第八章 魔人同士の対決・その5

       2




「あれ? ヒロキ、どこへ行くんだろう?」


 こちらはお隣の小学校。閻魔姫がスマホを見ながら首をひねっていた。太野裕樹と入力して、ヒロキくんがどこにいるのか確認していたらしい。


「隣の高校をでて、これ、走ってるのかな。高校は授業が多いって言ってたのに」


 休憩中、不思議そうにスマホをいじる閻魔姫に、以前、からんだ小学生ズが近づいてきた。


「太野、学校じゃ、スマホは禁止なんだぞ」


「うるさいわね。またヒロキにポカってやられたいの?」


 面倒そうに閻魔姫が言うと同時に、小学生ズが青い顔で後ずさった。自分より図体のでかい相手に喧嘩を売れる根性が、こんな小学生ズにあるはずもない。糞餓鬼どもが舌打ちして閻魔姫に背をむけた。その代わりに捨て台詞である。


「ふん。兄貴がいるからって、偉そうにしやがってよォ」


「あれは兄貴じゃなくて家来よ。私が魂を狩ったんだから。いまは旦那様にしてあげてもいいかなって思ってるけど」


「え?」


「なんだそりゃ。あのおっさん、ロリコンだったのか?」


「そんなんじゃないわよ。私も、結婚するのは一〇年待てって命令してるし。いいから行きなさいよ」


 と、偉そうに命令してから、閻魔姫が何もない空間に目をやった。実はボタンが立っていたのだが、普通の人間には見えてないから、そのへんの事はわからない。そのボタンが閻魔姫の前でひざまずく。


「なんでしょうか?」


 小声で質問してきた。


「ヒロキのこと、気になるから、見に行ってきて」


「いえ、それはできません」


「あら、どうして?」


「私がこの学校をでれば、ここで閻魔姫を守るものがいなくなります」


「いいから行きなさい。私の命令よ?」


「申し訳ありませんが、こればかりは、閻魔姫様の命令でも聞くわけにはまいりません」


 と、このへんは、さすがに分別のつくボタンの返事だった。問題は分別のつかない閻魔姫である。


「そう。わかったわ。じゃ、今日、私、早退するから」


 と言って立ちあがった。驚いたのはボタンだけではない。それを聞いていた周囲の級友である。


「え、太野さん、早退するって、それ、先生に言わないと」


「面倒だから明日にする。なんか言われたら適当に誤魔化しておいて」


 糞餓鬼どもではなく、仲のいい女子の忠告も風と流し、閻魔姫が赤いランドセルを背負って教室をでて行った。


 それで、どこへ行くのか? ヒロキくんを尾けるに決まっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る