第44話 044 ソレゾレの居場所

 

 当面の目標は定まった。

 が、肝心のヤツの居場所がわからない。

 次に動くのを待つしか無いのか。

 と男が唸っていると。

 そこに客が来た。

 ルイ家の総出だ。

 百合子を呼びに来たらしい。


 ソフィーが百合子に声を掛ける。

 「一緒に学校に行こう」


 「学校?」

 男は思わず。


 「まだ子供だから、学校に行かないとね」

 テレーズお姉さんが優しくニコニコと。


 「百合子も行けるのか?」


 「私が一緒に行って、手続きをしてきます」

 男に尋ねて。

 「宜しいですよね」

 と、テレーズ。


 「もちろん」

 考えもしなかったが、ソレは大事な事だ。

 「宜しくお願いします」

 男はテレーズに感謝をしながらに頭を下げる。

 そして、考えた。

 「どんな学校なんだろう」

 異世界の学校なんて想像もつかない。


 「錬金術師エリー様が創った学校ですよ。私も、その卒業生です」

 ニコニコとお姉さん。


 「錬金術の学校?」


 「そのコースも有りますが」

 横に並ぶソフィーを見て。

 「私も妹も、普通科です」


 「エリーって、確かマリーの弟子だったよね」

 男はリリーの話を思いだしながらに口にする。


 「そうよ」

 後ろからマリー。

 「私も、着いていっていい?」

 百合子とジュリアもその横に立っていた。

 「百合子には、錬金術師のコースを進めるわ」


 「まあ、マリーちゃんも学校に?」


 「入学は、しないわよ」

 勘違いしないでと、言いたげだが。お姉さんは間違いなく勘違いしている。


 「じゃ、一緒にいきましょ」

 ニコニコ。

 「ローザちゃんも一緒よ」

 ニコニコ。


 そんな、お姉さんに不安を感じたのか。

 「ジュリアちゃんは?」

 と、ジュリアの手を握る百合子。


 「じゃ、私も着いて行きます」

 百合子の手を握り返してやるジュリア。


 「でも、ジュリアちゃんは入学出来ないわよ」

 ニコニコ。

 コレは勘違いじゃないな、その上のレベル……天然だ!


 「ああ、皆で行ってきな」

 男は手を振り。

 「俺はロイドの所に、行ってくる」

 仕事を貰いに行こう。

 まだ、あれから金を稼いでいない。

 ため息が出る。


 「では、私と一緒に」

 ルイ家の当主が男を誘った。



 

 冒険ギルドも保険ギルドも朝から大いに賑わっていた。

 そんな中、ロイドを見付けて声を掛ける男。

 「寝れてるか?」


 「お陰さまで」

 頭を下げたロイド。

 「新人達が頑張ってくれています」


 見ると、数人が忙しそうに動き回っている。


 「で、本日のご用向きは?」


 「時と空間の勇者の動向は……わからないよな?」

 本題の前の世間話のつもりだったのだが。


 「生憎と……」

 と、眉をしかめたロイドは一人の男を呼び。

 「この者に探らせましょう。情報については専門家です」


 盗賊ギルドには情報の専門家なんかも居るのか。

 「新聞屋か?」

 適当に尋ねた男。


 それにはロイドと当主の耳がピクリと動いた。


 「新聞……とは」

 前のめりに聞いてくるロイド。

 そして、横で耳をそばたてた当主。


 「情報を紙に書いて、売るんだよ」

 圧に押された男は簡単に説明をする。

 「1枚幾らかで、な」


 「ほう……」

 考え込むロイド。

 「ソレは、興味深い話です。情報の売り買いは、普通に有りますが、ソレは1対1での事、それをわざわざ紙にとなると……錬金術で複数枚にして……売る?」

 フムフムと……。

 「1対複数」

 リリーに向き直ったロイドは尋ねた。

 「リリーさん、紙に書いた物を複数枚に出来る錬金術は有りますか?」


 「はい、印刷ですね」

 急に振られたのに焦る事なく

 「初歩です」

 リリーは答える。


 頷いたロイド。

 当主の方に向き直り。

 「お話が有ります」

 

 それに頷く当主。

 「奥へ行こう」

 と、二人して消えた。


 おい! 俺の本題は?


 その場に残された男は、リリーに。

 「なんか……仕事無い?」


 その問に、リリーは営業スマイルで返すだけ。

 ニコニコと。


 

 仕方が無いので商人ギルドに出向く事にした男。

 とは言っても向かいの建物なのだが。


 そして、ここも賑わっていた。

 主に銀行の方だが。


 ここにも結構な数のゾンビが居るようだ、カウンターの奥で主に銀行業務をして忙しいそうにしている。

 その中の1人を、適当に捕まえて。

 「頭取は何処か?」

 その銀行員のゾンビは下を向きつつ作業をしながらに手だけで返事……階段……上、と、だけで返された。

 コレは、ここの流儀に成っているのか?

