第497話 ヒノモト王国へ⑩ 侵入者

 ヒノモト城に現れた謎の存在。

 それは人でもなく、だからと言ってモンスターとも呼べなかった。

 二足歩行で腕もふたつ。

 ここまではトアたち人間と同じ特徴だ。


 ――しかし、全身の肌は真っ青。

 要塞村に住む魔人族のメディーナは紫色の肌をしていたが、目の前にいる者は青――魔人族ではない。

 おまけに身長は優に二メートルを超える巨躯と来ている。


「な、何者だ!?」

「あん? ……おめぇに用はねぇ。怪我しねぇうちに消えな」


 その者はトアにまったく関心を示さず、兵士たちを押しのけてさらに廊下を進んで行こうとする。

 と、そこへタキマルがやってきた。


「おまえは……青鬼のゼン!? こんなところで何をやっているんだ!?」


 タキマルが呼んだ青鬼という単語に、トアたちは聞き覚えがあった。

 妖人族を構成する種族のひとつであり、その力は最上位クラスだとシャウナから教えてもらったことがある。


「タキマルさんか……」

 

 どうやら二人は顔馴染みらしかった――が、その間に流れる空気は決して穏やかなものではない。ピリピリと張り詰めた緊張感が、辺りに広がっていった。


「あんたにも用はねぇんだ。悪いんだけど、俺を囲んでいるあんたの手下たちをどけてくれるか?」

「本気で言っているのか? ここはヒノモト城だぞ?」

「だから、そのお城の主に用があるんだよ」

「国王陛下に?」


 訝しげにゼンという青鬼を見つめるタキマル。だが、そんな様子などお構いなしにゼンは先へと進んで行こうとする。


「!? ま、待て!」


 タキマルはゼンの行く手を阻むように前へと出る。


「なんだよ。さっきも言ったが、国王に会って――」

「会って、何をする気だ?」

「……忠告だよ」

「忠告だと? 何を忠告するんだ。ヒノモト王家が妖人族に何かをしたのか?」

「……あんたは知らないみたいだな。だったらこれ以上話しても無駄だ。そこをどきな」

「ならん!」


 ゼンとタキマルの間に流れる不穏な空気。

 周りの兵士たちも割って入ることができずに困惑している。


 トアたちもまた同様に動けないでいた。

 仮に、ここがセリウス王国内であったなら、もう少し手の出しようがあったのだろうが、ここは国どころか大陸が違う。その国にはその国の事情というものがあるし、下手に手を出して国際問題に発展するとバーノン王に迷惑をかけてしまうかもしれない。


 とはいえ、このまま黙って見ているだけということもできそうにない状況だ。

 とりあえず、ゼンという青鬼は何やら事情がありそうなので、それを聞いてから判断してみてはどうか――トアがタキマルにそう提案しようとした、まさにその時だった。


「!? うわっ!?」


 突如、激しい横揺れがその場にいた全員へと襲いかかる。


「ぐっ……これは……ゼン! おまえ、何かしたのか!?」

「あぁ……兄者だな」

「何っ!? あいつも来ているのか!?」


 青鬼ゼンの兄。

 まだ他にも妖人族が城内に入り込んでいるらしい。


「バカな……兵たちは何をしているのだ!」

「そりゃあ――この城は俺たちがほぼ制圧したようなものだからな」

「「「「「なっ!?」」」」」


 その発言には、さすがにトアたちも驚きを隠せなかった。

 

「そういうわけだから、あきらめてくれよ。……怪我をしたくなかったらな」

「ふざけるな!」


 タキマルは剣を抜いた。


「一体おまえたちに何があったというのだ!」

「……あんたには関係ねぇよ」


 ゼンは手にしていた大きな金棒を振り上げると、それをタキマルへと向けた。

 次の瞬間――「ガギン!」という金属同士のぶつかり合う音が響き渡る。


「む?」


 不思議そうに見つめるゼンの視線の先には、


「さすがに……これ以上は静観できないな」


 振り下ろされた金棒を聖剣エンディバルで受け止めるトアがいた。

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