第二章 地獄界考察・その1
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ところ変わって、こちらは地獄界。生前、悪事を働いた亡者が悲鳴をあげながら石臼でひかれたりしている。その中央、だだっ広い地獄界に山がそびえて、そこに巨大な御殿が立っていて、なかは上へ下への大騒ぎになっていた。
「だから閻魔姫はどうしたと言っておるのだ!」
「いえ、それが、その、ですね。なんと言いますか」
「なんと言いますか、ではないわ!! 早くつれてこんかァ!!」
「ははっ。ただいま、四方八方、手を尽くして探しております。これで見つからないとなると、おそらく人間界へ行ったということに」
野球場のように広大な部屋で、土下座して返事をするのは、閻魔大王様の下僕の死神メンバーや牛頭、馬頭といった鬼集団である。とりあえず、この場に五〇〇人以上はいた。「人」という単位が正しいかどうかはともかく。壇上で怒鳴ってる相手は、もちろん閻魔大王様である。身長五七メートル、体重五五〇トン。赤い顔でギラつく眼光を周囲に放射した。
「そうだ。ボタンはどうした? ボタンには閻魔姫の世話をするように命じておいたはずだぞ!」
「そのボタンも消えまして」
「なあァァにいいィィィ!?」
「おそらく、閻魔大王様の命令どおり、いまも、閻魔姫様の世話しているのではないかと」
「では、なぜ儂に報告をせん!?」
「それにつきましては、私どもも、さっぱり」
そんなことより、地獄界の運営はどうなっているのか。
「地獄界の運営などどうでもいいわ! 娘がいないのだぞ! とにかく閻魔姫をつれてこんかァ! 人間界でもなんでも行ってこい! 特別出張は儂が許可する!! 多少の騒動を起こしても目をつぶるぞ!!」
「では、わたくしが」
と、こたえたのは、ボタンと似たような背格好の美人さんの死神であった。ただ、年齢は四、五歳上で、二〇を少し越えたくらいに見える。黒髪は腰まで伸びて、スタイルは、ボン、キュ、ボーンのナイスバディであった。このへんはボタンと同じである。
「おお。そうか。では、アズサ。おまえに命ずる。人間界へ行って閻魔姫を探してこい」
「おまかせください」
アズサと呼ばれた死神が腕を軽く振り、同時にふっと姿が消えた。瞬間移動で人間界へ行ったらしい。閻魔大王様がジロリと残りの部下どもをねめつける。
「貴様らも、さっさと閻魔姫を探してこんかァ!」
「はは! ただいま行って参ります!!」
「じゃ、わかれるぞ! おまえたち、もういっぺん炎熱地獄を見てこい! 俺は等活地獄をまわってくる!」
などと言いながら、蜘蛛の子を散らすように死神集団が大広間から消えた。大広間に残るのは閻魔大王様おひとり。さて、本来の職務に就くのかな、と思いきや。
「閻魔姫、一体どこへ行ったんだい?」
壇上の閻魔大王様、机の上の写真立てに目をむけた。キュートな女の子の写真が飾ってある。
閻魔姫であった。閻魔大王様がしみじみと写真を眺める。
「閻魔姫がいないと、仕事なんかしたくないよ。パパは寂しいよ」
ナマハゲみたいな顔をして、自分のことをパパなどと言う閻魔大王様であった。机の上にはほったらかしの閻魔帳。部分的にひきちぎられてるなんて、気づいてもいないらしい。それどころか、地獄界の管理をしている鬼の皆様も閻魔姫を探して奔走中で、現在、通常業務も無茶苦茶。地獄界の釜の封印が緩み、幽閉されていた魔人が逃げだしたことなど、想像もしていないのであった。
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