第72話 072 良い国と悪い国


 男達はそのままクレモナを目指した。

 パヴィアから国境沿いを東に流れてローディ、そこから更に東がクレモナだ。

 

 景色は相変わらずに、荒れた荒野だが少し起伏が増えた様な気もする。

 それと、風も強くなってきた。

 聞くに、クレモナは風の町とも言われているそうだ。

 竜の住みか、その山脈が風を巻き込みその通り道に町が在るからだという。

 そして、山脈も遠くに見えてきた。

 手前には風車のようなモノも。


 近付き、見上げて見ればやはりに風車だ。

 石で組み上げた土台に木組みの矢倉、そこから幌を使った5枚の大きな羽根。

 それが風に押されてゆっくりと回転している。

 目の前のコレは相当に大きいと思ったのだが。

 奥に見えている風車は更に大きかった。

 その大小が幾つも続いていた。


 それに見とれていた男にマリーが。

 「探したって、ロバに乗ったおじいさんは居ないわよ」

 

 それはそうでしょうとも。


 「何の話じゃ」

 ルイ王が割って入ってきた。


 「あんたに似たのが、私達の世界に居たのよ」

 と、笑うマリー。


 「ほう、偉大なる英雄は、どこの世界にも居るものだしのう」

 骸骨は頷いた。


 自分で言い切った。

 いや、お互いがお互いの言わんとする事を理解してのバトルか?

 交わる視線の先に火花が見えた様な気がした男。


 その二人を見てコツメが。

 「何の遊び?」

 そう言いながらに、男に新聞を投げて寄越す。


 男はそれを受け取り。

 コツメには絶対に参加出来ない遊びだ。

 「さあ……」

 と、だけ返事をしておいた。


 男は、早速に新聞を床に広げた。

 やはり、最初は戦争の記事だ。


 国王軍は順調に進撃を続けているそうだ。

 プレーシャはまだ陥落されていない。

 あそこには大層な駐留軍が居たようには見えなかったが、しかし戦争の備えはしていたようだから、民兵辺りが頑張っているのか?

 

 そんな男を見ていたのか頭目が。

 「エルフ軍は、自分達の領域に引き込んでからの攻撃なのだろうな」


 その言葉にルイ王も新聞を読み始めた。

 マリーとのお遊びも切り上げたらしい、大人の対応だ。

 

 「行軍距離が伸びれば、補給もおぼつかなくなるのにのう」

 王国軍に対しての言葉だ。

 「戦争慣れしてないのが丸わかりじゃ」

 

 男は次の記事を読んだ。

 衛兵の中からエリートを集めて、親衛隊を新設したようだ。

 

 ふと大臣を見る。

 ここに居るのだから、親衛隊を指揮するのは別の人間……詰まりはもう一人の大臣の方か。

 二人の大臣、差が開いてきたな。

 秘密警察と仕事が被るだろうに……。

 

 「親衛隊って、近衛兵の事よね?」

 マリーが首を捻る。

 「衛兵も一緒じゃないの?」


 「王を守るのが近衛兵だけど、その王は城に籠っているから城を守る衛兵と同じだったのだろう」

 男の見解ではだ。

 「親衛隊は、エリート意識をくすぐって、別の仕事をさせるために組織したのだろうな……城の警護以外の仕事」


 「例えば?」


 「エルフの弾圧……とか」

 マリーの問に大臣が答えた。

 「民衆の監視……とか」


 「それって政治犯もよね?」

 やはり首を捻るマリー。

 「秘密警察は?」


 「それが信用出来なく為ったのだろう」

 今度は頭目だ。

 「規模も歴史もあるで有ろう、秘密警察に対抗する為にわざわざエリートとしたのだろうな」

 

 「詰まりは」

 横の大臣を見て。

 「あんたじゃ……駄目って事?」


 「開戦の責任を押し付けられたようじゃな」

 頷く骸骨。


 ありゃりゃと、可哀想な目で大臣を見るマリー。




 クレモナも、外に風車が在るだけで対して代わり映えしない、そんな町だった。

 日も暮れ初めて来たので、宿を探す。

 あまり期待はしていなかったが、この町には有るようだ。

 そして、部屋も空いていた……と言うより客がいない様だ。

 辺境の安宿なのでだろうがベッドも無い、床に直接に雑魚寝だ。

 飯は、小さなレストランを併設していたのでソコで済ます。

 味は、済ます……そのままだったが、ここも貸切状態。

 南の辺境の三つの町では、焼き立てのパン以外はガッカリだ。

 ロマーニャに期待しよう。

 明日はその国境越えだ。


 飯を済ませて部屋に戻ると。

 「明日からは馬車での移動が良いじゃろうの」

 ルイ王が突然に。


 「なぜ?」


 「あの鉄の箱では……不用意に警戒されるじゃろう」


 「馬車など……用意していない」

 困惑顔の頭目。


 「ここで仕入れれば良かろう」

 

