第82話、戦闘終了

 

 スキイロクラゲは全滅したようだ。

 ライトとマリアは周囲を警戒し、リンはハインツに声をかける。


「大丈夫ですか? 怪我は……「リン! きみは、君たちは何者なんだい!?」

「え、あの……」

「すごい、すごいよリン! あんな規模の魔術初めて見た……ああ、本当にすごい」

「あ、あの」

「リン、ボクは君に惚れたよ。どうか、ボクのパーティーに入ってくれないか?」

「え」


 いきなりの勧誘にリンは戸惑う。そして、リナがハインツの首根っこを掴んで無理矢理引っ張った。


「落ち着きなさい。今はあと! リン、ごめんね」

「う、ううん。それよりみなさん、怪我はないですか? 私、回復魔術も使えるんで」

「……氷に続いて水の最高難易度である回復までとはね。とりあえず、怪我人はいないわ。ありがとう」

「よかった……」


 リンは胸をなで下ろすと、ハインツが再び来た。


「リン、君のことがもっと知りたい…………んん? リン、きみ、どこかで……?」

「あ、ええと、とにかく一度、ここから出ましょう! たぶん、スキイロクラゲは全滅したでしょうし、ギルド長に報告しないと!」

「あ、ああ」

「……やれやれ」

「リン、これから大変だよ?」


 ダイノスは呆れ、ルーナは苦笑する。

 よくわからないが、リンはハインツに気に入られたようだ。周囲を警戒していたライトとマリアが戻ると、リンは言う。


「じゃ、一度戻ろっか」

「ああ。第四相が出なかったのは残念だけどな……」

「わたし、温泉に入りたいですわ」

「帰ったらゆっくり入ろう。それに、お腹も減ったわ……」


 のんびりと話すライトたちを見るハインツは、リンに釘付けだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 林の入口に戻ると、数人が地面に倒れ、みんな肩で息をしていた。

 倒れているのは麻痺毒を喰らい、肩で息をしているのは戦闘疲れだ。ライトたちは疲労こそあったがそこまで疲れておらず、普通に立っている。


「怪我人はいますか? 私が治療します!」


 リンは倒れている人に治療魔術と解毒魔術を掛け始め、周囲を驚かせる。

 回復魔術は稀少で、専門魔術師でないと使用できない。しかも法外な値段を請求するのは当たり前だ。それなのに、何も言わずに当たり前のように魔術を行使している。

 当然、イゾウは慌てた。


「ま、待て! 回復魔術持ちなのは助かるが、治療代は……」

「そんなのいりません! というか、麻痺毒なら早く治さないと!」

「む、むぅ……す、すまん」


 リンはイゾウを怒鳴り、倒れている冒険者を治療する。

 これを見ていたライトとマリアは、珍しく意見が合った。


「まずいな」

「まずいですわね」


 互いに顔を見合わせる。

 回復魔術持ちという稀少さ、ギルド長だけでなく青銅以上の冒険者を無償で治療、黄金級冒険者パーティー・シュバーンのリーダーに目を付けられた。

 間違いなく、リンはヤシャ王国で噂になるだろう。


「お、おお……麻痺毒が、消えた?」

「もう大丈夫です。えっと、どこか苦しいところはありますか?」

「い、いや……ありがとう」

「いえ。じゃあ次の人」

「え……ま、待て! 回復魔術は膨大な魔力を消費する、君も休まないと」

「いえ、魔力量には自信があるので」


 イゾウに微笑みかけ、リンは再び魔術を行使する。

 これを見ていたリナは驚愕した。リンは先程の戦闘で、普通の魔術師数人、数十人分の魔力を消費したはずなのに、息切れ一つ起こさずに魔術を行使している。

 リナは当然としてライトたちも知らないが、この時点でリンの魔力は全体の2%も消費していない。まさに、桁違いの魔力持ちだ。


 結局、リンはこの場の全員を治療した。


 ◇◇◇◇◇◇


 治療が終わり、イゾウは冒険者たちの注目を集めて言う。


「ご苦労だった。ひとまず、スキイロクラゲの脅威は去ったと考えていいだろう。第四相がここに現れる可能性は低くなったと言える」


 本体である『海月翁』は、分裂態であるスキイロクラゲを目印にして現れる。だからこそ、スキイロクラゲが出現したら最優先で殲滅戦に持ち込み全滅させなければならない。


「ではこれより撤収する。ギルドに到着したら報酬を支払おう」


 馬車を隠した場所まで徒歩で向かい、ヤシャ王国に戻る。

 冒険者ギルドで報酬が支払われ、解散となった。

 すると、解散と同時に一人の少年が近付いてくる。


「リン! あのさ、よかったらこれから食事でもどうだい? 君の冒険話が聞きたいんだ!」

「は、ハインツさん。あの」

「もちろん、仲間たちも一緒に「却下ですわ!」

「ま、マリア?」

「リンはこれからわたしとお風呂に入りますの。わたしとリンの至福の時間を邪魔しないでくださいな!」

「あ、その、ごめん。じゃあさ、よかったら明日、今日のお礼をさせてくれ! 助けられた恩を返したいんだ!」

「えーと……」


 リンはライトを見た。

 ライトは、無言で首を左右に振る。


「ごめんなさい……」

「そ、そんな! じゃあ「ストップ。もういい加減にしなさいハインツ。リンに迷惑掛けちゃダメでしょ」

「リナ……リナだって、リンの話を聞きたいんじゃ」

「そりゃそうだけど、他のパーティーの行動を邪魔するのは冒険者違反よ」

「うっ……」

「ダイノス、ルーナ、あなたたちも何か言ってよ」

「……邪魔はするな」

「ハインツ、リンにぞっこんかも」


 ハインツはがっくり項垂れる。悪い人ではなさそうだが、どうも強引なところがあるようだ。


「じゃあ、じゃあ! せめて命の礼だけでもさせてくれ! しばらくヤシャ王国に滞在するんだろ? その時に食事をご馳走させてくれないか?」

「……そのくらいなら」

「よーっし! 約束、約束だからね!」


 テンションMAXのハインツに頭を抱えたリナは、大きくため息を吐く。


「ごめんなさいね、無理なら断っていいから」

「ううん、大丈夫だよ。私たち、しばらくここにいるから」

「そう……でも、一度あなたとお話はしてみたいわ」

「うん」


 こうして、黄金級冒険者パーティー・シュバーンと仲良くなったライト一行。正確にはリンだけだが。

 ちなみに、リンは完全に忘れていた。


 この国の第二王子が、リンの活躍を耳に入れる可能性に。





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