第84話・第二子イエヤス
リンを貸し住居に残し、ライトとマリアは冒険者ギルドにやってきた。
リンは青銅級なので、B級賞金首までなら討伐依頼を受けることができる。二人は依頼掲示板に向かい、獲物を物色した。
「B級盗賊団『カラス』の壊滅……首領はB級賞金首『カラス』か。面白そうだな」
「こちらにはB級賞金首『夜王』がいますわ。同じくB級賞金首『天魔』なども」
「ワイファ王国とは違って高レートの賞金首がたくさんいるな」
ライトは、依頼掲示板の隅に貼ってある手配書を見た。
そこには『四肢狩り』の依頼書が貼られており、長い間放置されているのか色あせていた。
もちろん、手を出すつもりはない。シンクは強敵で、今はまだ勝てない。自分の力量を正確に判断し、生き残るためには逃げることも必要だとライトは考えている。
「情報がしっかりしてる依頼だけ受けるか。あと、賞金首の情報でギフトが割れてるやつとかいないか?」
「……残念ですがありませんわ。高レートの賞金首に関する情報はなかなか出てこないようです。やはり、対峙して生きて帰った者が少ないということでしょう」
「仕方ないな……とりあえず、アジトが割れてる盗賊団を叩くぞ」
「ええ、わかりましたわ」
いがみ合いもせず、ライトとマリアは依頼書を探し、アジトが割れている盗賊団の討伐依頼を受けることにした。
ギルド長にお願いした通り、リンの冒険者ライセンスで依頼を受けることができた。功績はリンのものだが、ライトもマリアも功績に興味なし。
「B級賞金首が首領の盗賊団『カラス』を討伐だ。場所はヤシャ王国北東の山林、道中はトラップの宝庫で、討伐に乗り出した冒険者パーティはアジト到着までに全滅するらしい」
「まぁ、楽しそうですわ!」
この日から、『賞金首殺しの二人組』として、ライトとマリアは恐れられることとなる。
◇◇◇◇◇◇
リンは一人、貸住居の和室でゴロゴロしていた。
黄金級冒険者ハインツがリンを勧誘し、ヤシャ王国の第二子イエヤスがリンに求婚をしているという情報のおかげで、外出ができないのである。
リンとしては、どちらが正面から来ても断るつもりだが、リンの知るイエヤスはとてもしつこかったのを覚えている。魔刃王討伐した暁にはリンを迎えに行くとまで言っていた。
当時はレイジがいたのでなんとか切り抜けたが、今回はいない。
嫁に行くつもりはないが、面倒だった。
「はぁ~……ライトとマリア、大丈夫かなぁ」
リンは知らない。二人が『賞金首殺し』と呼ばれているのを。
その功績全てがリンのモノになっているということも、知らない。
「私も行きたいな……」
イゾウの忠告はありがたいが、リンは冒険者なのだ。
イエヤスが何を言おうと、嫁に行くつもりはない。ハインツに勧誘されようと、リンはライトたちと一緒に旅をしているのだ。
「やっぱり、私も次から参加しよう!」
リンは縁側に移動し、広い庭を眺める。
すると、庭で駆け回っていたマルシアがリンに甘えるように足に擦り寄り、満足したのか影の中に飛び込んでしまった。まるで影が犬小屋だと思いつつ苦笑する。
「というか、ファーレン王国が捜索って、絶対にレイジだよね……あいつ、本当に何を考えてんだか」
リンとしては、レイジに情はない。
勇者として増長し、ライトの両親を目の前で殺したことは絶対に許せない。ライトに殺されたとしても文句は言えないだろう。
リリカはレイジしか見ておらず、アンジェラとアルシェも同じだ。かつて旅をした仲間なのに、どんなことを話したかもおぼろげだった。
「まぁ……私、嫌われてたっぽいし」
リンはレイジと同郷だ。同じものを見て知っているリンは、リリカたちから嫉妬されていたと思っている。アルシェも同じだろう。
でも、自分は皆と仲良くした。そう思っていた。
「ま、もう無理だけどね」
セエレが死んだとき、リンの中でも何かが切れた。
ライトは、リリカたちを殺す。それは絶対に止められない。ライトの側に立ったリンは、もう勇者一行の仲間ではない。レイジはリンを殺すつもりがないかもしれないが、リンは向かってくるレイジを拒絶する。戦いになれば剣を抜く。
「…………」
リンは、青空を見上げる。
「…………私、もっと強くならないと」
そう、決意した────────。
「ん?」
すると、貸住居の引き戸がガンガンと叩かれた。
来客か、それともライトたちが帰ってきたのかと思い、出迎えるために玄関へ。
「はいは────────」
引き戸を開けると、そこには……。
「やぁリン! またこの国に来てくれるなんて嬉しいよ!」
「げっ……」
「さぁ、話したいことがいっぱいある! 小生の家でこれからのことを話そうではないか!」
「い、イエヤス様……えっと、私、今は冒険者で、仲間と旅を」
「いいからいいから、さぁさぁ!」
「あ、あの!」
ヤシャ王国の第二子イエヤス。
二十歳ほどの好青年だが、女好きで金遣いが荒いと専ら噂の王子であり、この年で妻が二十人以上いる。
今はリンに夢中で、正妻の座を開けているらしい……。
「ねぇリン、お茶くらい出すから付き合ってくれよぉ……」
「うっ……」
何より恐ろしいのが、人懐こい笑顔。
この笑顔に皆騙される。どんな女性も母性本能をくすぐられ、言うことを聞いてしまうのだ。女は、イエヤスに抗えない。
「ねぇ、おねがい、ね?」
「……ま、まぁ、ちょっとだけなら」
「やった、ありがとう!」
これが、ヤシャ王国の第二子イエヤスの
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