第160話・ダンジョンクリア

「そろそろ四十階層か?」

「ええ。恐らく」

「……zzz」


 ライトとマリアとメリーは、下層に向かって順調に歩いていた。

 そこそこ強い魔獣も出たが、ライトとマリアの敵ではない。メリーを交代で抱えつつ、一階層ごとに交代で戦った。

 ライトは、マリアに言う。


「お前、強くなったよな」

「そうですか? あなたに言われると納得してしまいそうですわ」

「普通に褒めてるんだよ。最初の頃とは別人だ」

「ふふ。あなたもですわ」

「ま、俺は強くなった自覚あるけどな。油断もしない」

「それだけじゃありませんわ。ライト、あなた……顔つきが優しくなりましたわ」

「……そうか?」

「ええ」


 マリアはにっこり笑う。

 ライトは気恥ずかしく、つい顔を反らしてしまった。

 優しいなどと言われたのは久しぶりで、反応に困ってしまう。でもマリアは続けた。


「最初に出会ったころは怖くて、自分のことしか考えていない身勝手な男と思ってましたけど……今は信用しています。わたしやリン、シンクの……ついでにメリーのことも、ちゃんと考えてくれてますわ」

「…………そうかな」

「ええ。わたしは、いえ……リンもそう思ってると思います」

「…………」


 マリアの声色は優しく、ライトを思う気持ちが籠っている。

 ライトは、つい考えてしまう。

 復讐など止めて、純粋に冒険者として、マリアとリンとシンク、ついでにメリーと一緒に冒険ができたら、どんなに楽しいことか……と。

 だが、首を振る。

 女神がいるかぎり、そんなことは絶対に不可能だ。

 ライトは、マリアに聞こえないように呟いた。


「……俺は優しくなんかない。セエレとアルシェを殺して、残りの勇者三人も殺そうとしてる。しかも女神の一人を殺して喰った……優しくなんかない」


 復讐を終えた後、もし命があれば……。


「ライト?」

「…………」


 ライトは、マリアを見た。

 長い金髪をした赤目の美少女。ドレスを着て背中から百足鱗を出し、メリーを拘束している。今ではもう、信頼できるし背中を預ける相棒だ。


「帰ったら……祝福弾の実験に付き合ってくれ」

「……ええ。構いませんわ」


 命があれば、人生を謳歌したい。

 父や母、レグルスとウィネが望んだように。今度はこの世界を冒険してみたい。

 仲間と一緒に、この世界を。


 そして、四十階層へ続く階段に到着した。


 ◇◇◇◇◇◇


「あ」

「あ」


 四十階層入口は、狭い半円形のドームになっていた。そこに、リンとシンクが待っていた。

 シンクはパァッと表情を輝かせると、ライトの胸に飛び込む。


「ライト!!」

「っと……危ないな。いきなり飛びつくなよ」

「んん~」


 ライトはシンクの頭を撫でる……自然と手が伸びたことに驚いたが、シンクも嫌がるどころか喜んでいたのでそのまま撫でた。

 マリアはリンに抱き着き、そのまま胸を触っていた。


「あぁん、リンン~……会いたかったですわぁ」

「だから胸触んなっての!! ああもう、メリーは大丈夫なの?」

「ええ。傷一つありませんわ。まぁずっと寝ているだけでしたので……」

「でも、そいつのおかげで助かったこともある」


 ライトは、SS級賞金首『マカハドマ』を討伐したことをリンに報告した。

 リンたちも、シンクの活躍でS級賞金首『迷宮ゾンビ』を討伐したことを伝える。するとライトは肩を落とした。


「なんだ……せっかく祝福弾にできると思ったのに」

「……ごめんね」

「ああ、いいって。悪かった、そんなつもりじゃないんだ」


 ライトは、しょんぼりするシンクの頭を撫でる。

 

「ま、戦利品に『透明化』の祝福弾をゲットだ。こいつを使えば透明になれる」


 検証の結果。姿だけでなく衣服や気配も消えるようだ。マカハドマの場合、自身が触れた物の音すら消せるようだが、劣化した性能なのでそこまでではない。だが、気配や姿を消せるのは大きなアドバンテージとなる。


「とりあえず、ダンジョンから出るか。腕慣らしも済んだし、ここでのダンジョン探索は終わりでいいだろ」

「じゃあ、第五相のダンジョンに行くの?」


 リンが聞くと、ライトは頷いた。

 

「そうだな。お前らもいいか?」

「わたしは構いませんわ」

「ボクも」

「……zzz」


 全員が頷いたので、次の目的地は第五相『大迷宮』ラピュリントスのダンジョンがある、ウェールズ王国へ向かうことにした。

 目的地も決まり、後はダンジョンを出るだけ。


「あ、そうだ。賞金首を倒したこと、報告だけしないと」


 マリアが首を傾げた。


「でも、討伐の証明には討伐対象の部位が必要なのでは?」

「別に賞金目的じゃないし……賞金首がいなくなったってみんなが知れば、このダンジョンも多少は安心して進めるでしょ?」

「待て、部位はないけど……」


 ライトはポケットから『マカハドマ』が使っていた針と、その針を収めたケースを取り出した。祝福弾にしたときに見つけたものだ。


「あ、ボクもこれ」


 シンクも、迷宮ゾンビが装備していた腕輪をリンに渡す。本体が装備していたので、念のため拾っておいたものだ。

 リンは、ライトとシンクから受け取る。


「ありがとね。とりあえずこれで報告してみる」


 話は終わり、五人はダンジョンを進む。

 当然だが、誰一人傷つかずにダンジョンを脱出した。


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