異世界生活研修所~その後の世界で暮らします~
まきノ助
第一章 異世界で生活研修! って、日本に帰れますか?
第1話 会社を辞めて異世界で暮らそう
会社を辞めた。
解雇されたわけではない、それなりに仕事は出来た。
東京の国立大学人文学科を卒業して大手商社に就職したが理想と現実は違った。
よくある話だ、我慢するかしないか?
なりふり構わず、人を蹴落としてでも生き抜くのか? 俺は俺らしく生きたい……。まあいいや、何とかなるさ、肩の荷を降ろし気楽になろう。
俺は入社1年目の冬に、あっさりと会社を退職した。
実家に帰り、メッチャ父親に怒られてから、ふらっと外に出た。
少々お金もあるしプラプラするかな?
通勤定期の期間が結構残っているので、もったいないから電車に乗る。
結果的に辞めた会社の近くに来てしまって、へこんでしまった。
しかも、運悪く同期入社の同僚に見つかって声を掛けられてしまう。
「お前は馬鹿だなぁ、国立大出なんだからそこそこやってれば出世出来たのに。大手商社は国立大出のコネクション、官庁や他企業への繋がりが欲しいんだから。まぁ、今と成っては後の祭りだがな……」
更に、へこんだ。
意地悪な先輩に
今更、最高学府博士の称号を捨ててしまった事に気付かされたのだ。
職安に顔を出すが、あまり気が乗らないのでスグに駅へと歩いて戻ることにした。
年末のざわついた駅前交差点で、女の子がポケットティッシュをくばっている……可愛いなぁ……。
「どうぞ~」
差し出してきた物を笑顔で受け取るが、それ以上のことは無い。
俺はただの通りすがりで、その他大勢、モブキャラ、一般人……。
ポケットティッシュ裏の広告を見ると、
「『異世界生活研修所』新規オープン! 無料説明会開催中!」
「異世界生活研修所……? 暇つぶしに覗いて見ようかなぁ。ラノベの異世界転生とか結構好きだしなぁ」
電車に乗らずに、フラフラと説明会の会場に来てしまった。
「みなさんこんにちは。本日はお忙しい中、研修所の説明会に来てくださりありがとうございます。異世界生活研修所所長の
「「「……」」」
「この研修所では、異世界に転生もしくは転移してしまった時に、そこでの生活に困らないよう、あらかじめ研修していただく施設です。又、災害、戦争、テロ等の非難生活に役立てて戴けると思います。
研修は知識を学ぶ座学と簡単な経験をしてもらう実習があります。
研修期間は10日間で、その間は研修所の規則を守って生活してもらいます。
規則を守れない場合は研修途中でも、お帰り戴く事もあります。ですがあまり厳しいものではありません。
犯罪行為やハラスメント等が無ければ、いきなり退場と言う事はありません。
それと禁酒禁煙で賭け事も我慢して頂きます。文明が低く治安が悪い所では揉め事を起こさないことが大事です。
酒と賭け事はトラブルが起き易く、命を落とす事も有るでしょう。又、現代日本でも火災原因の1位は、タバコの火の不始末だそうです。消防所のない環境では、火事は大きな問題です。
「今はまだ良いだろう」と言われる方も、とりあえず忘れないように経験して欲しいのです。たったの10日間ですから我慢して下さい」
「う~んっ、大丈夫かなぁ……」
一通り経験している俺は、そう呟いた。
「勇者召還であれば衣食住は心配無いと思いますが、最低限必要になる知識をお話しします。
まず、ほとんどの異世界転生小説で、共通している点を上げてみます。
電気は無いですよね。
上下水道も無いかも知れません。
水洗トイレも無いでしょう。
歯磨き粉、歯ブラシ、石鹸、シャンプーも無いかも知れません。
お風呂は有りますかねぇ。
洗面所は有りますかねぇ。
ティッシュは有りますかねぇ。
時計は有りますかねぇ。
化粧品、口紅、スキンクリーム、爪きり、耳かき、髭剃りは?
