全知を求める簒奪の求道者 其の七
SIDE:ある【冒険者】の男
混沌。そう混沌だ。今私の目の前に広がる景色はそうとしか形容できない代物である。
ある【侍】が「卍解」と叫べばその手に握られた刀が変形して戦斧となった。
「ゴムゴムの……」と叫んでいる彼は以前話題になっていた【対価の果実】と言うダンジョン産アイテムで《海に嫌われる代わりにゴムの性質を得た》男だ。
遠くに見える少女が「変身!」と叫べば日曜朝八時半ごろにお目に掛かれそうな姿へと変わる。
可笑しいのは人だけでは無い。今も空を無数の『コメント』が質量を持って飛び交い、七色のスーパーチャットが降り注いでいる。描かれた絵は動き出し、書かれた小説の主人公たちが形を取る。ジャンルも音量もてんでばらばらなのに妙に一体感のあるBGMが何処からか流れ出し、世界はパッチワークの様に様々な背景を現出している。
それこそ風邪ひいた時に見る夢と言う表現が正にぴったりな光景が此処にはある。
何もかもを滅茶苦茶に好き勝手詰め込むさまは正に混沌だ。
「……ああ、そうか」
電脳で、仮想の領域。そこに何があろうと何一つとしておかしなことは無く、全てがそこにある。
「此処だから混沌なんじゃない。混沌だから此処なんだ」
きっと神様は世界に数多のダンジョンを作って、その残り全部をここに詰め込んだんだ。だからそれが
「僕はこの光景を生涯忘れないだろう」
支離滅裂で、混沌。なのにそれは、宝石の様に輝いて見える。
「言葉では言い表せない。絵では伝えきれない。映像では足りない」
それでも彼は余すことなくこの光景を後世に残すと決めた。
だからそれはきっと、必然だった。
《条件達成》
《職業【伝承者】を取得しました》
それが起きたのはこの男だけではない。この刹那の輝きに魅せられた多くの人々がその職業を得た。たとえ世界が終ろうと、今この時を忘れないために。
SIDE:鈴木亮一郎
「『一閃』」
『ヌルイ』
完全に死角からの一撃だったが容易く弾かれる。だがそれは想定内。
「『剛力』『換装』」
太刀を仕舞い短槍を逆手で突き刺す様に弾かれた腕で強引に振るう。
『《雷轟》』
「《
ラブマシーンの雷の魔術による反撃が入るより先に俺を起点に周囲へ大神さんの霊術が広がり術同士がが相殺される。
相殺時に発生したフラッシュに紛れて短槍を投げ放つが容易に交わされる。それも想定内。
「『換装』『滅魔一射』」
即座に弓を構えて矢を放つ。
『《障壁》』
矢が止められる。問題なし。
「今だ!」
「ム?」
放ったのは煙幕矢。衝撃に反応して周囲に煙幕を張る。
「『天射』」
「《水刃矛》」
「《轟雷》」
「《フル・ショット》」
「『惨斬無斬』」
煙幕でラブマシーンの視界が遮られた瞬間に無数の能力や術が叩きこまれる。普通ならあのレベルの攻撃でダメージが徹る訳無いのだが、今だけは違う。莫大な量のバフによってレベルが低い人間の攻撃でも十分にダメージとなる。そして極めつけ、システムから追加で極大のバフが与えられた我らが【覇王】。
「《日輪霊術》が第九階梯……」
ラブマシーン直上に輝く
「ばっ……!?」
「《
太陽が、落ちた。
音は無い。そんなものは感じ取れない。
《人類側サブターゲット:【魔術師】Unknown Copy βが討伐されました》
《【
《【
どうやらシステムメッセージは聴覚に頼らないらしい。
そんな新発見で誤魔化したいところだがそうも行かない。
「生きてる……」
誰かがポツリと呟いた。その通り生きてる。何故か生きてる。霊術の多くは例外あれど現象の再現だ。
「『日輪の権能』の効果の一つだ。簡単に言えばフレンドリーファイア無効となる」
「まじかよ益々ぶっ壊れてんな【覇王】」
「所持する職業の全ての能力を完全に引き出せる【英雄】に言われたくは無いな」
完全にお互い様だった。周りの奴らの妬ましそうな眼が辛い。
因みにダンジョンそのものは無事だ。インターネットに耐久度は設定されていないのだろう。
『一人、カ』
当然のように歩み出るラブマシーン。その身体に目立った損傷は無い。
だが既にラブマシーンが召喚した権限体は今の一撃で全て消し飛んだ。追加で召喚してもいまなら十分集中攻撃で対処できる……
『トデモ思ッタカ?』
「あ?」
『《召喚》』
ラブマシーンの足元に魔法陣が展開される。権限体を召喚する気だ。
「攻撃用意」
その瞬間ラブマシーンの三つの顔が一斉に言葉を紡ぐ。
『『『《拡大》』』』
「は?」
直径約二メートルの魔法陣。それが一瞬で
各地で悲鳴が上がる。突如として至近距離に召喚された権限体から攻撃を受けたらしい。
「ちっ。《日輪霊術》が第九階梯……」
『サセン』
「させろよ」
大神さんの妨害にかかるラブマシーンの眼前へ移動して攻撃。流石に俺の攻撃は無視できないらしく対処される。
『《大瀑布》』
『『《相殺》』』
が、口までこちらに向ける必要はない。また《
「クソが! 人類は同時詠唱なんてできねえんだよ!」
『同時詠唱カ並列思考ノ
「ごもっともで!」
だが今は別に正論を求めてるわけじゃねえ!
「各員権限体への対処を優先。火力に自身のある者、ラブマシーンの《召喚》を止める援護を!」
俺でも大神さんでも無い誰かの声が響く。声に反応した奴らが適切に動き出す。【軍司】か【指揮官】がいたらしい。
「流石に戦力を分散されるときついな」
「一刻も早く奴の《召喚》を止める」
了解。
「『
全スキル開放、光速歩法開始、
人型範疇のモンスターは例外なしに首が弱点。以前俺はそう言ったが、
「が、何事も物は試しだ」
「『換装』《虚空纏》」
適当な予備の刀を装備し、刀身に虚空を纏い光速に至る。《虚空纏》を行った武器で攻撃すれば光速移動に伴う弊害は無効化できるが、代償にその武器の切れ味や直前の速度は一切参照されない。そもそも触れてないのだから当たり前だが、術耐性がやたらと高い最近の敵にはあまり相性が良くない。逆に言えば試し斬りであればどんななまくらでも構わない訳だ。
ラブマシーンの左の首に攻撃を当てる。少しばかりは食い込んだが、当然の様に弾かれた。
「やっぱ〈
今の莫大なバフが掛かっている状態ならワンチャン斬れるかもと思ったがそんな事は無かった。
「《
「《相殺》」
大神さんの牽制も容易く打ち消される。
大神さんもラブマシーンもあまり積極的に前へは出ない。それは何故か。現在の【覇王】【魔王】に乗った極大バフで運が悪ければ互いに互いのラッキーパンチで死にかねないからだ。だからどうしても攻撃の主体は術攻撃になる。
「残機、或いは回数制限」
そういえば以前ラブマシーンは全ての権限体を倒さない限りダメージを権限体に転化する事で攻撃を防げると言っていた。つまり今居る権限体の全てを削り切れば勝てる? だが相手は億単位の残機持ちだ。《
「どうする……?」
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【INFORMATION】
段々と執筆に使える時間が取れなくなっており、話の整合性も保てなくなって来たので今章を以てこの作品は一度閉じさせて頂きます。
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