第471話 オヤジたちによる人生相談
鉱山の町エノドア。
要塞村からもっとも近い距離にある町で、魔鉱石採掘が盛んである。
ここには元フェルネンド王国の人間も多い。
中でも自警団には副団長のヘルミーナをはじめ、クレイブ、エドガー、ネリスといった面々が顔をそろえる。
それと――あまり知られてはいないが、もうひとりだけ、超大物がこのエノドアで働いていた。
その人物の名はフロイド・ハーミッダ。
かつてフェルネンド王国では大臣職に就いており、多くの配下を抱えていた。
しかし、そんな彼も今では町でも評判の宿屋を経営する店主。
一年を通して賑わっており、繁盛しているのだが、最近は特に忙しくなったとフロイドは感じていた。
その理由は町の発展と密接に関係している。
魔鉱石の採掘で一躍発展を遂げたエノドアには仕事を求める者や新しく商売を始めようとする者など、人口が一気に増加した。それに伴い、住居の数も増えたわけだが、今のところ工事が追いついておらず、宿屋に寝泊まりする者が増えたのだ。
エノドアに人が増えたことで宿屋が忙しくなったというわけだが、それ以外にもフロイドの宿屋が繁盛しているのには理由があった。
それは――
「店主……俺は……」
フロイドの経営する宿屋に併設する食堂。
そこでバーテンダーも兼ねているフロイドの前に、深刻な顔つきをしたひとりの若い男性が座っている。
彼の名はゼフ。
セリウス王国騎士団に所属して五年目になる若手だ。
これまで順調に仕事をこなしてきたが、最近になって子どもの頃から憧れていた画家への夢が再燃したという。このまま騎士として過ごすか、思い切った退団し、画家を目指して旅に出るべきか。彼は葛藤し、フロイドへ相談しに来たのだ。
「俺はどうするべきでしょうか……」
「……これに関しては、断言できる最適な答えなどないだろう。――しかし、君が目指そうとしている道は決して容易く進めるものではない」
「店主……」
「だが、それでも突き進もうという意志があるというなら、その選択は間違いではないだろうし、後悔もしないだろう」
波乱万丈な人生を歩んできたフロイドによる人生相談。
これが、思いのほか宿泊客に好評だったのだ。
また、時には、思わぬゲストも参加する。
「迷いは決して悪ではないぞ、若者よ」
「ジン殿の言う通りだ。悩みは新たな力を生みだしてくれる」
「そうだ。悩み抜いた先の答えは、君に大きな力を与えるだろう」
「これに関しては種族など関係ない」
銀狼族のジン。
王虎族のゼルエス。
ドワーフのガドゲル。
エルフのアルディ。
各種族を代表するオヤジたちからもアドバイスをもらえるのだ。
「わ、分かりました!」
青年ゼフは瞳に力強い光を灯し、勢いよく宿屋をあとにした。
「どうやら、またひとりの若者を救ったようですね」
フロイドの言葉を受けて、オヤジたちは皆ニッコリと微笑む。
「では、次はいよいよ我らの番ですな」
「うむ」
「今回も実りある話し合いにしたいものだ」
「ああ。では始めるとしよう――」
「「「「第百二十五回孫の名前提案会を」」」」
こうして始まった、オヤジたちによる会議。
その白熱ぶりは、深夜まで続くのだった。
「……その前に、トアはきちんとあの子たちにプロポーズができるのか……?」
フロイドの素朴な疑問は、オヤジたちに届くことはなかった。
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