ベストランカーの運命
その日の放課後、ベストランカー30名は招集がかかっていた。正直かったるいという気持ちはあったが、しょっぱなからブッチはいけません!とセレストに突っ込まれたことと、お節介にもレオが迎えに来たので大人しく連行される形となった。
「ところでミロードちゃん。番犬ちゃんはどんな感じだったぁ?」
「別に。両手首が若干赤くなっていたほかは、特に何も」
「授業に遅刻もしなかった? そっかそっか。ふーん。へー。案外優秀じゃーん」
当然だ。舐めてもらっては困る。セレストは優秀なのだ。
「じゃあ明日っからはもうちょいレベル上げてこぅかなぁ」
ニヤニヤとまるで悪巧みするレオにはとりあえずスルーを決め込んで、ミロードはそれよりも、と話題を変えた。
「わざわざ呼び出されたからにはこの後何があるんだ」
「撮影会だよぉ。毎年恒例ぇ」
「は? 撮影会?」
ミロードは顔をしかめた。
「近隣の王族たちに配る騎士カタログ的なぁ? クエスト発注の時、依頼側からご指名が入ることもあってぇ、ベストランカぁは強制的に顔を晒す運命?」
「だからライブラは好成績を残さないよう必要ポイントだけ狙い撃ちしてるのか」
「感じ悪ぅ」
指定された集合場所の部屋には既に薔薇騎士団の他、数名が集まっていた。
「お忙しぃ薔薇騎士団がぁ一同に待たされてんのウケるぅ」
「レオ。僕らも同じく待たされる身だぞ?」
「俺はミロードちゃんと一緒なら何時間でも待たされていぃよぉ」
暇人かよ。ミロードがスンと視線を逸らすと、ツカツカと靴音を響かせてアーサーがやってきた。
「ミロード。厄介者に手を焼いているならまたいつでも声をかけてくれ」
「はああ、残念でしたぁ。番犬ちゃんのブリーダーぁ引き受けたから俺もう公認だしぃ」
厄介者の自覚ありかよ。無駄に火花を散らすツートップにミロードは溜息をこぼした。
薔薇騎士団以外の面々は興味深げにミロードを観察してくる。ルーキーの登場に未だ事情を知らない上級生は困惑もあるだろう。いや、事情を知っていればこその関心かもしれない。まとわりつく無粋な視線をだがミロードは涼しい顔で受け流した。
アーサーとレオ以外の誰も、ミロードに忠誠を誓った面々はベストランカー入りしていない。つまりここにいる大半がいっさい関わりのない連中だ。こちらとしても他のメンツに用はない。
まだ見ぬ忠誠組はアリスと同列クラス、上位50までには入る成績辺りが多かった。しかしライブラのようにあえて上位に来ないステルス属性もいるので成績はあんまりアテにならないのも事実だ。
「……レオが二位の時点で既に判断基準として信用が低い」
「なんか言ったミロードちゃん」
「いや独り言だ、気にするな」
アーサーにウザ絡みを続けていたレオは、ミロードの横で大人しくなった。聞きこぼしたという事実を反省したのだろうか。ほんとに気にしないでくれていいのだが。
「騎士全体の品格を落しかねないレオンハルトが、ミロードといることで少しでも更生することを祈っている」
「良かったなレオ。まだまだ伸び代があるって」
アーサーの酷評を適当に変換してレオの頭を撫でると、ドーベルマンのイラつきも瞬間消滅してレオがチワワになった。
「ミロードちゃんがそぉ言うなら」
「こう見えて案外可愛いとこもある」
アーサーにそう報告すると、まだ少し納得いかない様子ながらもアーサーは渋々身を引く。
「手に負えなくなったら遠慮なく言ってくれ」
踵を返したアーサーの背中に、あっかんべーとレオが要らんことをしたので薔薇騎士団がめっちゃ睨んできたが、アーサーの手前、彼らが単独で何かしてくることはないだろう。
「アーサー、まだ責任感じてたんだな」
変態に絡まれたことをアーサーのせいだと言ったことが昨日の事のように思い出せる。実際昨日の事なんだが。
「ミロードちゃんが遠慮なんてするかっつうの。ばーかばーか」
ある意味でレオの方がミロードを理解していると言わざるを得ない。
「ところでアーサーに潰された右は全治どれくらいだ」
「んー。あと三日もあれば気合いで治せる気がするぅ」
ミロードは少し考えてから渋い顔をした。
「なるべく早く治しておけ。三日も猶予があるか保証がない」
「へ? ミロードちゃんがキスしてくれたら今治す」
「今度は首をへし折るが」
人が真面目な話をしている時に私欲に溺れる奴は除名処分もやむなし。レオは即座に謝罪の言葉を述べた。
「何か事件の予定が?」
「多分な。僕の読みでは一週間以内に動く。最悪今日明日何かあっても不思議ではない。そうなると一応レオが頼みの綱だ。セレストにはまだ時間が必要だし、アーサーは抱えてるクエスト多くてワロタ」
ツラツラと独り言と同じトーンでミロードがつぶやく横で、レオは「頼みの綱……」と復唱した。
「俺、めっちゃ、頼られてる……! ンンン、嬉タビ」
「まあ最悪僕一人で動くから、治らなかったら置いてく」
「ヤダヤダ治るもんすぐ治すもん」
知能が幼児退行していないか不安だ。
「は? 当然僕も同行させてもらうよ」
セレストが静かに微笑んで対極的抗議を展開してきたのは、五日後の事だった。事件は起きた。いやこれから起こる。それを見越したクエストの依頼がミロード指名で舞い込んできたのだ。そこは予想通りの展開といえなくもないが、セレストが頑なに同行の意を表明した。
「やめた方がいいです」
おずおずと口を挟んだのはライブラだ。占いをしながら今にも泣き出しそうだ。
「このクエストは人の命が脅かされている。非常に危険です。断るべきですミロード君」
「ほう? 誰が死ぬとは答えてくれなかったわけか」
「え?」
ライブラの占いをもってして、はっきり誰がと明示されない。ミロードは満足そうに笑った。
「じゅうぶんだ。」
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