第208話・第六相との戦い

 マリア、シンク、メリーの三人は、第六相『キューブ・シン・シグマ』と戦闘していた……が、思わぬ苦戦だった。


「ああもう、この……面倒ですわね!!」


 マリアは、第四階梯の力を使う。

 背中から無数の歪羽を集合させた『羽』を出し放出。キューブ・シン・シグマに向けて放射する……そして、歪羽は全て命中した。

 だが、キューブ・シン・シグマは意に介さない。


「相性、最悪かも」


 メリーが武道の構えを崩さずに言う。

 それもそのはず。キューブ・シン・シグマは巨大な白黒の球体で、自由自在に形状を変えることができたのだ。

 そして、自らの身体を数千の球体に分裂。ポンポン弾みながらマリアたちに襲い掛かる。

 メリーは素手で叩き落し、マリアは百足鱗で薙ぎ、シンクは巨大化させた爪で引き裂く。だが、キューブ・シン・シグマにダメージはない。


「これ、どうすればいいの?」

「…………」


 無数に分裂してポンポン跳ねるキューブ・シン・シグマ。

 シンクの問いにマリアは答えられない。百足鱗を伸ばし、蜷局のように巻いてシンクとメリーを匿うように包み込む。

 キューブ・シン・シグマがポンポンと百足鱗にぶつかる気配がする中、マリアは二人に聞く。


「この敵、厄介ですわね。何かわかったことは?」

「いっぱい」

「めんどくさい……眠くなってきた」

「真面目に答えなさいな……ふむ、こういう敵は大抵、本体がどこかにあるはずですわね。第六相……なかなか厄介ですわ」


 とはいえ、本体の場所などわかるはずがない。

 キューブ・シン・シグマの欠片一つを潰しても、すぐにドロドロに溶けて他の欠片と融合する。そしてすぐに分裂してしまう。

 おそらく、キューブ・シン・シグマの欠片はなんでも取り込む。マリアの歪羽は突き刺さったがドロドロに溶かされ吸収された。

 これが『第六相』と呼ばれた理由。それは、無差別に溶かし飲み込む弱点がない球体ということに、三人はまだ気付いていない。

 もしキューブ・シン・シグマが分裂し、町に入り込んだら……。


「……ファーレン王国は終わりですわね。正直、どうでもいいですが」

「ねぇねぇ、これつまんない……さっさと終わらせてライトのところ行こう」

「眠い……やば、やる気でない」


 メリーが大きな欠伸をした瞬間だった。

 キューブ・シン・シグマの一つが爆発し、百足鱗が大きく揺れた。


「なっ、な……なにが!?」

「爆発したっぽい」

「ん~……」

「あなたたち、もっと緊張感を持ちなさいな!! くっ……百足鱗は無事のようですわね。どうやら、戦法を変えてきたようですわ」


 マリアが出せる百足鱗は全部で八本。その全てを防御に回し、キューブ・シン・シグマの爆発からガードする。

 外では、キューブ・シン・シグマの爆発が始まった。

 マリアの百足鱗に着弾、そして爆発が繰り返され、百足鱗の数本に亀裂が入る。


「不味いですわね……長くはもちませんわ」

「ねぇねぇ、逃げ道ならあるよ。ボクに任せて」


 シンクがそう言うと、マリアとメリーは頷く。

 だが、メリーはともかくマリアは激しく後悔することになる。


 ◇◇◇◇◇◇


 キューブ・シン・シグマの爆発から数分。

 爆発したキューブ・シン・シグマの破片が少しずつ集まり元の球体に戻っていく。爆発しても消滅せず、欠片はさらに小さな破片となって飛び散っていた。

 大体、分裂したキューブ・シン・シグマの半分ほどが爆発。マリアの百足鱗も限界……それを悟ったのか、キューブ・シン・シグマの欠片が一斉に着弾した。


 そして、大爆発……百足鱗が吹き飛んだ。


 マリアたちは吹き飛んだ。

 キューブ・シン・シグマに意志があるならそう考えただろう。

 爆発の衝撃で粉々になったのか、そこには肉片すら残っていない。

 

「うぅ、わたくしの髪、わたくしのドレス……」

「…………しーっ」

 

 だが、死んでいない。

 シンクの爪と義足をドリルのように変形させ、地面を掘り進んで逃げたのだ。

 おかげで、マリアたちは土まみれ。ガチ泣き寸前のマリアをメリーが慰め、キューブ・シン・シグマの遥か後方に穴を開け、様子をうかがっていた。


 前提として、キューブ・シン・シグマを倒す必要がない。

 ライトたちがファーレン王国に向かえるだけの時間を稼げばいい。

 再び巨大な球体になったキューブ・シン・シグマは、くるくると回転をして周囲をポンポンと跳ね始めた。


「そのまま行っちゃえ……おまえ、嫌い」


 土まみれのシンクが悪態をつく。

 メリーは土まみれのままウトウトし始め、マリアは頭の土を払う。

 そして、キューブ・シン・シグマの動きがピタっと止まる。

 同時に、シンクは目を見開いた。




「おや……あれはなにかな?」

「大きい……なんだか不気味」

「あうぅ?」




 なぜ、こんなところに。

 神父と、赤ん坊を抱いた修道女がいた。

 それは、バルバトス神父とサニー、そして二人が引き取った赤ん坊アシュレー。

 シンクは叫んだ。




「逃げろ!!」




 この瞬間、戦いは再開。そして再会した。


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