第198話・大罪神器【傲慢】ギルデロイ・ピッチカート・プライド

 着替えたパティオンは、不機嫌なままソファに座る。ちなみにブリザラは水着のままだった。


「……で、何か用?」

「お前、【傲慢】の居場所を知ってるんだろ。吐け」

「……人の裸を見たくせに。それが物を頼む態度?」

「……悪かったよ」


 ライトは素直に謝った。着替え中とは知らず、パティオンを呼び出したことに変わりない。それに、裸体を拝んだのも事実である。

 ブリザラは水着のまま言った。


「冒険者ギルドや情報屋を使ってるみたいだけど、そんなんじゃぜーったいに見つかんないよ。ふふふ、そもそもの前提が間違ってんのさ」

「……どういうことだ?」

「くひひ。ま、そろそろネタバレしてやってもいいんじゃね? ねぇパティオン」

「……ま、いいか」


 もったいぶる二人の女神に、ライトは少しだけイラつく。

 それを感じ取ったのか、ブリザラは胸の谷間を強調するようなポーズで言うが、ライトにそんな色仕掛けは通用しなかった。


「まぁまぁ。教えてあげるてもいいけど、条件があるし」

「なんだよ」

「んふふ……みんなでメシ食いに行くべ」

「…………」


 こうして、大罪神器所有者と女神の一行は、食事をしにワイファ王国城下町へ繰り出した。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 向かったのは、魚介系の鍋屋だった。

 ライト、リン、マリア、シンク、メリー、ツクヨミ。そしてパティオンとブリザラという美女、美少女集団は集団で歩くだけで人々の視線をかっさらう。

 ライトには羨望や怨恨の視線が集中するが、ライトは無視した。


「─────♪」

「おい、くっつくな……つーか、いい加減に離れろって」


 ツクヨミはライトから離れようとしない。

 パティオンは、本気で首を傾げた。


「なんでツクヨミはあなたを気に入ったのかしら……?」

「こっちが知りたい」

「うーん。まぁ、好きにしていいわ。私たちに危害は加えないだろうし、あなたが気に入ったみたいだし。ツクヨミがいればフリアエなんて一瞬で消せるから、戦わせるときは注意してね」

「戦わせねーよ。俺の復讐は俺の戦いだ」

「はいはい。あと、手を出したら最後まで責任取りなさいね」

「やかましい」


 鍋屋に到着し、八人は個室を貸し切った。

 大食いばかりなので、長テーブルには鍋が八つ用意された。リンは顔をひきつらせる。


「ひ、一人鍋一つはさすがに……」

「大丈夫。ボクが食べるよ」

「あたしもー……ふぁぁ、眠いぃぃ」

「わたしの分、あなたに差し上げますわ」

「いい。やるんだったらそこの女神二人にやれよ」

「人間の食文化ってサイコー!! ね、パティオン」

「はいはいそーね」


 魚介鍋は出汁が利いてとてもうまい。

 【傲慢】の居場所をさっさと知りたいライトだったが、パティオンとブリザラの言うことを聞くしかない。

 鍋に付きあうだけで居場所が知れるなら安いものだ。


「ん、美味しいね」

「ええ。ワイファ王国は長いですが、このお店は初めてですわ」

「おいしい……メリー、貝ちょうだい」

「やだ。たべちゃう」


 リンたちは鍋を満喫している。

 ライトも適当につまんでいたが、くっついたままのツクヨミが「あーん」をしてくるせいで落ち着かない。


「ほら」

「ん─────おいしい」

「はぁ……なぁ、もういいだろ? さっさと【傲慢】のところに案内してくれよ」


 ライトは、すでに鍋を完食して楊枝でシーシーと口の中を掃除していたブリザラは言った。


「いいよ。たぶん、すっげぇ驚くと思う……覚悟しといた方がいいかもね」

「……もったいぶりやがって」

「あはは。うちらも偶然見つけてさ、マジで驚いたんだわ」


 ブリザラはケラケラ笑い、パティオンはため息を吐く。

 一行は鍋屋を後にし、大罪神器【傲慢】がいる場所へ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


「…………うそ、だろ?」

「驚いた?」


 案内された場所に到着した。

 そして、すぐにわかった。大罪神器【傲慢】がいたのだ。

 だが、ライトだけでなく、全員が驚いていた。

 

『よぉ、ギルデロイ』

『おぉや。カドゥケウス殿ではありませんかっ!! むむむ? シャルティナ殿、イルククゥ殿、アルケイディア殿まで!!』

『うっさい。つーかあんた……なに、それ?』


 シャルティナの意見はもっともだ。

 そう、目の前に大罪神器【傲慢】の所有者はいる。

 いるのだが……。


「ふぇ、ふぇぇ……あはは、あは」


 そこは、孤児院だった。

 常夏の国だが、今日はどこか涼しい。日光浴には最高の天気だ。

 孤児院の庭の日陰に……小さなベビーベッドが置かれていた。

 そして、そのベビーベッドの中には、生後半年にも満たない赤ん坊と、まるでお守りのように『装飾の施されたベルト』が置いてあったのである。

 声は、ベルトから発せられていた。


『初めましての方もいらっしゃるようで。ワタクシは大罪神器【傲慢】、ギルデロイ……お見知りおきを』

「……冗談きついぞ」


 大罪神器【傲慢】の所有者は……生後半年にも満たない赤ん坊だったのだ。

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