第二章 地獄界考察・その5
「さて、どうするかな」
廊下を歩きながらヒロキくんがつぶやいた。
考えていたのは今後の閻魔姫への対応である。――とりあえず、おとなしく家来として行動して、ご褒美に、不慮の事故で死んだ人間の、余った寿命でも分けてもらうか。それをユウキの寿命に継ぎ足すなりすれば、この娘は死なずに済むはずだ。
「よし。少し積極的に攻めてみる路線で行こう」
「え、積極的に攻めてみるって、どんなアプローチをするの?」
「まずは、相手の顔をたてて、自分はヘーコラする」
「そんな、べつにヘーコラしなくたって。ヒロキくん、男の子なんだから、堂々として、上から目線でいいと思うけど」
「そうはいかんだろ。一緒にいるのも、ただの偶然なんだから」
「そりゃ、最初は偶然だったけど、べつに、相手だって、悪い気はしてないと思うよ?」
「いやいや、いい気も悪い気も、どうとも思ってないはずだ。そういう性格だってのは、よくわかってるし」
「そんな。そういう性格って――女の子って、好きな人の前では、猫をかぶったり、わざと天然のふりをしたりするもんなんだよ? やっぱり、かわいいって思われたいし。本当は、相手だって、ヒロキくんのこと、すごく意識してるんだから」
「そうかァ? そうは思えないけど」
「ううん、そんなことないって。一緒に歩いて、楽しくないなんて思ってるはずないし」
「そういえば、朝、なんとなく、楽しそうに見えなくもなかったな」
自分と一緒に学校まで行く閻魔姫の笑顔を思いだすヒロキくんだったが、ここで、ふと自分の腕を見た。ユウキちゃんの腕がからんでいる。というか、自分と腕を組もうとしている。
「何してんだユウキ?」
「え? あ、あのね、やっぱり、女の子も、これからは積極的に行動しなくちゃいけないかな? なんて思っちゃって」
少し顔は赤いが、相変わらず間延びした調子で、ヒロキくんには好意的な笑顔のユウキちゃんである。天然ボケだか養殖ボケだかデレてるのか、よくわからない娘であった。
「朝の下駄箱じゃあるまいし、気を使ってくれなくていいぞ」
こっちはこっちで大ボケな返事をするヒロキくんであった。
「ところでユウキ、なんで姫のこと、知ってるんだよ? 俺、話したっけか?」
「――え?」
意外そうな顔をするユウキちゃんである。それを見てヒロキくんは納得した表情を見せた。
「知らないみたいだな。ということは、お袋たちと違って、このへんまでは記憶を改竄してないわけだ。これからは用心しとくか」
「あの、ちょっと待って。話が見えないんだけど。いま、ヒロキくん、誰の話をしていたの?」
「だから、姫って名前の女の子の話だよ。知らないで相槌打ってたのか? て言うか、なんでそんな赤い顔をしてるんだよ?」
「え? いや、あの、少し勘違いしちゃってて」
「勘違いって、何を?」
「えーと、それはね」
ユウキちゃんが少し考えこんだ。
「うん、それはね、秘密。ヒロキくんが気がついてないなら、言う必要もないだろうし」
「変なこと言う奴だな」
変なのはヒロキくんである。ラッキー展開を見す見すパーにしたヒロキくんが前をむいた。
「早いとこ戻ろうぜ。五時間目がはじまる」
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