桜かくしのように

花びらが舞って、ここちよいあたたかさの風が吹く。


私はなんだか機嫌が良くて、軽く支度をして外に出る。


「あの子さえいなきゃ…!」


「聞こえるだろ…!」


「だって、あなただってそう言ってたじゃない…!」


あったかい風。春だなぁ。

天気予報では雨になるとか、ゆきになる、とか言っていたけど今日は絶対ハズレだと思う。


久しぶりにあそこに行こうと思った。

小さい頃によく行っていた森だ。

そこには大きな桜の木が、どーんと立派に立っている。


私はその桜の木がどれよりも好きで、春には毎年、1度は行くと決めている。

でも、みんなに教えるのはちょっと嫌で、私だけの秘密だ。


着くと、大きな桜の木が立っている。

満開、キレイだ。曇っているからかな。


眺めているとだんだん眠たくなってきて、

私は桜の木のそばまで行って、幹に頭を乗せて、眠ってしまった。




気づけば周りは真っ白だった。上を見ると白い粒がゆっくりと落ちできていた。


「ゆき…?」


肌寒い。


「帰らなきゃ…!」



声に出して意識する。家に帰る。

起き上がってもと来た道を歩く。


でも、なぜだろう、どんなに進んでもあの桜の木にたどり着いてしまう。

苦しくなって歩くのをやめた。ふと上をむく。ゆっくり、ゆっくり白い粒が落ちてくる。

はぁ。

と息を吐く。

考える。

私のことを待ってくれる人はいたのかな。探してくれる人なんて、いた?


ふっ。


きっといない。

私のことなんて誰も、いらないんだ。


その場に座り込んで、桜の木を眺める。

私には桜が見えなかった。

白い粒の固まりが、桜を包み込んで隠していた。

きっと私もあの桜と同じで、隠されているんだ。いや、多分私は自分から見つかるのを拒んでいるんだと思う。


私さえいなければ、きっと幸せになれるはずだから。

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