 「なんなら、あっしが荷車を引きますが?」

 ちょっと渋目のおじさんに化けているムラクモ。

 誰に化けた? 見たこと無いぞ。


 「いや、このまま行こう」

 男が答えた。

 「警戒させてやろう……どうせ上手くいく目の無い交渉だ、たっぷり警戒させて考えさせてやろう」


 「成るほどのう」

 考え込む骸骨。

 「確かに普通で行っては、結果が見えておるか……」


 何より、男が面倒臭いと思った事は黙っていよう。

 

 「とにかく、明日だな」

 と、男は毛布を被った。



 翌朝、観光もせずトラックに乗り込もうとしたその時。

 若い女の娘達がにこやかにやって来てビラを渡して去っていく。

 辺境で見た初めての笑顔だ。

 と、ビラを覗く。

 

 大きく見出しで。

 目指そう独立!

 

 開業? 何かのフランチャイズ?


 しかし、その続きが……。

 打倒! ロンバルディア政府。


 悪政、独裁のロンバルディアと民主的な多民族国家のロマーニャ国。

 貴方はどちらを選択したいですか?

 その先もウンヌンカンヌン有るが、読む気にも成らない。

 そのままルイ王に渡した。


 受け取ったルイ王。

 読んで、笑って、大臣にまわす。

 「平和な国じゃのう」


 しかめっ面の大臣に追い討ちを掛ける、ルイ王。

 「この町は、少しだけ裕福の様じゃの。ホテルは有るし……レストランもちゃんと開いてる」

 少し溜めを造り。

 「その金は……何処から出ているのじゃろうな?」


 ショボいホテルに……不味いレストランだが。

 人を呼ぶ観光資源は風車くらいか? もちろん男達以外に泊まり客も、食事客も居なかった。

 なのに、やれている店。

 成る程、大きくは無いだろうが、それなりの収入源は有るのか。

 スポンサーは国内か?

 国外か?


 「秘密警察の仕事振りは甘い様じゃのう」

 骸骨。


 その骸骨の口振りだと、レジスタンスのスポンサーと同じじゃないかと踏んでいるのか?


 「行こうかの? ロマーニャへ」



 町を出て、横の道から縦の道へと入り、暫く走れば道路が変わった。

 舗装路から、未舗装路……詰まりは砂利道へといきなりの変化、それは国境を越えたと言う事だ。

 しかし、道が変わった以外には何も変化は無い。

 国境警備隊みたいな者も居ない。

 ヴェネトの時もそれらしいものは無かった。

 魔物の居る世界なのだからなのだろうか。

 その魔物が町と町、国と国を分けている様なものか。

 いや、そう言えば魔物に出会わないな、何故だろうか?


 その答えは直ぐにわかった。

 道から外れたところで、冒険者らしき者が魔物を退治している。

 ロンバルディアでは、あまり見なかった光景だ。

 それを走る先々で見掛ける。

 この国の政策の一つなのだろう。

 冒険者がタダ働きで魔物退治は、考えにくい。

 誰かが、何かの報酬を出して居るのだろう。

 国が金を……が、一番考えやすい。


 舗装道路に結界石を埋め込んで魔物は放置のロンバルディアと。

 舗装も結界も造らない代わりに魔物退治に金を出す。

 国の考え方がまるで違うようだ。


 その事は、大臣も考えた様だ。

 その魔物退治をじっと見ている。


 ただ、どちらが正解なのかはわからない。

 どちらも、それなりに金は掛かるだろう。

 冒険者に対する報酬。

 道路の維持補修の金。


 土地を広く使えるのはロマーニャだが……魔物は何時沸いて出るかはわからない。

 民衆のリスクは常に有る。

 

 ロンバルディアは、都市、町、道路と限られた場所での暮らしになる、が……魔物のリスクは少ない。


 それを考えて唸っている男に、ルイ王が一言。

 「両方やれば良い」


 ……。

 はい、ごもっとも。

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