第353話 調査開始!
スタンレー調査団長率いる鉄道調査団の歓迎会は大いに盛り上がった。
調査団の面々は、エルフにドワーフ、銀狼族に王虎族、モンスターや大地の精霊といった、これまで出会ったことのない種族のオンパレードに面食らった様子だったが、酒が進むとその緊張も解けて村民たちと楽しい時間を過ごしたのだった。
◇◇◇
翌朝。
市場に顔を出し、ナタリーに現場を任せた後、トアは調査団と共に現場へ向けて出発した。
今回は要塞村からもジャネットをはじめ数人のドワーフ族、そしてエステルとシャウナもついてきた。
「でも、本当に鉄道が開通したら便利になるわよね」
「うむ。昨日の宴会の際にスタンレー団長に聞いたが、王都まで数時間かかる道のりが数十分でよくなるという」
「王都だけでなく、途中でいくつか駅を設けることで、物流がより素早く行えるっていう利点もあるらしいですよ」
鉄道開通によって広がる可能性に、要塞村の面々も楽しみにしているようだ。
しばらく歩いていると、以前トアたちが発見した駅舎を発見する。
「車両本体が発見されなかったのは、恐らく敗戦が濃厚になった際、他国への技術流入を恐れて破壊したのだろうね」
スタンレーはそう分析した。
「確かに、要塞村の地下迷宮も肝心な資料は破棄されているみたいですし」
バーノンから鉄道の本格調査を始めると聞いて以降、トアは地下迷宮を取り仕切る銀狼族のテレンスに、鉄道関連の資料がないか調べてほしいと依頼していた。
村長であるトアの直々の依頼とあって、テレンスたちは張り切って地下迷宮を探し回ったのだが、なんの手掛かりも得ることができなかった。
テレンスたちは申し訳ないと平謝りだったが、
「ふふふ、いいじゃないかぁ……手掛かりがなければ、それだけ調査のし甲斐があるというもの! 学者の血が騒ぐよ!」
逆にスタンレーを燃え上がらせていた。
「な、なんだか別人みたいですね……」
「あの人は昔からあの調子なんです。あんな変人ですが、どうぞよろしくお願いします」
そう言って頭を下げたのは助手を務めるラウラだった。
あと、ラウラの後ろでは同じく学者であるシャウナが「分かるなぁ」と遠い目をしていた。
その後、記念すべき第一回目の調査をトアたちも手伝うことになり、再びあの駅舎へと足を踏み入れた。
「さすがに百年も経過すれば、これくらい荒れるか」
慎重に、一歩ずつ奥へと進むスタンレー。
その後ろからついていくトア――が、その時、ある異変に気づいた。
「スタンレーさん、あそこ」
「うん? これは……」
トアが指差したのは、足元だった。
駅舎の奥は少し開けた空間になっているのだが、そこは何も置かれていない殺風景な部屋だった。
トアには逆にその殺風景さが不自然に思えた。
そこで、足元へ視線を下ろすと、これまた不自然に入った溝を発見する。その長方形を描いており、さらに詳しく調べてみると、ドアノブらしき物もあった。
「これって……地下室への扉じゃないですか?」
「た、確かに……よし、調べてみよう」
トアは力自慢のドワーフたちを集め、床に設置された怪しいドアを開くことに。ドアノブにロープを括り付けると、みんなで一斉に持ち上げた。
すると、少しずつではあるが、床のドアは開いていき、その下から地下へと続く階段が出現した。
「こ、こんなところがあったなんて……ジャネット、ランプを」
「は、はい」
発光石が埋め込まれたランプを受け取ると、トアは階段を下りていった。それに、スタンレーやラウラも同行する。
やがて、階段が終わり、平坦な地面へとたどり着いたが、
「えっ? い、行き止まり?」
その先に道はなかった。
が、すぐ近くの壁の色が妙に新しいことに気づくと、そっと手で触れてみる。
「あれ? もしかして……」
壁から、わずかだが魔力を感じる。
それも、この魔力は、
「神樹の魔力……じゃあ、この先にあるのは――」
「どいていたまえ、トア村長」
トアが言い切るよりも早く、シャウナが壁を思いっきり蹴る――と、色が変化している部分だけがボロボロと崩れ落ちた。
「どうやら、先の道を誤魔化すために後から壁を設置したようだな」
「ですね」
トアとシャウナが先頭に立って、壁の向こう側へと進む。
と、
「あら? トア村長にシャウナお姉様じゃありませんか。こんなところで一体何をしていますの?」
現れたのは、地下迷宮の看板娘ことアイリーンだった。
「アイリーン? どうしてここに?」
「どうしてと申されましても……ここは私が日課としているお散歩コースCプランですのよ?」
「と、なると、ここは地下迷宮のようだな」
以前トアたちが見つけた旧帝国の駅舎。
そこは要塞村地下迷宮とつながっていたのだ。
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