第318話 芽生える友情

 この日、ミリア・ストナーは正式にセリウス王国の国民として認められた。

 バーノン王子から、現国王への進言が決定的なものとなったが、その背景には要塞村のトア村長の影があった。


 トアをはじめとする元聖騎隊メンバーたちがバーノンに直接会って、ミリアをエノドアの自警団へ置いておけるようにお願いをしにいったのだ。

 それを受けて、バーノンは、

 

「トアや自警団のヘルミーナ副団長、それにこれだけ多くの仲間が訴えているのであれば、問題ないだろう」


 と、あっさり認めてくれた。

 諸々の手続きのため、少し時間はかかったが、こうして、ミリア・ストナーは晴れてエノドア自警団の一員として迎えられたのだった。




「では、行って参ります」


 エノドア自警団への正式な入団を明日に控えたミリアは、この日、ある人物に会うため要塞村へと向かうことになっていた。

 今ではエノドアの住人ともすっかり顔馴染みとなったミリア。外出行動についても、以前のように誰かが監視するために同行するという必要がなくなっていた。

 

 そんなミリアが要塞村へひとりで行くということで、自警団内では誰に会いに行くのかで話し合いがもたれていた。


「タマキはどう思う? ミリアは誰に会いに行ったと?」

「トア村長殿ではないですか?」

「ああ……トアねぇ……それはねぇんじゃねぇかな」


 タマキの予想に、エドガーは難色を示した。


「なぜですか?」

「あいつにとって、兄であるクレイブは存在のすべてだからなぁ。恋敵であるトアへわざわざ会いに行くとは思えないけど」

「そこですよ! 恋敵だからこそ、『この泥棒猫が!』みたいな展開が――」

「どこでそんな言葉覚えたんだよ!」

「モニカ殿が貸してくれた小説の中に」

「なんてモン読んでんだ!?」

「あなた……そんなドロドロした愛憎劇が好きなのね」


 タマキの意外な一面が露呈したところで、ネリスが続けて自身の考えを述べる。


「どう考えても、会いに行ったのはジャネットでしょう? ふたりはネリスが要塞村に来る前から知り合っていたわけでしょ?」

「それはそうだが……だったら、なんでわざわざ伏せるんだよ」


 そこが今回のポイントだった。

 要塞村へ行くとは聞いていたのだが、そこで誰に会うかは頑として答えようとしなかったのである。


「じゃあ、お兄様のクレイブは誰に会いにいったんだと思う?」


 エドガーがそう言ってクレイブへと振る。


「ふむぅ……」


 生真面目なクレイブは腕を組んで熟考し、導き出した答えは――


「エステルだろう。ふたりとも同じ《魔法使い》系統のジョブだからな。それに、向こうには八極のローザさんもいるし」

「「「ああ~……」」」


 納得できたような、できないような。

 なんとも微妙な空気が流れる中、話し合いはさらに白熱していったのであった。



  ◇◇◇



 要塞村近辺――屍の森。


「ジャネットさんの話だと、この辺りにいるはず……」


 森の中をひとり進むミリア。

 目的の人物は、ここで日課にしている鍛錬に励んでいるらしい。

 しばらく歩いていると、どこからともなく「ブン! ブン!」という音が聞こえてきた。


「! あっちね!」


 音のした方向へ走るミリア。

 そこにいたのは――汗だくで素振りに勤しむクラーラだった。


「クラーラさん!」


 その姿を発見したミリアは思わず叫んだ。


「あなたは……確か、クレイブの妹のミリア?」

「はい!」


 駆け寄ったミリアは静かに手を差し出す――握手を求めたのだ。

 最初、クラーラはその行動の意味が分からなかった。

 ジャネットやエステルでなく、ほとんど面識のない自分になぜミリアが会いに来て、しかも握手を求めるのか。


 困惑していたクラーラだったが、視線を落とした時、その謎は解決した。


「っ!? そう……あなたも私と同じ、《持たざる者》なのね」


 ミリアの胸元をジッと見つめながら呟く。

 それに対し、ミリアは小さく頷いた。


「あなたとなら……悩みを共有できると直感しました」

「奇遇ね――私もよ」


 ガシッと強く握手を交わすクラーラとミリア。

 ここに、新たな乙女同盟が誕生したのだった。



  ◇◇◇



「わふっ? クラーラちゃん、なんだか嬉しそうですね!」

「そうなのよ、マフレナ。……私は新たな終生の友を得たわ……」

「?」



  ◇◇◇



「お? 帰って来たか、ミリア」

「お兄様……ただいま戻りました」

「あら、なんだか嬉しそうね」

「ネリス先輩……はい。今日は素敵な一日になりました」

「そりゃよかった。明日から自警団の仕事をバッチリ教えてやるから、覚悟しておけよ」

「どちら様ですか?」

「それはもういいだろ!」

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