第263話 セリウス王都へ
出発に際して多少のドタバタはあったが、舞踏会に参加するメンバーを乗せた馬車は要塞村を出てセリウス王都を目指して進んだ。
道中、同じ馬車に乗るトア、エステル、ケイス、シャウナの四人は、フォルが用意した軽食と果実ジュースを飲みながら、会話に花を咲かせていた。
「馬車は全部で六台……想定よりもだいぶ大掛かりな移動になったわね」
「なんだか、ナタリーさんやメルビンたちが直前になっていろいろ服を詰め込んでいたようでしたからね」
「あたしも、まさか自分が着る服をオークやゴブリンに仕立ててもらうなんて夢にも思っていなかったわ」
これもまた要塞村ならではといえる。
「ところで、ケイス殿」
「何かしら、シャウナ」
「あなたは普通についてきているが……大丈夫なのか?」
「ああ、王家のこと? いいんじゃない? もうあたしを王族と見ている者なんていないでしょうし」
あっけらかんと言い放つケイスだが、先日来訪した弟のジェフリー王子は、兄であるケイスをかなり慕っている印象だった。オネェであることをカミングアウトしてから、この要塞村へやってきたケイスだが、実は本人が思っている以上に、国内では重要視されているのではないかとシャウナはずっと考えていた。
「そういうシャウナさんは大丈夫なんですか?」
思考を巡らせているシャウナに、エステルが声をかけた。
「そうだなぁ……まあ、八極の中では、ヒノモトのナガニシ王家に仕えるイズモの次くらいにこういった公の場に出る機会が多かったからね。それなりにこなせるとは思うよ。あ、ちなみに、ローザも出席率は高かったな」
考古学者でもあったシャウナは、八極の中で数少ない、旧帝国との戦争が終わってからの消息がハッキリとしている人物だった。それは、考古学者として歴史的な大発見を何度も成し遂げ、飽きるほど勲章授与式に参加していたためであり、謎が多く残されている遺跡の調査が劇的に進めば、そこに黒蛇のシャウナがいるともっぱらの評判だった。
「俺たちが聖騎隊の養成所にいた時に読んだ教本だと、八極はあまり公の場に姿を現さないって書かれていたので、ちょっと意外ですね」
「私とローザ、それにイズモくらいだよ。他の五人は一切その手の行事に参加しなかったんじゃないかな」
それはそれで極端だなぁ、と思うトアだった。
馬車が要塞村を発っておよそ三時間。
ようやくセリウス王都へと到着した。
「はあ~……座っているだけでも結構疲れるものね」
「わふわふ……」
「トアさんたちは平気ですか?」
「いや、こっちもさすがに腰が痛いな」
「私も」
馬車から降りると、伸びをしたり屈伸をしたりと、ストレッチで体をほぐす四人。
現在地は、厳密に言うと王都ではない。
その手前にある検査場だった。
衰退を始めたフェルネンド王国に代わり、今やストリア大陸でもっとも栄えているセリウス王国。その王都へ入るためには、厳しい検査があった。特に、トアたちのような大所帯でやって来た者は、厳重な警戒のもとで、検査が行われる。
村長であるトアが代表で、領主チェイス・ファグナスから渡された身分証明書を提示しようと兵士たちのもとへ歩いていた時だった。
「!? ケイス様!?」
「ケイス王子!!」
トアに同行していたケイスを見た兵士たちが、一斉に声をあげた。
「あら、みんな久しぶりね。あたしのこと覚えていてくれたの?」
「当然ですよ!」
「よくお戻りになられました!」
「我ら兵一同、王子の帰還を心待ちにしておりましたよ!」
あっという間に囲まれるケイス。
「な、なんか……本人から聞いていた状況と違わない?」
「ですねぇ。ケイスさんは今の性癖をカミングアウトしてから、疎まれていたと聞いていましたが」
「わふわふ! お友だちがいっぱいいるみたいですよ!」
「目の敵にしていたのは王族関係者だけで、兵士たちにはかなり好かれていたようね。あの様子だと、城の使用人とかも、ケイスさんには好意的な印象を持っている人が多そうだわ」
女子四人はケイスをそう分析する。
一方、ひと通り騒ぎ立てた兵士たちが次に注目をしたのは村長トア――ではなく、八極のメンバーである黒蛇のシャウナと枯れ泉の魔女ローザだった。
「おぉ……あれが黒蛇のシャウナ殿か!」
「う、美しい……」
「とても数千人の兵を一瞬で葬り去る戦闘力があるようには見えん」
「枯れ泉の魔女殿にいたってはまだ少女ではないか」
「可憐だ……」
屈強な兵士たちが、思わず息を呑む。
その様子を、シャウナはクスクスと小さく笑い、ローザは少し呆れた様子で眺めていた。
「あ、あの」
「うん? なんだ、坊主」
「いえ、その……王都への入場許可を……」
「入場許可ぁ? ――おあっ!?」
差し出した、身分証明書――そこに記された、トア・マクレイグの名前を目にした瞬間、兵たちのざわめきが大きくなった。
「貴殿があのトア・マクレイグさんでしたか!」
「えっ? あ、ああ、はい」
直後、屈強な男たちに囲まれたトアは、最終的になぜか胴上げされた。
「……セリウスの騎士団って、聖騎隊とはだいぶノリが違うわね」
「…………」
苦笑いのエステルに対し、クラーラは自身が思い浮かべる元聖騎隊メンバーを思い出してみる。
クレイブ――トア命のホ〇疑惑。
エドガー――軟派の女好き。
ネリス――歌唱力以外は完璧。
ヘルミーナ――婚期に焦る独身女騎士。
「……いい勝負じゃないかしら」
面子の濃さなら決して負けていない元聖騎隊メンバー。
しかし、クラーラはそれを面と向かってエステルに言えなかった。
――一方、兵士たちに囲まれているトアを見つめているジャネットは、
「トアさんが……屈強な兵士たちに……もみくちゃ……」
「わふ? どうかしました、ジャネットちゃん」
「!? い、いえ、なんでもありません」
ぶつくさと何事かを呟いていたジャネットは、マフレナに声をかけられて正気を取り戻し、メガネをクイッと指先で持ち上げて平静を装う。
だんだんと収拾がつかなくなってきたので、ケイスがパンパンと手を叩いて兵士たちの注目を向けさせた。
「はいはい。トア村長はこれから大事な用があってお城に行かなくちゃいけないから、おバカ騒ぎはここまでよ」
そのひと言を皮切りに、騒々しさは引き、兵士たちはそれぞれの持ち場へと戻っていった。
「さあ、手続きはもういいみたいだし、行きましょうか」
「お城へ行って、舞踏会の準備ですね」
「その前に……あなたはやらなくちゃいけないことがあるでしょう?」
「へっ?」
てっきり、このまま舞踏会の準備に取りかかるものとばかり思っていたトアだが、その前にやるべきことがあるという。
「あたしの父――現セリウス王国の国王陛下に謁見しないとね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます