第508話 要塞村アスレチック

 最近のセリウス王国は雨が続いていた。

 そのため、市場の規模も縮小される日々――特に、体を動かしたくてたまらない子どもたちにはなかなか酷な状況だ。

 要塞村に暮らす子どもたちは、身体能力の高い銀狼族や王虎族が多いため、外で遊ぶタイプの方が圧倒的に多い。そのため、要塞内で子どもたちが体を動かして遊べる空間は限られていたのだ。


「さすがに地下ダンジョンへ行かせるわけにはいかないし……子どもたちが室内でも遊べる施設があればなぁ」

「そうおっしゃると思っていました」

「わっ!?」


 思わずこぼした本音に、いつの間にか村長室へ来ていたフォルが即座に反応した。


「そうおっしゃるとって……何か作ったの?」

「今回はジャネット様とドワーフの方々――そして、エノドアからタマキ様を特別ゲストとして招き、とうとう完成しました」

「タマキを?」


 ヒノモト王国出身で、元々はケイス第二王子専属の護衛役を務めていた。ケイスが王家を離れて要塞村の村医となってからは、エノドア自警団の一員として活動している。

 そんな彼女のジョブはヒノモト出身者にしか与えられないという固有ジョブの《くのいち》であった。


「以前、彼女がヒノモトにいた頃、修行で使っていたとある施設を要塞村風にアレンジし、子どもたちだけでなく、大人も楽しめるアスレチックを開発しました。現在、クラーラ様がデモンストレーションをしています」

「ヒノモトのくのいちが修行で使っていたアスレチック……興味があるな」


 つい先日、ヒノモト王国から帰ってきたばかりであるトアにとって、そのアスレチックというのは非常に興味をそそられた。

 早速、トアはフォルの案内でそのアスレチックをチェックしてみることにした。



 広大な要塞ディーフォルには、まだまだ手つかずの部分がいくつかある。

 そのうちのひとつに、くのいちタマキが監修したというアスレチックはあった。


「す、凄いな!」


 思わずトアは叫ぶ。

 アスレチックは全部で五つの関門で構成されていた。


 ひとつ目は水たまりの上に点在する足場を使って進むウォーター・ステップ。

 ふたつ目は回転するローラーが階段状に設置されたローリング・ダンス。

 三つ目は丸太にしがみついて回転しながら落下するウッド・スライダー。

 四つ目はジャンプしてバーに捕まり、急降下するドラゴン・フライヤー。

 最後となる五つ目は、球状に反った壁をのぼっていくファイナル・ウォール。


 これが部屋一面に組まれており、その間にも植物や石像を配置して雰囲気を出すなど細かな工夫とこだわりがうかがえた。


「ちなみに、クラーラ様は最後の関門であるファイナル・ウォールに挑戦中です」

「あの関門を全部クリアしたのか……さすがはエルフ族の中でもトップクラスの身体能力を誇るクラーラだな」


 感心するトアは、早速そのクラーラを応援するため、彼女のもとへ。


「はあ、はあ、はあ……」

「あとちょっとよ、クラーラ!」

「頑張ってください!」

「わふっ! 絶対に越えられますよ!」


 どうやら、トアよりも先にエステル、ジャネット、マフレナの三人が応援にかけつけていたようだ。

 彼女たちの声援を背中に受けたクラーラは大きく息を吐き、全力疾走で壁へと向かう。そして、勢いのまま、壁を半分くらいまでのぼると、そこから飛び上がって上部を掴む。そのまま腕の力で全身を持ち上げ、なんとか壁をのぼり切った。


「やったああああああああああ!」


 見事にゴールしたクラーラは雄々しく叫ぶ――と、その時、トアとバッチリ目が合う。


「ト、トア!?」

「かっこよかったよ、クラーラ」

「えっ? あ、あのその……」


 動揺しまくるクラーラであったが、トアにはその理由がよく分からなかった。



 ――あとからエステルを通して「力いっぱい叫んでいるところを見られたのが恥ずかしかったみたい」とフォローが入ったが、クラーラはそれから三日ほどトアとまともに顔を合わせられなかった。


 ちなみに、アスレチックは村民たちに大好評でフォルとジャネットはセカンドステージの開発にも取り組み始めたのだった。

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