第50話 トロルの森を抜けて

 やっぱり異世界での楽しみは冒険だよね。


 領都からダンジョンに向かって少しづつ攻略していくぞ。

 まずは1人で様子を見ながら歩いて行く。【転移】ポイントを少しづつ進めて行くんだ。

 道が無いので、日本から持って来たトレッキングシューズを履く。


「現地の靴より格段に歩きやすいな、輸入したら冒険者達に売れるだろうか? ハーマルの社交場跡を日本からの輸入雑貨店にしようかな」


 因みにハーマルの屋敷と社交場は、既にスキルを使って修理完了しているが、まだ空家状態である。


「トロルヘイム領の特産品を売るアンテナショップにしてもいいね」



 1人で道無き山と渓谷を歩いてるので、独り言を呟いていると、


『ウフフフフ、そうね』

『ウフフフフ、そうよ』


 俺の独り言に反応したのか、小さな妖精達が集まって来た。

 スプライトやピクシーと呼ばれる者達だ。

 俺の肩や頭の上に乗って笑っている。


「こんにちは、楽しそうだね」


『ウフフフフ、そうね』

『ウフフフフ、そうよ』


 この子達は俺だけに見えているのかな?

 小さなおじさんじゃ無くて良かったな。



 トロルヘイム領主邸からダンジョンに向かうと、トロルの森を抜けて行く事になる。

 初日は森の入口まで行って【転移】ポイントを作り、2日目にオゥちゃん〈オログ=ハイはトロルの上位種〉と一緒に森に入る事にした。


 研修所で朝食を食べてから、オゥちゃんとトロルの森の入口へ転移する。


「オゥちゃん、よろしくお願いします」


「「よろしくだぁ、久しぶりに2人だなぁ」」


「そうですね」


 オゥちゃんは、珍しく本来の姿に戻ってる。5メートルを超える双頭の巨人姿である。

 本人曰く「「双頭でも1人だぁ」」と、言うことだ。



 お昼頃になったが、森に深く入り込んでもトロル達は姿を見せない。


「オゥちゃん、トロル達は何処に行ったのでしょう?」


「「隠れてるんだぁ」」



 オゥちゃんが不意に、ガシッと岩にアイアンクローをした。


「イタタタタッ!」

 ズズズズズッ!


 この前のトロルリーダーが、オゥちゃんにオデコを鷲づかみにされて姿を現した。



「「なぜ隠れていて出て来ないんだぁ?」」


「皆、新領主様が怖いんだぁ!」


「「こんな可愛い顔が怖いのかぁ?」」


「巨人の頭に乗り、雷ビリビリするのは神の使いだぁ!」


「「はーはっはっはー。巨人の頭に乗ってビリビリさせたかぁ」」


「お前様だって子分になってるじゃねえかぁ」


「「オラは親友マブダチだぁ」」


「そうです親友マブダチです」


 ポッ! オゥちゃんの双頭のホッペが赤く染まった。

 もぅ、自分から言っといて照れないで下さいっ!



