第26章 裏切り者でも嘘つきでもなく大嫌いの意味
結局は私達が最初に見つけた最奥は、本当の遺跡の奥ではなかったらしい。
できるだけ大きくて目立つ通路を選んで歩いて、私達が見つけたその場所はフェイクだったのだ。
肝心の本命は、もっと複雑な迷宮の先……。
入り組んだ通路の先で、ガーディアンに守られていたのだ。
この遺跡はやはり学生向けではない。特異遺跡だった。
行く先から響くのは……。
重たい衝撃音。
そして剣戟。
何かが壊れる音が絶えず響いている。
あれから数分彷徨った後に、どこからか響いてくる音を頼りに探し当ては、本命の最奥では、暴れ狂うガーディアンとそれと戦う先生の姿があった。
「いた!」
生きて無事でいてくれた事が私は何よりも嬉しい事だった。
けれど……。
信じられないと言った風に喋るツェルトと私の心境も同じような感じだった。
「マジか、三つ首の竜とかおとぎ話の存在かと思ってた。でも、勇者がいるなら、かろうじてアリ?」
その先生を手こずらている相手が強大過ぎたのだ。
なぜならそれは……伝説の中の、それこそ絵本の中でしか見た事が無い生き物(それも首が三つもある)、竜だったから。
そんな中、戦闘に集中していたらしい先生がはっとした声を上げる。
「この気配、ステラードにツェルトか!? 馬鹿お前ら、何でここに来た」
「馬鹿はこっちのセリフですよ、どれだけ心配したと思ってるんですか」
「いや、気配で俺達って分かるの何げに凄くね。え? 普通なのか、これ」
ツェルトが何か言ってるが、全然普通の事だったので別に気には留めたりしなかった。
「こいつはお前らの手に負える相手じゃねぇ、自分の力量考えやがれ」
私達の存在に気が付いたらしい先生が、振り返らずに言葉をかけてくるが反論したくなったのは当然だろう。
ひょっとして、あの人は今までずっとあんな敵と戦っていたというのだろうか?
もう数日も経っているのに。
ライドにどこかに閉じ込められてでもいるかと思ったのに。
心配してちょっと損した。
こんなだったら、あの数人の生徒達を閉じ込めた彼でもどうしようもできないはずだ。
「加勢します!」
「やめろ、死ぬぞ」
「そんな事言ってたら、先生の方こそ」
先生はあの時見たいにボロボロの姿になっている。
手助けしないと死んでしまいそうなのは、そっちの方こそ、だ。
決着をつけられていないという事は膠着状態なのだ。
そのままじりじりと戦闘が続いたとして、体力が尽きるのがどちらなのかはおそらく人間の方が先だと考えるのは普通だろう。
「大丈夫です。自分の身くらい守れますから、こういう時くらい頼ってください」
誰かを守れるくらいに成長した、とまではまだ胸を張って言えないかもしれないが、自分一人のみを守れるくらいにはなったはずだ。
ただ少し、ほんの少しでもその合間に相手に一撃入れられる余裕があるかもしれない……。
そう考えれば私が加勢しない理由はどこにもなかった。
目の前の光景。
観察すれば恐るべきレベルの先頭が繰り広げられている、
三つの首はそれぞれ自在に動いて先生を追いかけているし、咢が開いて凶悪な歯がガチガチ言っている、たまに空気を吸って吐き出す暴風は貯まった物ではなさそうだった。
それでも、私が剣を持たない理由にはならない。
肝心な時に大切な誰かを助けられない騎士なら、なる意味がないのだから。
私は適切な距離を保ちながら、位置取りをする。
たまに先生向けに飛んでくる攻撃の余波を回避しながらも、慎重に機会を狙い続けていた。
今は先生の動きが一番の脅威と認定されているのか、ステラ達まで敵の脅威がこないのが幸いだ。
「く、ここで頑張らなきゃどこでやるんだ」
ツェルトも鬼の力を使って出来る限りの事はしてくれるつもりの様だった。
けれど、相手は勇者である先生程の人が手こずる竜。
気を抜けばステラ達などは一瞬でやられてしまうだろう。
だがそれがどうした。
「……上等よ。命の危機に瀕したことなんて、一度や二度じゃないんだから、ただ力が強いだけの相手に負けるつもりなんてないわ」
敵の格が上だから何だという話しだ。
理不尽な状況など、現実にはいくらでも転がっている。
それくらいひっくり返せないようでは、騎士としてやっていけない。
慎重にそうして機会を伺い続けて、そしてやがてタイミングが訪れた。
