.7平方メートルの死角が出来る、その隙をついて僕の仲間がー…まって、おじさん今日の朝食はホットドック?」
少年が目の前にいる三十代半ばほどの男に急に質問した。
「それがどうした。」
男はぶっきらぼうに答えた。
「ああ!その方法はまずいよ茜!」
少年がそう叫んだ瞬間、先ほど外に出て行った女性の悲鳴が聞こえた。
最初の方は大きかった悲鳴が少しづつ小さくなっていくのは少年にも、他の男達にも分かった。その代わり、小型のエンジンを動かすような機械音だけはどんどん大きくなっていった。
「あ?なんだこれ…鍵掛かってんのか…。」
黒いスーツを着た女性が外に出て行った扉の向こう側から、まだ年もいっていない女性の声が聞こえた。
「よーいしょっ!」
扉の向こう側にいるであろう女性が掛け声とも取れる声を発した瞬間、凄まじい金属音が倉庫に響き渡った。
椅子に縛られた少年を囲む大人たちが激しく動揺し、中には冷や汗を流すものもいるなか、椅子に縛られた少年だけは、
「なんでそういうことをするかな…。」
と呆れたような口調で呟いた。
十数秒後に激しい金属音は鳴り止んだが、小型エンジンの音は今だ聞こえている。やがて黒いスーツの女性が出て行ったドアから女子高校生ほどの年恰好をした女性が立っていた。しかし、ただの女子高生のような格好ではなかった。
学校の制服のような紺色のブレザーに、膝が少し見えるほどの丈のスカート。
ただし、そのどちらにも制服の学校がわかるような校章や、ボタンは付けられていなかった。しかし、そんな校章がついていない事をかき消すほどのとんでもないものを彼女は持っていた。
「茜、どこからそんなもの持ってきたの?」
茜と呼ばれた高校生のような格好をした、女性は何か赤いものが付着した手でセミロングの黒髪をなでながら、
「伊織の私物だ。『借りるぞ』って言って持ってきた。あいつは寝てたけど。」
「貸し借りの契約成立してないじゃない…。」
茜と呼ばれた女性が持っていたのは、高校生だろうと大人だろうと、使うことなどほとんどないであろう、超巨大チェーンソーだった。
「その…全身についている赤い液体はなんだい?」
椅子に縛られた少年は、なぜか全身に正体不明の赤い液体がこびり付いている茜に対して、そう聞いた。
「そうだな…ケチャ…ップ?」
「なんで疑問形になるのかな!?」
「おい!お前は何処のどいつだ!」
黒いスーツを着た体つきの良い男が茜に対して指をむけ、怒鳴った。
茜はにやりと意地の悪い笑みを浮かべ、チェーンソーの紐を引っ張り、エンジンを更に蒸かせた。
「悪いけど聞いても無駄だと思うぜ?」
その瞬間、茜は男に向かって目にも留まらないスピードで走り、そのまま体つきの良い男に向かって飛び掛った。チェーンソーの刃は性格に彼の胴体をとらえ、彼女が男の腹に突き刺そうとしているのは、誰が見ても分かった。
「化け物かよ…。」
「そーかもな。」
しかし、茜は男の体を串刺しにしようとしたところで、何か思い直したような顔をして、チェーンソーのスイッチを切った。
「響~お前は見えてんだろ~こうなる未来なんて~。」
響と呼ばれた少年は少しだけ二コリと笑い、
「まあ…そうだけどね。」
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