第195話・女神訪問

「……で、その子は誰ですの?」

「闇夜の女神ツクヨミ……」


 ライトは、裸のまま部屋に入ってきたマリアが無事なことに安堵した。そして、わけもわからず隣の部屋に移動させられ、代わりとばかりにライトに抱き着く裸の少女ツクヨミを見て、苛立ちを隠そうとしない。

 時間は明け方……まだ起きるには早いが、日は登り朝になった。

 カーテンの隙間から漏れる日差しが、ライトの部屋を明るくする。


『ま、マジ? なんでこの子、裸……まさかライト、ヤッたの?』

「ヤッてねぇし。俺が裸なのを見て、こいつも裸になったんだっつーの。揺さぶっても起きないし、なぜか動けないし……こいつが起きるのを待ってるんだよ」


 シャルティナもツクヨミの存在に驚く。

 マリアは裸体を隠そうとせず、やはり苛立ちを隠せなかった。


「全く、そんなにくっついて……」

『あらマリア、ヤキモチかしら?』

「さぁ? ですが、勝手にわたしの別荘に入ったことは許せませんわね。女神というなら敵なのですか?」

『マリア。死にたくなければ手を出さないで。この子、めっちゃ強いわよ』

「む……」

「マリア、手を出すな……お」


 ゆっくりと、ツクヨミの目が開く。

 可愛らしく欠伸をして起き上がり、ライトに跨ったまま背筋を伸ばす。

 ぷるぷると小動物のように首を振り、ようやくライトから離れた。


「ごはん─────たべたい」

「は? め、メシか……わかった。準備しよう」

「は? ちょっとライト」

「いいから、頼む」

「むぅぅ……」

「ありがとう─────やっぱりあなた、温かい」

「あ、ああ……」


 ツクヨミはにっこり笑う。すると、足元の影が身体を覆い、昨夜見た喪服のようなドレスに身を包む。

 ライトとマリアも着替え、ライトはようやく自由になった。


「さて……リンに頼んで、メシを一人分多く作ってもらうか」

「…………もう、わけがわかりませんわ」

「─────♪」


 ツクヨミは、なぜか楽しそうだった。

 ライトとマリアには、ツクヨミの思考回路がまったく読めなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


『なんと……神界を闇に染めた暗黒の女神ツクヨミとは』

『わぁお。マジ?』


 イルククゥとアルケイディアも驚いていた。

 ツクヨミは普通に椅子に座り、リンの淹れたお茶を啜っている。


「……め、女神って。なんで?」

「俺が知るか。昨日の夜に襲われたんだよ」

「襲われたって……ま、まさか」

「ヤッてないからな」


 リンは顔を赤くしていたが、ライトはすぐに否定した。

 メリーはどうでもいいのかソファに座ったまま眠り、シンクは興味深々なのを隠そうとせず、なんとツクヨミの隣に座った。


「ねぇねぇ、ボクはシンク。よろしくね」

「ん─────よろしく」

「あなた、どうしてここに来たの?」

「話を、しに─────」

「話? そっか。じゃあボクとお話しよ! ボク、女神とちゃんとお話してみたかったんだ」

「うん─────いいよ」


 シンクは何が嬉しいのか、ツクヨミに話しかけていた。

 ライトとリンはその光景を見て驚く。


「ど、どうするの?」

「どうするもなにも……追い返せるわけないしな。帰るのを待つしか」


 そして、朝食が完成……ツクヨミを加えた六人で食べた。

 妙な緊張感が漂う朝食だったが、シンクとツクヨミはまるで気にしていない。

 とにかく、ツクヨミをどうするか。

 朝食後、ライトは帰ってもらおうと提案する。戦いになるのだけは絶対に避けるべき相手だ。

 意を決してツクヨミに話しかけようとして─────。


「ごめんくださーいっ!! あー……ツクヨミいますかー!!」


 と、ドアが乱暴にノックされた。


  ◇◇◇◇◇◇


「え、えー……と」

「パティオン、こいつらめっちゃ強いよ。死ぬかも」

「って、てか、なんでツクヨミがここに……あの、ツクヨミ?」


 来訪者は、希望の女神パティオン、そして白銀の女神ブリザラだった。

 カドゥケウスを構えたライト、百足鱗を出したマリア、爪を伸ばしたシンクが対応するなり、両手を上げて降伏したのだ。

 パティオンは、両手を上げながら言った。


「争うつもりはないわ。私はあなたたちの話が聞きたいの」

「…………」

「その、ツクヨミから聞いてない? 私たちの目的は、あなたたちとお話することだって」

「…………」


 ライトがカドゥケウスを下ろすと、マリアとシンクも武器を収めた。

 ぶっきらぼうにライトは言う。


「ツクヨミ……お前たちの差し金か?」

「差し金っつーか、いつの間にかいなくなってたんよ。うちらも探してた」

「……まぁいい。話だったか」

「そ、そう!! お願い、話をしたいの」

「……わかった。入れよ」


 こうして、パティオンとブリザラを別荘に入れた。

 ここに、前代未聞……女神と大罪神器の所有者の話が始まった。

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