第5話・ひとまずの別れと騎士への道


 大司祭は困惑していた。

 

 「ふむ。初めて見る《ギフト》だ。なんと読むのだろうか? ふーむ、戦闘系なのか生産系なのか、はたまた特殊系なのか······」

 「あ、あの」

 「君、さっそくだが《ギフト》を発動させてくれないか?」

 「え······ど、どうやって?」

 「簡単だ。願うだけでいい。それで君の授かった《ギフト》は発動する」

 「は、はぁ······」


 言われた通り、俺は心の中で念じる。

 《ギフト》発動······だが、何も起きなかった。


 「······何も起きませんけど」

 「ふ、ふ〜む。よし、次‼」

 「え、ちょ、待って下さいよ⁉ なんの《ギフト》なんですか⁉」

 「う、うむ······わからん。それに、《ギフトの降誕》は一人に対して一度しか使えん。《ギフト》を授かったのは間違いないから、なんとか発動させて見てくれ、次‼」


 投げんのかよ。

 ちくしょう、わけ分からん。

 それに、リリカたちも行っちまったしよ。


 「仕方ない、家で待つか」



 とりあえず、家に帰ることにした。



 ********************

 


 家に帰り、《ギフト》の説明を父さんにする。

 すると父さんも母さんも首を傾げた。仕方ない、取り敢えずギフトについては保留しておく。


 俺はリリカたちが帰ってくるのを待ち、裏庭で素振りをした。

 自分の《ギフト》のこともだが、リリカとセエレの《ギフト》のことも気になり、身体を動かしておかないと、頭がモヤモヤしたからだ。


 それから素振りすること3時間。

 

 「ただいま、ライト」

 「遅くなってゴメン」

 「リリカ······セエレ」


 ひょっこりと2人が帰って来た。

 ずっと待ち望んでた《ギフト》を貰ったのに、2人の······いや、俺もか。表情は晴れない。


 子供の頃から座っている花壇の縁石に座り、俺たちは話をする。


 「私······勇者と一緒に旅に出る。『魔刃王』を倒してくるね」

 「私もだ。この《ギフト》はそのための力。それに、勇者レイジによると、魔刃王を封印ではなく倒す手段があるらしい」

 「······そっか」


 多分、そんな予感はしていた。

 だけど、2人の口から答えを聞くと、ずっしりと重く感じる。


 「そういえば、ライトの《ギフト》は?」

 「あー······いや、よくわからん。発動もしないし、戦闘系か生産系かすらわからない。大司祭も困惑してたよ」

 「······なにそれ?」


 俺は一通りの説明をする。

 だけど、今はそんなことよりリリカたちのことだ。


 「これから1ヶ月、城で《ギフト》の訓練をして、それから出発するって」

 「まずは、復活した『魔刃王』と共に復活した、魔刃王の眷属を倒しに行くんだってさ」

 

 どうやら、魔刃王は既に復活してたらしい。

 王国の情報規制だろうか、知らない真実だ。


 「多分、魔刃王を討伐する旅は、1年くらい掛かるって」

 「······1年」

 「ライト、それまで待っててくれる······?」


 当たり前だ。

 それに、目標も出来た。


 「じゃあ俺は······お前たちが帰ってくるまでに、騎士になる。それでお前たちが帰って来たら、結婚しよう」

 「ライト······」

 「そっか······じゃあ、さっさと魔刃王を倒して来ないとね」

 

 こうして、俺は新たな目標が出来た。

 リリカとセエレが帰ってくるまでに騎士になり、結婚する。

 

 翌日から、リリカたちは城で訓練を始めた。

 それと同時に、新人騎士の一般応募受付も始まり、戦闘系の《ギフト》を貰った少年少女たちが殺到した。

     

 当然、俺も応募した。

 《ギフト》が使えないというハンデはあるけど、剣術には自信がある。

 

 試験は1ヶ月後、試験内容は実技のみ。

 要は、試験管の騎士たちに実力を見せればいい。

 俺は1ヶ月一人で猛特訓をした。

 

 そして試験当日。俺は城へ来ていた。

 なんと、試験日と勇者たちの出発日が同じで、城には見送りの騎士や野次馬がたくさんいた。

 

 城から出てきた勇者と、4人の祝福剣の使い手。

 歓声に答えながら、勇者たちは進む。

 俺は人混みに紛れながら、リリカたちに気付いてもらえないかとアピールした。


 「······ダメか」 

 

 そりゃそうだ。

 これだけ人が居れば、その中の一人のアピールなんて気付くはずない。

 俺はそのままリリカたちを見送った。


 そして、待ちに待った騎士試験。

 試験は単純。相手となる騎士に、力を認めさせる。

 力を認めさせれば、晴れて騎士候補生となる。



 まずは、そこからだ。



 ********************



 結論。騎士は強かった。

 俺の攻撃が全て読まれてるような、剣を振った先には騎士は既にいない。

 何度か攻防を繰り返すと、騎士は小さく頷いた。


 「よし、合格だ」

 「っ⁉」

 

 騎士は木剣を俺の手首に振り下ろし、俺のロングソードをはたき落とした。

 あまりにも自然な動きで、まるで対応出来なかった。

  

 「その歳でずいぶん鍛えられてる。だがまだ甘い。鍛えがいがありそうだ」

 「あ······ありがとうございます‼」


 後でわかったが、この人は騎士団の副団長。

 俺が父さんの息子と知り、自ら俺の相手に志願したそうだ。


 「おめでとう、ライト騎士候補生。さっそく明日から訓練を始めようか」

 「はい‼」


 こうして、俺は騎士の一歩を踏み出した。

 リリカとセエレと歩む未来の、第一歩。




 だけど······それは幻想だったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る