第30話 災厄の偶像

人物紹介です。

ユキ(ブリュンヒルデ) ルミナ(スクルド) ヤマちゃん(オーディン) ノブちゃん(上泉信綱) コンちゃん(所長) ラナちゃん(グラーニ)




 異世界に戻って2日目の朝、エリナはルミナと夏コミの稽古をしている。


「それって、ワザワザ異世界でする事なの?」


「コスとポーズを決めてピッタリ息を合わせるの~!」


「「ね~っ」」



 ナオちゃんには、犬人族最年少のユウナが子守兼遊び相手に成ってくれている。


 ユウナは小学校1年生ぐらいに見えるのだが、犬人族の生態は俺には全く分からない。

 彼女らはとても働き者で、命令にも兵士のごとくに従ってくれる。

 ここは軍隊では無いので、こき使う様な事はしないのだが、自主的にテキパキと働いてくれるので、『かゆい所に手が届く』とは、まさにこの事かと感心してしまうだった。


 ユウナはナオちゃんの子守を自分に与えられた仕事だと思っているのだろう。



 研修所、オゥログ邸、ユウリ邸の畑と家畜の世話や家事全般は、犬人族侍従の仕事となっていた。


 勿論俺達も手伝いますよ。

 種まき、収穫、水遣り、虫取り、治療等は、スキルを活用すれば一瞬で終わり、労働を大幅に軽減出来るからね。


 侍従達には、家事に関しても積極的に魔道具や家事スキルを使って貰う。

 労働時間短縮と労力の削減にアイディアを惜しまない。


 定期的に会議を開いて、皆にも意見やアイディアを出して貰う。


 ヤマちゃんの提案により、電子機器の導入をする事にした。

 現地人に知られないように従業員棟に秘密の地下室を作り、日本で買った電子機器を設置する。

 創作兼印刷部屋も地下室に変更した。

 蓄電池モジュールも地下室に作った。


 ソーラーパネルは、普通の屋根に見える様に回りを加工した。

 水車に取り付けた発電機は木材でカバーして、壊さなければ見えない様にする。

 電線は塩ビ管に入れて、地中と屋根裏を通して壁に埋め込み。塩ビ管のサイズに合わせて壁財を堀り削り、板材でカバーして壁紙を貼った。


 地下室に入るには【転移】でしか入れない。入口は何処にも無いのだから。

 【転移】は1度行った所にしか移動出来ないので、部外者は決して地下室に入れない。

 初めて地下室に行く者は、必ず誰かの【転移】で連れて行って貰うしかない。

 【転移】魔法を使える人族も少ない。【転移】スキルを持ってない侍従達も地下室には入れない。掃除は俺がインベントリーにゴミや埃を収納して【洗浄】【浄化】スキルで綺麗にする事にした。



 研修生が来たら、なるべく現地冒険者と同じ条件で冒険を初めて貰う。

 最初から魔道具に頼ると、リアル冒険ゲームの始まりを楽しめないだろうから。

 勿論、陰日向かげひなたから十分な安全を確保する。

 研修生用の『始まりの装備』をセットで提供するつもりだ。

 内容は、旅人の服、革の胸当て、皮の手袋、短剣orこん棒、革の盾、水筒、松明、薬草、リュックサック。

 外出する時は、誰か1人必ずガイドする。



 ☆ ▲ ◇ ★



 俺は毎週金曜日の朝に、リリーメルの町に薪を売りに出かけている。


 今回同行するメンバーは、オゥちゃん、エリナ、ルミナ、そして菜穂子とユウナだ。

 ユキは妊娠中だから大事を取って、研修所で留守番してもらっている。

 菜穂子とユウナは、グラーニがく荷馬車の上に座っていた。




 町に着くと、まず最初にギルドに顔を出した。


「お早う御座います。北の港町オダルスネへの商隊護衛ご苦労様でした」


 入るとスグに、ギルド職員に声を掛けられた。


「ユウリさんはDランクに昇格してますよ」


「はい、有難う御座います」



 受付に向かうとテーブル席に座っていた男達が、立ち上げって近づいてきた。


「おはよぅ! 共同護衛依頼遂行ご苦労さまでした。毎週金曜日に来るって聞いてたから待ってたんだよ!」


「ボアズさんユングさん、お疲れ様でした。オダルスネから帰って来ていたのですね」



「あれから、町へのコボルトの襲来は起きなくてね。『銀の翼』のメンバーで探索して炭鉱跡の巣を見つけたのだが、もぬけの殻だったんだ。誰かが既に、討伐した跡だった様だね……。

