短編

フラスコの夢01 「ニオの日記」




 私の名前はニオ・シュタイナー。

 昔はニオ・ウレムっていう名前があったけど、その名前は今はもう使っていない。


 私の住んでいた国が滅んでなくなっちゃったから、必要なくなっちゃったんだ。


 家名であるウレムはそこそこ有名で、王家と共に歩んできた歴史の深い名前だ。


 だから、いつまでもその名前を使い続けてると、要らない災難とかを引き寄せかねないから、今はシュタイナーをやってます!


 そういうわけだから、住んでた国が滅んじゃった私は、隣国だったグランシャリオに移り住んで、これまでニオ・シュタイナーとして過ごしてたんだけど……。


 もー、国と関係なくなっちゃったから、これでもう普通の女の子になっちゃうのかなーとか、思ってら、全然そんな事はなかったみたい。


 色々あったよねー。


 昔のニオって、王様の護衛になろうって頑張ってたから、その特技を生かしてこの国の騎士学校に入学したんだけど、そこで出会った女の子がもうびっくり!


 聞いて、驚きの塊なの!


 クマさんはばっさりやっちゃうし、遺跡のガーディアンもばっさりやっちゃうし、とっても狂剣士さん。


 あと、何かそういう体質? なのかな?

 色んな事に巻き込まれて、困ってる人の悩みを解決したりとか、悪さをした人を懲らしめたりとかも結構してるみたい。


 びっくりだよね!


 でも、そのおかげで私は変な事とかあんまり考えずにすんでるし、毎日とても楽しく過ごせてるよ。


 だから、エル様へ。


 もしこの手紙が届いてたら、ニオのこと見ててね。


 ニオはもう昔みたいに泣き虫、ニオじゃありません。


 だから、安心してていいんだからね。


 あ、

 でもでも、やっぱり寂しいから時々はニオの事とか考えてくれると嬉しいな。


 もしエルに会えると時がきたら、たくさんたくさん聞ききれないくらいのお土産話をもってくね。


 大好きだよ!

 







 フィンセント騎士学校敷地内 女子寮 個室


 私はそこで、流れるように紙面に綴っていた文字を止めた。


 「よーし、久しぶりのお手紙終わりっと」


 目の前にあるのは、気持ちの整理をつけたい時に書こうと習慣づけていた手紙。

 一通分の量の文字を書いた私は、キリのいいところまで書き終わった為、その場に立ち上がってうんと伸びをした。


 ほんの少しだけ、エル様の事が懐かしくなったので、机の上で少しだけペンを走らせていたのだ。


 もうこの言葉が届かない事は分かっているけど、やっぱりまだまだ寂しくなったり、言葉を聞いてほしい時がある。


 私は、最後にもう一通りだけし、手紙に目を通してから、引き出しの中にしまった。


 後はもう寝るだけだ。

 机のライトを消し、布団をかぶった。


 ふかふかの布団は私のお気に入りで、寮の備え付けのものを改造し、ちょっぴり中身を良い物に入れ替えていた。


 親しい人だけの秘密で、ちょっとした規則違反だがここを出る時はちゃんと元に戻しておくので、それで許してほしい。


 私は布団にはちょっとこだわりがある。

 なぜなら、寂しい時にエル様の布団に潜り込んだ時の事を思い出すからだ。


「昔のニオは、泣き虫ちゃんだったもんねー」


 昔の私は、今よりうんと怖がりだったから、色んな事が怖くて夜の闇とか怖くて眠れないと言って、よくエル様を困らせていた。


 一緒にお布団に入って、私をなだめてくれたエル様の優しい言葉は、今でもしっかり思い出せる。


「ふぁ、こんな風にまだ学校の生徒やってられるなんて、ちょっと信じられないよ」


 私はあくびを噛みしめながら、物思いにひたってみる。

 ちょっと前までは、エル様のかたき討ちで先生を殺したら、ここから逃げるしかないだろうと思っていただけに、不思議な心地だった。


 復讐を諦めるのは、かなり勇気のいる事だったけれど……。


「でも、これで良かったのかも。ステラちゃん達と一緒にまたいられて」


 今日一日を思い出すだけでも色々な事があった。

 うっかりステラちゃんが授業で、クラスメイト全員打倒を果たしてしまったり。

 ツェルト君がステラちゃんに相手にされなさすぎて不便だったり。

 ライド君がニオに逐一話しかけてくるから、適当にあしらったり。


 昼食の時間には、人手が足りない調理場の手伝いをする事になったし、放課後には先生の知り合いである変なメディスンだかメディックだか言う研究者さんみたいな人が、フラスコみたいなの持ってなんかやってたし。


 だからきっと、明日も明後日も友達との楽しい日々が待ってるだろう。

 それが何よりも素敵な事のように思えて来て、これからの事を想像しながら布団の温もりを存分に享受していた私は、次第に夢の世界へといざなわれていった。



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