第323話 もうひとりの……
トアがセリウス王都でバーノン王子とレドル騎士団長のふたりを相手に会談を行っている頃――
港町パーベルではこの日、ジア大陸から一隻の大型商船が到着していた。
それは商船でありながらも多くの乗客がおり、その多くがこのストリア大陸へ移住や新しい商売のためにやってきた者たちであった。
そのため、港には新しい土地から来た者たちが持ち込んだ珍しい品物の数々がパーベルの町に溢れたのである。
それを楽しみに朝市からこのパーベルにやってきたのは八極のひとり――黒蛇のシャウナであった。
「ほう……これはなかなかの代物だな」
到着早々に店を開いた露天商を見て回るシャウナ。
どう見ても偽物の粗悪品から本物と見紛うばかりのハイクオリティな偽物、さらに中には正真正銘、本物のお宝と、とにかくさまざまな商品が並んでいた。
「ヘクター町長に面白いからどうだと誘われたが……これは当たりだな」
考古学者であり、こういった骨董品に興味津々のシャウナにとっては、偽物だろうが本物だろうが関係なく、この独特の熱気が好きだった。
そんな調子で歩いていると、ひとりの少女とぶつかってしまう。
「これは失礼。怪我は――」
「だ、大丈夫です!」
少女は食い気味にそういうと。ぶつかった衝撃でずれた帽子を深くかぶり直し、そのまま人混みの中へと消えてしまった。
そんな少女の背中を見つめながら、シャウナは固まっていた。
「バカな……」
力なく、そんな言葉を呟く。
シャウナが見たのは、金髪のポニーテールに長い耳をした青い瞳の少女。その姿を目の当たりにした際、要塞村に住む者ならば誰もが口を揃えて彼女をこう呼ぶだろう。
「クラーラ……?」
人込みに消えた少女を思い出しながら、シャウナはもう一度呟いた。
◇◇◇
シャウナがクラーラそっくりの少女と遭遇した数時間後。
屍の森ではマフレナが狩りの真っ最中だった。
「わっふぅ!」
今日も絶好調のマフレナはあっという間に金牛と仕留めると、周辺に自生する山菜を採っていた。
「もうちょっと収穫したら村へ戻りましょう!」
体長五メートル近い金牛を片手で持ち上げ、背負った籠には山盛りの山菜。そのわがままボディからは想像できないパワフルさで、今日一日の仕事を終えたマフレナは要塞村への帰路へ就こうとしていた。
その時である。
「きゃああああああっ!」
森にこだまする悲鳴。
「わふっ!?」
この辺りは、要塞村の周辺およびエノドアやパーベルへと続く街道沿いに設置された魔除けのランプの効果範囲外なので、ハイランクモンスターがうろついている場所なのだが、だからこそ一般人が出入りすることなどまずない。
だが、間違いなく女性の悲鳴だった。
マフレナは考えるよりも先に行動へと移した。
悲鳴の聞こえた位置に全力疾走し、発見したのは巨大なトカゲ型モンスターに襲われている金髪の少女であった。
「わふっ! 今助けますよ!」
彼女が何者であるのか、その確認をするよりも先に、彼女の安全を優先したマフレナはトカゲ型モンスターに挑んでいく。
戦闘の邪魔になるからと、金牛と山菜の詰まった籠を放り投げた。
その後、狙いをトカゲ型モンスターの眉間に定めるとそのまま大ジャンプ。相手が見上げて動きが止まったところへ、全力の蹴りを眉間へと叩き込んだ。
「ギシャァァァ!」
マフレナの渾身の一撃を食らったモンスターは断末魔をあげてそのまま倒れると、二度と動きだすことはなかった。
「大丈夫? ――っ!?」
救いに入った少女は気を失っているようだった。
しかし、その姿はマフレナのよく知る人物だった。
「ク、クラーラちゃん!?」
地面に横たわるその少女は、どこからどう見てもクラーラだったのだ。
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