 まあ、それは良いのだが、問題は巣の奥に『災厄の偶像』が有った事だ。

 すでに破壊されていたのだが、『災厄の偶像』は魔物を増やし、群れの支配者を出現させる【闇魔法】の魔道具で、恐らく魔族が設置したと思われる。

 ハーマルやイエビクを襲ったオークやオーガの群れも、魔族が『災厄の偶像』を、巣に設置したからではないだろうか? と思われてるんだ」


「はい、そうなんですね……」



「ところが困った事に、オークとオーガの巣も、『災厄の偶像』も見付からなくてね……。

 出来たらそれをユウリ君に探して貰いたいと思って、待っていたんだ。

 俺達が寝てる間に、コボルトの巣を討伐して偶像を破壊したユウリ君なら、見付けてくれるんじゃないかと思ってね……」


「はぁ、指名依頼という事なんですね?」


「そうだけど、……あまり気が乗らないよう様だね?」


「はい……、攻撃されれば仕方なく迎え撃ちますけど、こちらから討伐するのは、好きでは有りません」


「そうなんだ。……では、巣と『災厄の偶像』を見付けるだけの依頼では、どうだろうか?」


「はぁ……」


「お兄ちゃん、受けて上げなよ~。又、町が襲われたら可哀想だよ~」


「そうだねエリナ……それではお願いします。ただし妻のユキは妊娠中なので参加しません」


「有難う御座います。それでは受付で契約をしましょう」



 俺は受付を済ませて参加メンバーの確認をする。

 参加パーティは、ボアズ、ユング、オゥちゃん、エリナ、スクルドと俺だ。

 ついでに、その場でパーティ登録もする事に成った。


「パーティーピーポー」

 と、オゥちゃんが照れながら大きな声で言った。


 ピッカァァァァンッ!


 パーティー登録用のクリスタルの珠が明るく光った。



「あれ、ナオちゃんとユウナもたまに触っている。まぁいいか……」


 パーティは明日、馬車でハーマルの東エルバームの町に向かう。オークの大群に襲われた町である。






 翌朝早くにオゥちゃん、スクルド、エリナと俺は、研修所からリリーメルへと幌馬車で向かった。

 幌馬車は、ダンジョンへ向かう研修生の送迎用に作った物で、10人ぐらい迄乗る事が出来る。

 普段は普通の馬に轢いて貰う事にしてるのだが、今日はグラーニに轢いて貰う。危険を伴うかも知れないからだ。


「グラーニよろしくね!」


『任して下さい』


「調教スキルがレベルアップしたから、神獣姿のグラーニの言葉が理解出来るように成ってるよ!」


「へ~、お兄ちゃんも分かるんだ~。良かったね~」


「うん。【転移門】のスキルも新しく覚えたし、練習も兼ねて使ってみるね。

 いくよぅ……リリーメルへ、テレポゲート、オープン!」


 サッサッ、シュビィィィッ!


 俺は自作の詠唱と振り付けをドヤ顔で披露して、最後に笑顔でニッと決めた。


 ブゥウウウウウンッ!


「おっ、一発で成功したぞ」


「キャハハハハッ! やだぁ、お兄ちゃん。な~にそれ~」


「ウッフ……ユウリ、カッコわる~い」


「ユウちゃん、俺ぁがカッコいいポーズを教えてやるかぁ?」



『ブヒッ……取り敢えず、ゲートを潜りますね……』


 グラーニが歯茎を見せて、笑いながらゲートを潜った。


「ショック! 俺ってセンス無いのかなぁ」




 幌馬車ごとゲートを潜り、町から見えない位置で街道に出る。

 広場へ向かうと既にボアズとユングが待っていた。


「お早う御座います。お待たせ致しました」


「「「「「お早う御座います」」」」」


みなさん、朝からニコヤカで、楽しそうですね」


「はい……お2人もどうぞ幌馬車に乗って下さい」



 リリーメルの街を出て、町から見えない所まで来てから再び【転移門】を使う。


「ハーマルへ、テレポゲート、オープン!」

 今度は詠唱だけにした。


 ブゥウウウウウンッ!


「おおぅ、凄い。ユウリ君【転移門】の魔術が使えるんだね!」


「はい、有難う御座います。でも、センスが無くてポーズが残念なんです。ショボン」


「あはははっ。元気だして! 十分凄いんだから」




 幌馬車は領都ハーマルからエルバームを目指して街道を東へ進む。

 途中で昼食を取ってから午後3時頃に町に到着した。

 宿の前まで来ると、


「今日は、この宿に泊まりましょう。私は町長に話を聞きに行ってきます」


 そう言って、ボアズは1人で出かけいった。



「それでは皆さん、宿でゆっくり寛いで下さい」


 ユングに促されて宿に入り、オゥちゃんと俺、ルミナとエリナがそれぞれ2人部屋に案内された。




 夕食時にボアズが聞き込みしてきた情報を説明してくれる。


「町の中心を南北にグロンマ川が流れていますが、川の東側にオークの被害は出ていません。魔物は南西の森の中から来たのではないかと言う事です」



 俺は【レーダーマップ】と【探索】で、町の南西方向をチェックした。

 大きな山は無く、森と湖がある。

 赤い光点で表示される魔物の群れは、確認出来なかった。


「探索スキルでは、何も確認出来ませんねぇ」


「やっぱりそうなんだ。エルバームの冒険者達が森を調べたのだが、何も発見出来なかったそうなんだ」


「う~ん……」



 俺はジィィッと、レーダーマップを見ていたが、1部にモザイクの様な違和感が有るのを見つけた。


「ルミナ先生ここを見てください」


「どれどれっ! ほうほう……これは認識阻害の結界が貼って有るのかもしれないわ」



 俺は、テーブルの上に広げてある地図の1点を指差して。


「ボアズさん、この辺りに結界が貼って有るかも知れない、との事です」


「うむっ。それでは明日、ずそこへ行って見ましょう」


「「「はい」」」

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