どこにも満たされないモノたち

春野 秋

ひとつの窓の夢

私の家には不思議な窓がひとつある。


それは、他の窓とは違っていて


雨の日も曇りの日も


その窓は青いのだ。


でも、なぜか晴れの日だけは青くない。



一度だけその窓に触れてみたことがある。


触れた瞬間、自分の腕が包み込まれたような感覚になった。


怖くなって手を離すと


名残惜しそうに、それは私の腕から手へゆっくりと離れていったのを

わたしは今でも覚えている。


それからは、ずっと


誰かに、何かに、触れるたび


私に触れたものは弾けてどこかへ飛んでいく。



それが噂になると


街から街へとやって来て


「私を、どうかこの世から消してください。」


そう言って私にその手を差し出して、泣きそうな目で私に頼む。


私は仕方なくその手を触る。


やっぱりそれは、静かに弾けて飛んでいく。



それを、ちょうど3年、続けたときに


ふと、あの窓が気になった。


あの窓は家の倉庫の奥深くに置いてあった。


暗闇の中で美しいほど鮮やかな青が


私を見つめている。


ゆっくりと傍により、触れてしまう。


あっと思って、手を引こうとしたけれど


ゆっくりと、ゆっくりと、


溶け込んでいく。


あの青に、包み込まれるように。







目が覚めた。なんだか不思議な夢だった。たくさんの人を私は無心で殺していた。


疲れているんだろうか。ゆっくりと起き上がり、周りを見る。

やっぱり変わらない、いつもの景色。


夢は夢。現は現。


支度をして外に出る。


外には青が広がっている。





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