「トロルの皆さんにお願いがあります! 俺の友達に成って下さい」


「「ユウちゃん、こいつらは子分で十分だぁ」」


「へぃ、子分でも結構ですが、友達でお願いしますだぁ」


「よしっ! 友達に成ったあかしに宴会をしよう」


「「「んだぁんだぁ、宴会するだぁ!」」」



「よ~し、今日は持ってる肉を全部焼いてしまおう」


 俺はインベントリー内の鹿肉と猪肉とオーク肉を全て出した。

 ハーマルの社交場から回収した高級ワイン〈マンドレイクと媚薬は入ってない〉と、街で買った焼酎と蒸留酒も全て出す。

 体の大きなトロルだから沢山飲むだろうと、惜しみなく提供した。


 肉の焼ける匂いに誘われて、トロル達がドンドン集まってくる。

 日本から持って来た焼肉のタレに浸けた。


「焼肉はタレが大事だからね」



 タレを浸けた肉から、益々良い匂いが立ち昇る。


「ヒャッホ~! 肉と酒だ~ぁ」


「ビリビリの新領主様だ~ぁ」


「オゥログ様、久しぶりだ~ぁ」


 ドンドコドンッ、ドンドコドンッ……、

 トロル達は太鼓を叩いて、歌い踊った。


 素のまま自然のままで歌い踊るトロルに、俺も気持ち良く酒に酔う。

 そして何時いつの間にか眠ってしまっていた。



 ふと目を醒ますと、赤い毛の女トロルに膝枕をして貰っている。

 メロンのようなオッパイが、目の前にそびえていた。

 ワインと蜂蜜の甘い香りが心地良かった。




「知らない天井だ……」


 そこは木のほらの中の部屋だった。

 ベッドの中には、赤毛の女トロルが寝ていて、両手でしっかり俺に抱き着いている。


「おはよう」


「おはようございます、領主様」


「名前は、なんて言うの?」


「カルラです」


「カルラ! 良い名前だね」



 余計な事を言わずに、何気なくそっと外に出る。

 すぐ外でお茶を飲んでいたオゥちゃんと、研修所に【転移】して朝食を取った。


「旦那様、昨日の夕食はどちらで食べたのですか?」

 と、ビアンカに聞かれた。


ちなみに研修所が有るフォレブ草原はハーマル侯爵領なので、「御領主様」ではお客様の前で不都合だから、「旦那様」と呼ばせる事に統一して貰った。

「旦那様」でも恥かしいけど……。



「トロールの森で友好の為の宴会を開いて、酔って寝込んでしまったんだ。オゥちゃんと一緒だったよ」


「オゥログ様は1人で帰って来て、自分のベッドで寝てました」


「アゥッ、マジですかっ!」


「はい」



「ユウちゃんは、気持ち良さそうに膝枕で寝てたからぁ、そのままにしただぁ」


「そこは起こしてよ~」


 ざわざわざわざわっ……!


 侍従達がざわざわしてしまった。



「どちら様の膝枕ですかぁ?」


「トロルの美人さんだぁ」


「オゥちゃんっ!」


「違っただかぁ?」


 ドヨドヨドヨッ……!


 空気が悪くなってるぅ!



「トロルの森を攻略したから、今度はドラゴンの巣だね」

 話を変えた。


「呪いの龍ファフニールですね。財宝を山積みにしていて、持ち出す者に呪いが掛かると言われています」

 ビアンカが教えてくれた。


「ドラゴンを退治すると、呪いに掛からないのかな?」


「分かりません」



「宝物を盗んだ冒険者はいないの?」


「聞いた事が有りません。 ただしドラゴンは寝ている事が多く、起こさずに通り過ぎる事が出来れば、ダンジョンに辿り着けると言われてます」


「じゃあ近くに転移ポイントを確保して、寝ている時にダンジョン攻略すれば良いのだね」


「はい」



「じゃあ今日は1人で、ドラゴンの巣まで行ってみようかな」


「旦那様を1人でドラゴンの巣に行かせる事は出来ません。立場を考えて下さい、不謹慎です」


 これってお目付け役を付けられるって事だよね、信頼を失ってしまったのかな?



「ラナお嬢様、旦那様の警護役をお願い出来ないでしょうか?」

 ビアンカがラナちゃん(神獣グラーニ)にお願いした。


「は~い。 旦那様に悪い虫が寄って来たら蹴っちゃいますね」


「やっぱり女性対策なんだ……」


「当然です、疑われるような状況を作らないで下さいっ!」



「ビアンカはしっかり者だね」


「私だって、旦那様にこんな事言いたく有りませんが、これも侍従長としての仕事ですから」


「は~い、分かりま・し・たっ」


「返事は短く。はいっと言って下さい」


「はいっ!」


 ビアンカは説教先生だね、ショートカットの整った顔で言われると迫力が有るし、ちょっとゾクッとする。



「それではラナちゃん、そろそろ行きましょう」


「はい」


「オラも行くだぁ」

 オゥちゃんも一緒に行く事になった。


「トロルの森に、【転移門】テレポゲートオープンッ!」


 ブゥウウウウウンッ!



 トロルの森からダンジョンの有る山を見上げる。

 木が少なく大きな岩がゴロゴロしていた。

 道のりは厳しそうだが、この3人なら大丈夫だろう。



 1時間ほど上って行くと、中腹で日向ぼっこをしている緑色の大きな龍が見えてきた。


 ゴッゴッゴッ…スピィィィッ…


「寝てる! 寝息が聞こえる」


 ゴッゴッゴッ…スピィィィッ…



「横を通り過ぎ、ダンジョンの入口まで行って【転移】ポイントを確保しましょう」


「んだなぁ」

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