第151話・眠り姫?

 ウェールズ王国は秋の国。

 カラフルな色合いの葉の成る樹木に、イチョウのような黄色の葉っぱ、山を見れば秋の深まりを感じさせる光景に、手綱を握るリンの心も穏やかだ。


「綺麗……私、住むならこの国がいいな」

「あら、海の方がいいですわ。暖かいし、海沿いの別荘で毎日リンと抱き合って……」

「ちょ、胸触んないでよっ!!」

「おほほ。リンの身体はわたしのモノですわ! あんなに愛し合ったのにもうお忘れ?」

「ばば、バカ! ってか、雪山ではあんたが勝手に私を……しかもシンクまで!!」

「うふふ、素晴らしい夜でしたわ」

「っく……この変態」


 マリアは女子が好き。それがリンの判断だが、どうも最近マリアが……。


「ねぇマリア、なにかあった?」

「え?」

「いや、なんかこう……明るくなったというか、雰囲気が変わったというか」

「そう見えます? うふふ、きっとわたしが男を知ったからですわね」

「へぇ~……え?」

「うふふ。女の子もいいけど、男も悪くありませんわ」

「そそ、それって……うそ!?」

「安心してくださいな。ライトとは一度きり……わたしの本命はリンですわ!!」

「うわわっ、だだ、抱き着かないでよっ!!」


 御者席で暴れるリンとマリアを、ライトとシンクは車内で見ていた。

 

「なにしてんだ、あいつら?」

「さぁ。ねぇライト、おかし」

「ダメだ。お前食べすぎなんだよ」

「むー」


 頬を膨らませるシンクの頭を撫でるライト。

 あまりにも自然に手が伸びたので、シンクよりライトのが驚いた。


「ライト?」

「あ、いや、これは……わ、わるい」

「ううん。気持ちいい……もっとなでて」

「…………」


 秋の陽気が馬車を照らす。

 四人の少年少女は、ウェールズ王国のとある都市に向かっていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 冒険者の集まる国。それがウェールズ王国の特徴だ。

 かつて、この国の王が《ギフト》で作りだしたダンジョンで冒険者を呼び、町となり国になったという伝説がある。

 その王はいくつものダンジョンを生み出し、最終的には自分がダンジョンになってしまった……という伝説がある。

 王が生み出した最大級の大きさと難易度を誇るダンジョンが、『八相』の一つに数えられるほど凶悪な物になったという。


 第五相『大迷宮』ラピュリントス。


 ライトたちが向かった都市は、大迷宮のあるウェールズ王国から少し離れた都市。ここも多くの冒険者があつまり、それぞれがダンジョンを攻略すべく昂っていた。

 大迷宮に挑む前の腕ならし。それがこの都市にあるダンジョン。

 ライトたちはダンジョンに挑む……つもりはなかった。

 それどころか、都市に到着すらしていなかった。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 ダンジョン都市に続く街道の中腹で、ライトたちの馬車は止まっていた。

 理由は簡単だ。街道のど真ん中に人が倒れていたのである。

 

「死んでるのか?」

「……うぅん、生きてるみたい」


 ライトがリンに聞く。

 行き倒れに見せかけた盗賊の可能性もあるので、ライトはカドゥケウス・セカンドを抜き、リンたちに馬車と周囲を警戒するように指示を出す。

 ライトは行き倒れにゆっくり近づきながら小石を拾った。


「装填」


 通常弾は全十二発装填可能。進化したことで装弾数も増えた。

 念のため左腕の袖を巻くり、ゆっくり近づく。勇者や女神を殺したライトでも油断はしない。どんな不意打ちを受けるかわからない。

 たとえ相手がアリでも、決して油断しない。


「おい」


 ライトは、行き倒れを足で軽く小突いた。すると行き倒れはコロンと転がり仰向けになる。

 よく見ると、妙な服を着ている。白と青を基調とした見慣れない服に、袖がやたらダボダボしていた。髪も膝下まで伸びており、顔つきや体型から女だとわかった。

 

「んにゅ……」


 行き倒れの女は、ライトと同い年くらいだろうか。

 妙な女にばかり縁があるなと思いつつ、カドゥケウス・セカンドを構える手に力を込める。

 白い服に白い髪の女は目を開け、大きく背伸びした。


「くぁ……おぁよ」

「…………そこをどけ」

「ふぇ? あぁ……またやっちゃった。あたし、眠くなるとすぐに寝ちゃうんだよねぇ~……怠惰怠惰。反省反省」

「……怠惰?」

「んん~……」


 白い女は座り込んだまま左右に揺れ、首もフラフラして落ち着きがない。

 眼もトロンとしているし、今にも眠ってしまいそうだった。


「あ、馬車」

「……?」

「おにーさん。馬車に乗せてほしいなぁ……町までおくって」

「……なんだお前」

「おねがーい」


 少女は立ち上がり、ライトに手を伸ばしてきた。

 ライトはその手を躱し、カドゥケウス・セカンドを構え─────。


「ッッ!?」


 ライトの腕が、ガクンと落ちた。

 腕に力が入らず、カドゥケウス・セカンドを落としてしまう。右腕の肘から先が消失したように感覚が消えた。


「あ、やっちゃった……ごめんね?」


 ライトはこの少女を敵と認識。左手を巨大化、硬質化させる。

 右腕の感覚がない状態で戦闘開始。マリアとシンクに向かって叫ぶ─────。


『待て相棒。こんな偶然ってあるのか……アルケディア』


 カドゥケウスが、聞きなれない名前を呼んだ。

 そして……少女の胸元で揺れるペンダントから声が聞こえた。


『カドゥケウス!? あはは、お久しぶりじゃん』

『よぉ、【怠惰】のアルケイディア……』


 大罪神器【怠惰】アルケイディア・スロウス。

 ウェールズ王国に入って数時間。まさかの大罪神器所有者との出会いだった。


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