第20章 用意された罠
アルケミスト領 ドラコ遺跡
学生達や先生が向かって行ったのは、またもあのアルケミストにある遺跡だ。
遺跡の種類は特異遺跡。場所は森の中。
通常の遺跡の知識が通用しない遺跡だった。
その遺跡は、一年の課題リストに何食わぬ顔をして名を連ねさせていたらしい。
「なーんか、変な感じだよねー。先生達の職務怠慢って考えるにはちょっと、度が過ぎてる感じじゃないかなぁ」
「確かにそうよね。いくらなんでも学生の課題リストに二つも危ない遺跡が混じっているなんて、おかしいと思うわ」
特に変わったところはなく、いつも通りの様子で喋るニオ。
彼女から振られたそんな話題に、私達は首をひねって考えていた。
先生が戻ってこないとなると、向かう場所は相当の難所に違いないのだ。
なのに、なぜそんな危ない場所がリストに載っていたのだろう。
そんなニオと私の言葉に、ライドが口を挟んでくる。
「つまり剣士ちゃんは、誰かが意図的に紛れ込ませたって言いたい?」
「そこまでは言わないけど」
彼は言うが、そうだとしてもそんな事して一体何の利益があるのだろう。
「さあねぇ、ただの嫌がらせかも知れないぜ。人が困ってるのを見て楽しむ愉快犯的な?」
遺跡の攻略リストがおかしな事になってる理由は考えてみたが、現時点では何も分からなかった。
「アルケミストのグリンデ遺跡を発見したのはニオだよ。だけど、ほんとーに普通にリストに書いてあったよ。字が違ってて、後から書き足されたなんて事もなかったし。あやしいなら先生達くらいだろうけど。まあ、分かんない事をいつまでも考えてても仕方ないよね」
ニオの言う通りだ。
それよりもこれからの事について考えなければならない。
勝手に行動されては困るので、ステラは揃った面々を見まわして、釘をさしておく。
「何か見つけたら、報告、連絡、相談よ。間違っても一人で先に進まないように」
後は……。
「今更だけど、気を引き締めて異変があったら注意して。良いわね?」
「おっけーおっけー、何かあったら俺がステラにすぐ報告して、連絡して、相談だな。いつもの事だな」
「ツェルトはいつもより控えめでね、たまに気が散るから」
「ええっ、俺もしかしてうざがられてる!?」
ツェルトのやる気をほんの少しだけそいでおくのも忘れない。調子に乗り過ぎないようにという感じで。
これで、言うべき事は言ったはずだ。
周囲の森の様子がふと気になる。
森は好きじゃない。
嫌な思い出があるから。
嫌な事が起こりそうに思えてきて……。
「ステラ?」
「何でも無いわ」
脳裏に浮かんだ嫌な想像を振り払う。
けれど、ツェルトにはお見通しみたいだった。
「一人でしっかりしなくちゃって思う事は無いんだぜ。何かあったら、俺もニオ達も手伝うからさ」
「ツェルト……ありがとう」
そうだ。
今の私は一人じゃない。
たとえ何か困難があったとしても、皆で協力して前に進んで行けばいいのだ。
視線の先に見えて来た遺跡を前に、最後の確認をする。
「皆、装備はちゃんと持ってるわよね」
「はいはーい、準備オッケーだよー」
「俺もちゃんとできてるできてる。ステラに頼られてきたんだからな」
「まあ、生死がかかってる感じだし? 俺も万全。当然だわな」
各々の装備や、緊急時の打ち合わせなどをざっとこなしたところで、私達は遺跡の中へと入っていった。
ドラコ遺跡の中は随分と入り組んでいた。
数メートル間隔で分岐路があるので、目印をつけるためにいちいち立ち止まらなくてはいけない。奥へと進むにはかなりの時間がかかった。
それでも予想したよりはあっさりと最奥についてしまったので、私達は拍子抜けしてしまった。
「なんか、前回の焼き増しみたいな感じよね」
「ねー」
違和感。
まただ。
この前の遺跡でもそうだった。
簡単に奥へ行って、そして気を抜いた途端に脅威に遭った。
だから、今回も同じなのではないかと思う。
「油断した時に、何か来るっていうのはアレなのかな。ステラはそういう運命とか?」
「かもね。剣士ちゃんって日頃の行いは良いのに、何げに運が悪いよな」
ツェルトやライドも同じように、状況の流れに不信感を抱いているらしい。
周囲を見回しながら、警戒を維持する。
けれど、奥へ来てしまったと言うのに、肝心の人影が見当たらない。
「どこかに隠し通路みたいなものがある? とにかく調べてみるしかないわね」
とりあえず完全にばらけるのは不安だったので、二人一組となって奥の部屋を調べていく事にした。
新しい事実を発見したのは、別れて数分後の事。
ライドが隠し扉の様な物を見つけたのだ。
「あたり、っと。さすが俺、冴えてるな。ニオちゃんどうよ」
「うーん、凄いんじゃないかなー」
自慢げに胸をはるライドだが、応対するニオは適当だ。
「おざなり! まあ、良いけどな、そこがニオちゃんらしいって事で」
だが、それでもめげないライドは本当にツェルトと良い友達だと思った。
罠の類いがない事を確認しながら、扉をくぐって奥へ……。
その先には淀んだ空気の匂いがあって、申し訳程度の灯りの照らされた場所がある。
そこには……。
「先生……! それに皆も……」
学校へ帰ってこなかった者達がそこに集められていたのだった。
同学年の生徒達数人は、こちらの姿に気づいたようでほっとした表情を浮かべる。
だが、その近くにいる先生は……、倒れたまま動かない。
怪我をしているのだろうか、具合が悪い……?
私は駆け寄ろうとしたのだが、それよりも早く動く物がいた。
「エル様の仇……!」
ニオだ。
彼女が剣を手に、そちらへと向かって行く。
「待って、ニオ!」
やっぱりニオは復讐を諦めていなかったのだ。
彼女の剣が倒れたその人へと突き刺さる。
「――っ!」
私はその光景に衝撃を受けて、何か悲鳴のようなものが口から出かけた。
けれど、悠長にそんなものを叫んでいる場合ではない事はこちらも同じだった。
眼の前の生徒達の声が響く。
「罠だ」
彼らは私に何かを伝えたいようだった。
何か。
それは当然身に迫る危険についてだ。
そして、背後で誰かが動く呼吸音がした。
「……」
人が動く気配がして、それは私へと近づいてくる。
振り返るよりも前に、その人が私へ接近するのが早かった。
「!」
しかし、警戒していた痛みや衝撃は襲ってこない。
代わりに発生したのは、ツェルトのうめき声。
「ぐ……っ、何で」
振り返った私は見た。
私を守る様にそこに立ちはだかるツェルトと、その彼に剣を突き立てているライドの姿が。
その剣からは、ツェルトの体内から撥ねた血が地面へ落ちる。
「ライド、どうして?」
「あーあ、失敗しちゃったな。剣士ちゃんを殺すつもりだったのに、とんだ騎士様に邪魔されちゃったよ」
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