第12話 気をつけて マモノ ケダモノ 魔法使い
ピンチ展開ですが、腕もげる程度です。(ネタバレ)
ゆるふわです。
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森林から平原まで半日かけて釣ってきた巨大な赤頬狐の尾撃を、盾で上方向に受け流す。
これまで散々慣れない盾による防御で左腕をへし折られてきたおかげだろうか。
自分で言うのも何だが、近頃は受け流しがとても上手になった。
街のチンピラの剣戟ぐらいなら、自前の鱗と左手の捌きだけでも無傷で切り抜けられるぐらいだ。
巨獣達の攻撃を受け流せるようになるまでは苦労したが、暴れ鳥竜相手に盾だけで丸1日粘った経験が今に生きていると思う。
「メンチさん!行くべ〜!」
馬人族のピクルスが宣言するのに尻尾を一振りして応じる。
赤頬狐の横薙ぎの爪撃を盾で上から下へと押さえ込み、槍で地面に縫い止めた。
バガッ!バガッ!と威勢のいい足音が近づいて来ているのを、背中越しに感じる。
「今っ!!」
ピクルスの声を合図に赤頬狐から横に飛んで転がりながら離れると、馬上槍を抱えたピクルスが破竹の勢いで赤頬狐に突っ込んでいった。
素早く起き上がり構えを直す。
ケェェェェェェン!!
耳をつんざくような高い声が響いた。
腹に馬上槍を生やした赤頬狐は、怒りに燃えた目でこちらを睨み付けている。
あと少しだ、と背中からショートソードを抜き放って握りを確かめた時、そいつは空からやってきた。
ギ チ ギ チ ギ チ ギ チ ギ チ
乾いた、破裂音のような鳴き声。
その音を聞いた赤頬狐が踵を返して森へと転身したが、すでに遅かった。
空から降りてきた巨大な影は、赤頬狐の全身を抱きしめるようにして完全に抑え込んでいた。
巨大な赤頬狐を覆い隠さんばかりの巨体を誇る
この辺りに生息する、私達が絶対に倒せない敵のひとつ。
陽の光を緑に乱反射させる鉄壁の甲殻を持った複眼の巨大昆虫、ヨロイカミキリだった。
「おおおおーい!!花火撃ってくれー!!」
ヨロイカミキリの登場から一呼吸遅れて、平原から南の岩場の方から見たことのあるパーティのリーダーが走ってきた。
たしかナレンセという大斧使いだ。
あいつらが連れてきたのか!
ロースが十字槍を突きつけて奴を糾弾する。
「とんでもねぇもん連れてきやがって!!てめぇらで撃て!!疫病神が!」
「花火持ってたシーマが食われた!ラシンも!チィマもだ!」
「チッ……!ボンゴッ!花火だーっ!!」
ロースの指示で、ボンゴが背嚢に入れていた花火を取り出しながら地面へと降り立った。
あの花火は冒険者が倒せない敵が出てきた時に、都市から騎士団を呼ぶためのものだ。
騎士団は私がいたような軍隊組織とはまるっきり違う、魔法使いしか入れない精鋭中の精鋭だ。
「花火上げるぞ!!耳塞げ!!」
私の指示と同時に、ボンゴが地面に置いた花火の紐を引っ張る。
ウウゥゥゥゥゥゥゥ……と後を引く音を鳴らしながら玉が空へと舞い上がり、地面を揺らす爆発音とともに虹色の光が空に満ちた。
ギ チ ギ チ ギ チ ギ チ ギ チ
私の背丈と同じぐらいの長さの鋭い顎で赤頬狐の頭を丸ごと齧り取ったヨロイカミキリは、次の標的をこの小さな人間たちに定めたようだった。
「閃光投げろ!次に煙幕!」
「目ぇ塞げ!」
私とロースの指示で、ボンゴがとっておきの閃光弾をヨロイカミキリに投げる。
2……1……閃光!
瞼越しにすら目を焼く、凄まじい光が放たれる。
焼け焦げていた私の売値より何倍も高い、ご主人が持たせてくれた虎の子の魔道具だ。
複眼を白黒させながら動きを止めたヨロイカミキリの前に、併せて投げられた煙玉が真っ黒い煙を吐き出していく。
ヨロイカミキリに対しては、逃げる以外の手がない。
私の身長が今の3倍でも、触角に手が届かないほどの巨体。
金属鎧を着込んだ戦士3人を同時に切断したと言われる、長く鋭い顎。
そして城攻め用のバリスタでも傷一つつかない、あの強靭無比な甲殻!
絶対に魔法使いにしか倒せない相手だ。
(都市へ向けて撤退)
ジェスチャーで指示を出し、皆でゆっくりと動き出した、その時だった。
ギ チ ギ チ ギ チ ギ チ ギ チ
煙を掻き分けて、ヨロイカミキリの巨体が姿を現した。
弱い獣なら光だけで気絶させる事もできる、あの閃光弾すら役に立たないのか……
「…………き……た……!」
その時、ボンゴが都市の方を指して言った。
「色はっ!!」
「…………し……ろ……!」
「散……!」
『れ』は言えなかった。
何かが私の左腕を盾ごともぎ取っていき、一瞬遅れて爆音と一緒に横薙ぎの暴風がやってきた。
吹き飛ばされて何回転も転がった私は、血の噴き出る二の腕を右手で抑えながら、ふらつく頭で元ヨロイカミキリだったものを見た。
頭から背中の部分を綺麗に削り取られたそれは、赤紫の体液を吐き出しながら沈黙していて……
その向こう側に見える空には、血煙の雲を引きながら都市方向に旋回していく最速の『星屑』、白の
「…………!………………!」
「あ……?」
走ってきたロースに何か言われたらしいが、左の鼓膜が破れているようで聞こえない。
彼女は私の腕の根本を、慣れた手付きで麻糸でぐるぐる巻きにしていく。
うちのパーティは後で生やしてもらえるから、治療はこれでいい。
私が右耳を指さすと、ロースは右側から話しかけてきた。
「……っ……は!」
「すまん、もうすこし大きく」
「さっきのは!?」
「騎士団の白の
「『星屑』の!吟遊詩人の歌で聞いたことあるぜ!どうりでバカッ速いわけだ!」
「皆は無事か?」
「斧使いのナレンセが足首だけになっちまった!」
ロースが指さした場所には靴と血溜まりがあった。
「そうか……」
やはり、魔法使いは強い。
あまりに強すぎる。
私達とは生きている世界がまるで違う。
そんな魔法使いに、お気に入りのおもちゃのように丁寧に使われている私達は……?
私は血が流れすぎて明滅する視界で血溜まりを見つめながら、家で我々を待つ、優しすぎる魔法使いの事を考えていた。
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強すぎ魔法使い伝説回。
メンチさんはこの後帰って腕生やして、1週間後には狩りに復帰しました。
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