第156話・ダンジョンでの戦いと暗雲
ライトはカドゥケウス・セカンドを構え、ポケットに入れておいた金属片を握る。
「装填」
弾丸が12発装填された。
グリップ近くにあるレバーを切り替えることで、単発発射か二発同時発射を切り替えることが可能で、ライトは単発式に切り替え、左手を巨大化させる。
近接では左手による攻撃、遠距離ではカドゥケウス・セカンドによる銃撃。これがライトの戦闘スタイルだ。
「……来たか」
ダンジョン・第11階層の魔獣はリザードだ。
二足歩行の蜥蜴で、手には剣と盾を装備している。動きが素早く、鱗による防御力はなかなか高い、青銅級冒険者ではやや手を焼く魔獣だ。
「援護はいりまして?」
「いらね。つーか、手を出すなよ。この階層は俺一人でやる」
縦長の通路は横幅も広く高さもある。リザードの数は30を超え、まだまだ増えつつある。
この階層の特徴は、単純な物量だ。逃げ場のない長い通路に大量のリザードが配置され、否が応でも戦わなければならない。
だが、ライトにとっては好都合だった。
「カドゥケウス、まずはシンプルに行くぞ」
『おう、好きにしな。今の相棒じゃ大抵の魔獣は雑魚だろーよ』
「油断はしない。どんな雑魚でも一刺しがあるかもしれないからな」
『勇者とは違うってわけね……さすが相棒』
ライトはカドゥケウス・セカンドを構え、リザードの群れに突っ込んだ。
カドゥケウス・セカンドを発砲しながら接近する。
「ギャッ!?」「ブワッ!?」「ガガッ!?」
弾丸はリザードの頭部に命中。撃たれたリザードは即死。
ライトは左手を伸ばし、リザードの盾を摑んだ。
「装填」
弾丸を装填。その場でジャンプしてリザードの死体を飛び越え、接近するリザードを巨大化させた左手で薙ぎ払う。
攻防一体の左手。第五階梯『
「よっとぉ!!」
左手を握り、巨大化させて殴る。
それだけでリザード数体が吹っ飛ぶ。あとはカドゥケウス・セカンドを撃つだけ。
隙ができれば祝福弾を装填。これまで獲得した祝福弾を組み合わせて発射する。
「
ライトは、一匹のリザードに狙いを付け、『爆破』と『硬化』の祝福弾を同時に発射した。
爆破によってリザードの身体は粉々に砕け散り、砕け散った肉片が『硬化』する。それによって、弾丸のような速度で肉片が飛び、周囲のリザードたちが吹き飛んだ。
『エッグい使い方するなぁ……』
「やかましい」
祝福弾の効率よき使い方。
砲身が二門になったことで、祝福弾を同時に発射することが可能になった。
爆破と硬化のコンボ。これは使える。人間にも有効だろう。
「さて、実験の続きだ」
ダンジョン・11階層の魔獣は、12分で全滅した。
◇◇◇◇◇◇
その後、30階層までライト一人で戦った。
左手とカドゥケウス・セカンドによる戦闘訓練に、ダンジョンは持ってこいだ。
祝福弾の組み合わせによる戦闘も慣れ始め、明らかな手ごたえを感じていた。
「いける。左手とカドゥケウス・セカンド……これなら女神にだって通じる」
「ねぇ、次は私たちに任せてよ」
「わかった。その前に、少し休まないか?」
そう言うと、リンはガイドブックを取り出す。
「えーと、ここは30階層だから……あ、少し先に休憩スポットがあるみたい。行こう」
「いいタイミングですわね。お腹も空きましたし、お昼にしましょうか」
「ごはん!」
「…………zzz」
「そのガイドブック、そんなことまで書いてあるのかよ」
「うん。35階層までの攻略法やルートが書いてあるよ。私たちの目的は踏破じゃないし、スピードを競ってるわけでもないから言わなかったけどね」
早朝にダンジョンに入り、お昼前に30階層。誰も気にしていないが、驚異的なスピードでの攻略だった。
ライトたちはリンの案内でダンジョンの休憩スポットへ。
「お、ここ……か」
休憩スポットというより、ただの広い空間だった。
テントを張っている冒険者や、マップを確認しているグループもいる。生活感があることから、この場を拠点にしている冒険者グループだろう。
適当に会釈し、空間の隅に移動して座る。
「じゃ、ご飯にしよっか」
リンは『影』から町で買ったサンドイッチのバスケットを取り出す。
ライトは担いでいたメリーを下ろし、影から毛布を出してその上に寝かせてやる。だがメリーは起き、サンドイッチを掴むとモグモグ食べ始めた。
「……視線を感じますわね」
「ほっとけ」
冒険者グループが、ヒソヒソと何か話している。
5~8人ほどのグループが4つほどで、全員が仲間という雰囲気ではない。ダンジョン探索で数か月潜るということもあると聞いたことがあるライトは、リンに聞いた。
「仲間だと思うか?」
「……さぁ。なんで?」
「賞金首の件もあるからな。あの中にいる可能性もあるし、いかなる場合も油断するな」
「わかった。マリア、シンク、メリーもいい?」
「わかりましたわ」
「ボクのが強いよ。おかわり」
「……ぐぅ」
正直、リンは不安だった。
だが、ライトにマリアにシンク。この三人にとって賞金首など敵ではない。女神や勇者を雑魚扱いして嬲る大罪神器の所有者は伊達ではないのだ。
だが、リンも気付いていない。
ライト、マリア、リン、シンク、メリー。
まだ十代半ばの少年少女が、たった半日で30階層まで来たことをこのグループは知っている。楽し気にサンドイッチを頬張る姿に、苛立ちを感じている。
長年、ダンジョンに潜って魔獣を狩り、素材を獲得して地上に戻る生活をしている冒険者たちにとって、この少年少女はうっとおしい存在だった。
「…………ぉぃ」
「…………ぁぁ」
この場のグループは味方ではない。
だが、敵でもない。
結託し、異物を排除することもある。
長年、このダンジョンを探索している冒険者グループたち。
ダンジョンのことは、誰よりも知っている。
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