 なんとも無愛想な事だ。

 まあ、なにかを言っても仕方無い。

 男は黙って階段を昇る。


 頭取はスグに見付けられた。

 廊下の端で、ムラクモとナニやら話している。

 男は近付いて、聞く耳もなく聞いてしまった。


 「では、宜しくお願いします」

 頭取。


 『では、行って参ります』

 ムラクモは頭取に頭を下げて、その場を離れようとしていた。


 「何処へ行くんだ?」

 男は思わず声を掛けた。


 「ドワーフ村迄、買い付けを頼んだんですよ」

 その男の問いに、ムラクモでは無く頭取が答えてくれた。

 「商人ギルドの方の仕事です」


 『アッシも、ちょいと小遣い稼ぎをと、思いまして』

 苦笑いのムラクモ。

 

 それには男も笑って返す。


 『行けませんでしたか? それとも、何処かへ行かれるおつもりでしたか?』


 「イヤ、構わないよ……暇な時は、好きにしてくれて良い」

 相変わらずに、敏感なヤツだ。

 仕事を先に取られたとの思いが顔に出たか?


 『そうですか』

 多分……笑って。

 『でわ、これで失礼致します』


 後ろ姿を目で追っていると。


 「では、私にご用でしたか?」

 頭取は男に尋ねた。


 「……」

 うーん、用はもう取られたしと考える男。

 そして。

 「隣で、ロイドとルイ家の当主が新しく新聞を始める相談をしていたぞ」

 と、適当に誤魔化した。


 「左様で」

 頭取は頷き。

 「でわ、私めもその話混ぜて頂きませんと」

 と、足早にその場を去る。


 ソレを男は見送りながらにポリポリと頭を掻いた。


 

 

 結局、仕事は取れず屋敷に帰った男は、何時もの場所で煙草に火を着けた。

 暇だ。

 ……。

 あれ?

 俺……居場所が無い。

 俺って、役立たず?

 ……。

 駄目じゃん!


 呆然と成り座り込んでいる男の側にカラスが飛んで来た。

 『盗賊ギルドからの連絡だ』

 と、カラスは告げる。


 「何か有ったのか?」

 工事はまだ暫く掛かるだろうにと訝しむ。


 『今度、隣国で大臣クラスの会談が行われる事に成った』

 カラスはそのまま続けて。

 『日程は、まだ未定だが、それに先立ち先遣隊を送る事に成ったのだが、その先遣隊の影武者として隣国に行く』


 「影武者?」

 男は首を捻り。

 「何故?」

 そう問いただす。


 「戦争が怖いのよ」

 マリーが、いつの間にかに帰っていた。

 何故かロイドも一緒だ。


 『そうだ、正規の先遣隊に何か有った時に……問題に成る』

 カラスの返事は直接に頭目の言葉を声真似したモノだった。


 「影武者なら切り捨てれば良いのよ」

 マリーもそれを捕捉する様に。

 「その者等は、盗賊が成り済ました者だと言ってね……場合によっては、我が国の不穏分子を退治してくれて感謝する……ぐらいまで言えば、当面の戦争は回避できるでしょ」


 『何も起こらなければ、正規の先遣隊として振る舞うだけだ』


 「ソコまで危ないのか?」


 『その隣国は、剣と盾の勇者を召喚したと噂に成っている』

 一呼吸入れて。

 『ソフィーでの事を横槍を入れたと勘違いしているその国だ』


 「俺達のせいか」

 男は唸った。


 『ソレも有るが、ソレを思わせるモノがその国には有るんだ』


 「戦争好きな民族でも有ります」

 ロイドだ。

 「自国を世界一の大国と思い、世界の警察を自認しております……が、ソレも昔の話……今は自国の利益が最優先です」


 「その国が、使者を呼びつけたのか」


 『そうだ、ソレも大臣クラスをな』


 「で、何故ここにロイドが居る?」

 今更だが。

 男はロイドを見た。


 『俺が呼んだんだ、今回の仕事はロイドを使いたい。影武者と支援隊の2つに分けて影の方は俺が、影の影の方をロイドに任せたいと思ったんだ』


 「待って」

 それにマリーが口を挟んだ。

 「それ、逆の方が良いんじゃない? ロイドの方が役人っぽいもの」


 『成る程』

 その事には頭目も簡単に納得した様だ。

 それは本人も自覚しての事なのだろう。


 「それに、荒事に成るのは影の影の方でしょ? 影武者の方は逃げる事を最優先にしないと……無事で居る事が一番に大事な事なのだから」


 『確かにそうだ』

 この返事は少し気を良くしたモノが乗っていた。


 「ついでにだけど、その影の影の方は私達がやるわよ」

 マリーはカラスの向こうの頭目に宣言した。


 え! そうなの?

 驚く男。


 マリーは男に向き直り。

 「その国の勇者に会いに行きましょう」

 男の怪訝な表情を汲み取り続ける。

 「大丈夫よ、あたし達と同じ転生者なのだから、話は通じるわよ。それに、帰れる方法を知ってるって言えば、聞かない筈がないわ……仲間に引き入れましょう」

 

 「その仕事は俺達でも出来るのか?」

 男はマリーと頭目に聞いた。

 影武者の護衛なんて国の仕事だろう?

 それもややこしそうな機密付きでだ。


 「そんなの、ややこしい部分はロイドにお任せよ」

 ふんと鼻を鳴らしたマリー。

 「決まってるじゃない」


 丸投げか……。

 と、ロイドを見ると、仕方無いですねと顔と態度で示した。

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