電池は無いでしょう。
自動車、自転車も無いですよね。
本はあっても貴重品かもしれません。
「チートスキルで俺ツエェェッ」って言う前に生活出来ますかねぇ? ましてや、ただ転生しただけでスキルが普通で一般人だったとしたら。
異世界でそういう状況になってもいいように、現世の知識を役立てましょう。この研修所で転生後に役立つ知識をしっかり身に着ければいいのです。
研修費用は10日間で7万円です。
食事込みですが、転生生活を意識した研修所生活と成りますので、決して安いとは思わないでしょう。
逆にこれで金取るのかよと思われるかもしれません。
辛くて続けられないと言う方には日割りで費用を計算し、残額をお返しいたします。
以上で説明を終わりますが、質問が有りましたら遠慮なくどうぞ」
「あのぅ、何と言えば良いのか? ……まじですか? テーマパークみたいなお遊び的な乗りでは無くて?」
「真剣です。こちらは、ちゃんとやります。遊びも仕事も本気が面白いんじゃないでしょうか? 皆さんは本気でも、お遊びでも大丈夫ですので、気楽に参加してくださればと思います」
「他に質問は有りませんか? ……参加者にはもれなく『異世界暮らしの友』手帳を差し上げます。異世界や避難所暮らしで役立つ豆知識がまとめてあります。……それでは以上で説明会を終了します」
俺は多少の不安はあったが研修を受ける事にした、いい加減な軽い気持ちで。
まぁ、スケジュールは空っぽだしね。
人が詐欺に騙されるのは、こんな時なのかなぁ? でも失うものは、もう無いし? と、ぼんやり思った。
無職独身次男、アパートで1人暮らし。
ええい、ままよ! ユウリ行きまぁぁぁすっ!
〇 ▼ 〇 ◆
あっ、という間に10日間の研修が終わった。なかなかどうして、充実した10日間だった。
特に騙されたりもしなかったと思う、初期費用以外にお金も払っていないし。
それに女子率が結構高く、サークル参加の女子大生グループがいて、彼女らと一緒の実習はとても楽しかった。
最終日の所長の挨拶の後、何故か俺だけが女子事務員にに呼ばれる。女子大生にメアドを教えて貰おうとチャンスを伺っていたんだが……半強制的に所長室に連れて行かれた。
「お疲れ様でした、良かったら現地実習に行ってみませんか? 1ヶ月間無料体験出来ますよ、御1人様限定なんです」
「はぁ……はい」
ええぃ、ままよ! ユウリ行きぁぁぁすっ!
俺は研修所の実習が楽しかったので浮かれていたんだと思う。メアドを教えて貰おうと考えていて、二つ返事で軽い気持ちで了解してしまった。
サッサと所長に連れられて研修所の外に出ると、1台の個人タクシーが待っている。
「このタクシーが君を異世界に連れて行ってくれるから、ここで勉強した事を役立ててね。帰りも必ずこのタクシーに乗るんだよ、そうじゃないと現世に帰って来れないからね!」
俺は運転手から名刺を貰った。
(個人 長山タクシー 66)と書いてある。
「1ヶ月後の朝6時に迎えに来ますが、どうしても途中で帰りたくなったら私の携帯に電話して下さい」
長山さんは、やさしい口調でそう言った。
☆ ★ ☆彡
タクシーは高速に乗り、首都高から湾岸線に出る。
片道3車線で交通量は少ない。
「私、運転手になる前は教師だったんです。『あの頃はよかったな~』って時々思うんです……」
そう言って、長山さんはグングンと加速し始めると、こう叫んだ。
「バック トゥ ザ ティィチャァァァァァッ!」
ピカピカバリバリッ、ドドォオオオオオオオオオオンッ!
まばゆい光とともに落雷があり、あたり一面が真っ白になった。
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