マヨちゃんはカワイイよ

 どうして十勝君がここに?

 ぼくがおどろいていると、マヨちゃんも同じことを思ったのか、顔を見合わせる。すると十勝君がズカズカとこっちに歩いてきた。


「お前等、こんな所でどうしたんだよ?」

「ええと、ぼくらは……そう、この子にご飯をあげてたんだよ」


 そう言ってチョコを指差す。本当にニボシをあげていたんだから、ウソじゃない。

 ちなみにチョコは妖怪ようかいだけど、ふつうの人にもすがたは見えるのだ。もっともネコマタではなくふつうのネコに見えるようで、声も聞こえないけど。


「ネコにエサやり? 相変わらずさみしいことしてるな」


 十勝君の言葉に、少しショックを受ける。どうせぼくがすることはさみしい事だよ。だけどこれに気を悪くしたのか、マヨちゃんがすかさずぼくを守るように前に出た。


「十勝君には関係無いでしょ! それともなに? またコウ君をイジメに来たの⁉」

「ち、ちげーよ。オレは……そうだ、昨日の事で話があるんだよ」

「昨日の事?」


 マヨちゃんが首をかしげる。昨日の事って言うと、やっぱり十勝君がマヨちゃんにやっつけられた事なのかな? もしかして、ケンカの続きをしようって言うんじゃ?

 だけど、ぼくの予想は外れていた。


「昨日はやりすぎちまったからな。それでちょっと、言いたいことがあると言うか……」

「要するに、あやまりたいってこと? ならすなおにそう言えばいいのに」

「ちがうっ。何でオレがあやまらなくちゃいけないんだよ?」


 十勝君は顔を赤くしておこったけど、マヨちゃんは聞いていない。ぼくの後ろに回ってグイグイと背中をおしてくる。


「ちゃんと反省するのは良いことだよ。さあ、早くコウ君にあやまって」


 うれしそうに笑顔を作るマヨちゃん。だけど反対に、十勝君は顔をしかめる。


「はあ? 何でコイツに?」

「え? だってさっきあやまるって」

「だからあやまらないって言ってんだろ! だいたい、話があるのは光太じゃなくてお前にだよ!」

「え、ボクに?」


 自分に話があるだなんて、本当に考えてもいなかったのだろう。キョトンとするマヨちゃん。するとそれを見たチョコが、そっとぼくに言ってくる。


「この子もしかして、ちょっとニブいニャ?」

「うーん、そうかも」


 今のやり取りを見て、十勝君がマヨちゃんの事を好きなのかもって、チョコも気付いたみたい。けど、マヨちゃんは全く分かっていないようで、首をかしげている。

 そんなマヨちゃんを前にして、十勝君は少し緊張きんちょうした様子で話を進めていく。


「昨日オレがお前を、コテンパンにやっつけちまっただろ。あれ、ちょっとやりすぎだって思ってな」


 え、それっていったい、何の話? マヨちゃんはコテンパンになんてされてないよ。たしかにつき飛ばされはしたけど、どちらかと言えば平手打ちを食らった十勝君の方が、痛かったと思うけどなあ?


「ボク、やっつけられてなんかいないよ。負けたのはそっちじゃん」

「お、オレは負けてない!」

「ううん。あの時は絵も取り返したし、ボク達が勝ったの!」


 そう言ってマヨちゃんは、ぼくにかたを組んでくる。

『ボク達』って、もしかしてぼくまでいっしょに十勝君に勝ったことになってるの? でも、こんなこと言ったら……


「負けてないって言ってんだろ! 真夜子はともかく、光太なんかにオレが負けるかよ!」

「むうー、『なんか』って何さ?」

「うるせー! だいたいお前等、かたを組むな!」

「それこそ十勝君には関係無いじゃん!」


 ギャーギャーと口ケンカに熱が入っていく、マヨちゃんと十勝君。こうなってしまうとぼくは完全に口をはさめないけど、かたを組まれているからはなれることもできずに、ただ成り行きを見守るしかできない。

 やがて十勝君は、おこったようにマヨちゃんに言い放つ。


「何だよ! 人が下手に出りゃいい気になりやがって。このブス!」

「ベーッ! 十勝君に、何言われても平気だよーだ!」

「お前なんて、もうかまってやんねーからな!ブース、ブース!」


 どこか元気の無いすてセリフを言いながら、にげるようにして去っていく十勝君。きっと本当は、ちゃんとあやまって仲直りがしたかったのだろう。ぼくじゃなくて、マヨちゃんと。

 それなのにまたケンカになって、ちょっとかわいそう。ただ、マヨちゃんの事をブスって言ったのはひどいよ。


「ねえ光太君、あの十勝君っておバカなのかニャ?」

「バカと言うか、すなおになれないだけだよ、多分……」


 フォローを入れてからマヨちゃんを見ると、当然ごきげんななめで、十勝君の行った方を見ながらおこった顔をしていた。


「十勝君の言ったことなんて、気にしなくていいよ」

「ありがとう。でも平気だよ、あれくらいへっちゃらだから」


 マヨちゃんは本当に気にしてない様子で、すぐにいつも通りの笑顔になる。気にしているのは、ぼくの方かも。マヨちゃんの事をあんな風に言われたから、いやな気持ちになってしまう。


「十勝君だって、本気で言ったわけじゃないよ。マヨちゃん、カワイイんだから」


 ちょっと照れたけど、思ったことを口にしてみる。ブスなんてとんでもない。笑った時のマヨちゃんは、本当にカワイイ。だけど……


「えっ?」


 カワイイ。そう言った直後、マヨちゃんは変な声を出して動きを止めた。あれ、ぼく何か変なこと言ったかな?

 不思議に思っていたけど、マヨちゃんはすぐに気を取り直したようで、また笑ってくる。


「あはは、カワイイなんて初めて言われたから、ビックリしちゃった」

「え、そうなの?」

「うん。カッコ良いとか、男らしいって言われたことはあるけど、カワイイは初めて」


 それはなんとなく分かる気がする。言われてみればたしかにそっちの方が、マヨちゃんには合ってる気がするから。けどだからと言って、ブスなんてことは無い。


「でもカワイイなんて、お世辞でもうれしいよ」

「ウソじゃないってば。マヨちゃんはカワイイよ」

「あはは、ありがとう」


 カワイイと言われたのがよほどうれしかったのか、ニコニコと笑うマヨちゃん。こんなに喜んでくれたのなら、言って良かったって思う。

 マヨちゃんの笑った顔を見ていると、ぼくまで笑みをうかべてしまう。


「光太君、意外と気のきいたこと言えるんだニャ」


 笑い会うぼくらを見ながらチョコが何か言ったけど、その意味は分からなかった。

 でも楽しいのだから、まあ良いか。

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