第3話 ジルコニアスの決断
王宮の姫になりたくなかったフィアナは、趣味だけで仕事をしているのではなかった。ささやかな反抗心を燃やしながら、わざと身勝手な行動をとって嫌われるようにしむけている。
たとえ貧しくて、不便の多い庶民の生活だったとしても、彼女はそんな昔の日々を愛していたからだ。
自らの力で努力し、何かを成し得て掴み取る。その代わりに責任を持ち、何かを失い捨てると言うリスク背負わざるをえなくなる、という……そんな失くしてしまった過去の日々を。
原作ではその問題は、偶然王宮に訪れた隣国の王子によって解決してもらう事になっていた。
フィアナの悩みを真摯に聞いた王子は、困難さゆえに長年形式ばったものとなっていた、何でも願いが叶う魔法の場所と言われる、国内ダンジョン……月の塔の踏破を提案。貧しい物が少ない内という現状である国に富みをもたらす為、奮起する事になるのだ。
そのシーンはゲームでは結構なターニングポイントとなっており、そこで、ジルコニアスルートか、その王子ルートに進むか枝分かれるするのだった。
だが、ジルコニアスはその分岐ルートを発生させないように仕組んでいた。
好きになった女性が、他の人間の所に行かないようにと。
自分のスケジュールを調整して、その王子が来る時はフィアナに接近しないように、自らが相手をかって出る事にしたのだから。
ある夜の日、ジルコニアスはどうにも眠れなくて王宮の中を出歩く事にした。
と、ふとフィアナの姿を見つけてしまい、後を追う事にする。
彼女は何やら、普段は見せない様子で落ち込んだ顔を覗かせながら歩いていた様なので、どうにも気になってしまったのだ。
やがてフィオナが辿り着いたのは、王宮のテラス。
王宮の生活が気に入らない彼女だがここは気にいているようで、彼女がよく訪れる場所だった。
彼女が、テラスにやってくると、何羽かの鳩がやってきた。
それらは彼女が庶民だった頃から、パンくずなどで餌付けして仲良くなった動物だ。
場所が変わっても、餌付け人が分かるらしく、王宮にもやってくるのだ。
「はぁ」
フィアナはため息を零しながら、鳩へと語りかける。
「退屈ですわ。味気ないですわ。生きてるかいがないですわ」
それほどか。
彼女は生きてないようだった。
「王宮の人たちの事情は分かってるんですけど、でも息が詰まりそうなの。私が私じゃなくなってしまいそうで、怖い。私は我がままを言うべきではないのかしら。我慢すべき?」
己の腕を抱いたフィアナが震えるのは、夜の寒さだけではないだろう。
「……帰りたい」
ポツリと呟かれた言葉は、おそらく誰にも聞かせた事のない本音だろう。
――初めて会った日のあの瞬間。
婚約を拒絶されるまでの数秒で、ジルコニアスの未来は結局こうなる様に決まっていたのかもしれない。
彼女に一目ぼれして、自分の手の届く範囲から決して逃がしたくないと思ってしまった時から。
思いの通わぬ出会い。
中身の伴わぬ初恋。
外身だけの淡い恋。
このまま日々を過ごせば自分に振り向いてくれるかも、なんて他のルートをつぶしていたが、それももう終わりにすべきかもしれない。
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