敵の背後にまわりこめる位置取りを得て、ステラは剣を迷うことなく剣をふるう。
狙うのはあらかじめ先生がつけた深い傷がある場所。
「ツェルト!」
「おう!」
撃てば響く様な答え。
打ち合わせは不要だった。
「やああっ!」
剣を振って、傷口に一撃を捻り入れる。
そこに息をあわせてツェルトの剣が合わさって、さらに深く傷口を抉っていった。
その一撃が急所だったのか、たまたまだったのか分からないが、敵は身動きを止めて硬直。
その隙を逃す先生ではなかった。
「ぜりゃあぁぁぁ!」
声がして、気が付けば三つあった首が一つ落ちている。
「うらぁ!」
次いで二つ目。
そして、三つ目、と行こうとしたことろで敵が再起動。
怒り狂ったかの様に、その場でのたうち回るのだった。
わたしたちは慌てて距離をとる。
痛みで意識がそれているようだ。
進んで狙われる事は無い。
「あのまま待ってたら、自然に倒れてくれたりしないかしら」
「普通の生物ならそうかもだけど、でもあれってガーディアンだろうし、どうなんだろうな」
普通の生物とは違う造りをした彼らに常識は通じない。
放っておいて様子見をしたせいで、回復してもらっては目も当てられないだろう。
仕掛けるなら今が一番の後期。
だが、相手の動きが読み切れない。
どうするべきかと、攻めあぐねていると、一つとなった首が部屋の内装に頭突きを食らわすようになった。
その動きに伴って、もともと戦闘でボロボロだった壁が更にボロボロになっていってしまう。
「ひょとして、まずいかしら」
「まずいな、これ」
まさか生き埋めにするつもりだろうか、と思ったが違ったようだ。
敵は剥がれたがれきを、噛みつく様にして剥がし、それらを口にくわえて投げつけて来たのだ。
「っ!」
その予想外の行動に、反応が遅れた。
しかも偶然にその方向は私のいた方。
まずい。
そう思うが避けるだけの時間は残されていなかった。
襲い来る衝撃に身を強張らせていると、横合いから誰かが飛び出してきて、ステラの体を抱きしめてその場から飛ぶ。
がれきは音を立てて、どこかの床に当たったようだ。
「ステラちゃん、大丈夫!」
「ニオ……?」
「もう、こんな所にいるなんてびっくりだよ、見つけるのに苦労したんだから」
他の誰でもない。助けてくれたのは彼女だった。
「ほら、よそ見しないで」
促されて視線を戻すが、正直聞きたい事があり過ぎて混乱していた。
あんな風に言われたのに、どうして追いかけて来たのだろうか。
先生を殺す為に?
それとも……。
「ごめんねステラちゃん。本当は分かってたんだ、ツヴァイ先生を殺してもどうにもならないって事。でも、自分に出来る事が無いって事を認めたくなかったから……」
諦めて、くれたのだろうか。
「約束するよ。もう馬鹿な事はしない。だから、もう一度だけ信じて欲しいな」
「ニオ……」
私はどうすればいいのだろう。
どうしたいかは分かる。
どうするべきかも。
けど、最後の迷いがあった。
自分の行いで、自分が迷惑をこうむるのならば仕方はないと思えるが、人の命がかかっているとなると……。
「自分で決めろステラード、お前はもう小さな子供じゃないんだ」
先生へと視線を向ければ、告げられたのはそんな言葉だった。
「けどこれだけは言ってやるよ。俺はあの時、昔にお前に出会った時、お前のまっすぐな心に救われたんだ。誰も救えない俺を、何にもなれない俺を、嘘偽りなく俺を必要としてくれるお前の心に、な。だから俺は弟子であるお前がどんな決断をしようと、どんな答えを出そうと、それが満足なんだ」
だから。
「私は、ニオ達を信じるわ。何度裏切られても。何度欺かれても。だってそれは……、私の思う騎士の姿なんだもの」
「ステラちゃん……」
ある意味それはとっても不純な動機かもしれないけど。
また、彼女達を信じてみようと思う。
今はまだ、仮初めの気持ちでしかないけれど。あの人の弟子として立派な騎士でありたい為の気持ちでしか過ぎないけれど、それでもいつかは本当に人を信じられる日が来る様に、と……そんな風に願いながら。
「大丈夫だ。俺の好きなステラなら。その時まで俺もずっと傍にいるよ」
「ありがとう、ツェルト」
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