SECOND DEATH
COTOKITI
第1話 遠い過去、自分の今。
<1944年 7月 7日 カレリア地峡近辺>
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人は何故争うか?
それは今よりも大昔から存在する人類の疑問の一つだ。
何故かと聞かれれば答えは一つだけだと俺はそう思っている。
「人間は元より争う動物だからだ。」
俺にとって戦争をする理由などその一言に尽きる。
だからと言って別に戦争を賛美したり肯定する訳では無い。
ただ、科学力の進歩と世界人口の維持の為には致し方ないとしか考えない。
しかし、そう考えると、今俺達が敵に向かって銃を構えているのも人間の本能による物なのだろうか?
俺達は今、草木の生い茂るフィンランドの森の中にいるのだが決してハイキングや登山で来ている訳では無い。
「イーヴァリ!右前方に敵の機関銃手だ!」
イーヴァリ、という名前を呼ばれた俺は仲間の指す方向に即座にM28 モシン・ナガンの銃口を雑草の中から僅かにはみ出ているソ連兵のヘルメットに向け、引き金を引いた。
パンッという銃声とともに発射された7.62mmのライフル弾はソ連兵のヘルメットを突き破り皮膚、頭蓋骨、脳の順番で粉砕し、額から血を噴き出したしたソ連兵はぐったりとしたまま動かなくなった。
確かな手応えを感じると、ボルトを後退させ、空薬莢を排出し、ボルトを戻して次弾を薬室内に送り込んだ。
現在、我が分隊は敵部隊と交戦中だが、正直に言ってかなり厄介な状況だ。
まず、敵の数がこちらの2倍、つまり2個分隊、もしくはそれ以上の戦力を有している。
もう1つは敵が森の中に掘った塹壕といくつかの固定機銃である。
固定機銃による制圧射撃のせいで遮蔽物から頭を出す事が出来ない状態だった。
俺が先程ソ連兵を狙撃した時も下手すれば機関銃の餌食になっていた所だ。
この不利な状況を打開すべく我々は奮戦しているのだが、このままでは状況を覆す事ができないと悟ったのか、我らが分隊長、エルジ・ヘルッコ伍長が俺にこっちに来いと手を振った。
「来い、イーヴァリ。 俺に考えがある。」
ヘルッコ伍長が左手に握っていたのはこれでもかと炸薬がたっぷり詰まった立方体の容器が先端部分に付いた柄付き手榴弾である。
あぁ、成程。 と、俺はそれを見た瞬間、ヘルッコ伍長のやりたい事がすぐに分かった。
「固定機銃の破壊ですね?」
遮蔽物となっている倒木に蹲りながら聞けばヘルッコ伍長は静かに頷いた。
ヘルッコ伍長は肩からフィンランド軍の短機関銃、スオミKP/31を下げている。
そのスオミは冬戦争が始まってからかなり使い込まれているようで、所々に傷や汚れが見受けられた。
そして、それらはヘルッコ伍長がソ連兵達との戦いを生き抜いてきたベテランである事を証明していた。
「ここからあそこにある一番手前の固定機銃の所まで見つからない様に這って移動し、コイツで固定機銃をぶっ飛ばす。 その後は塹壕に突入して敵を掃討する。」
その作戦は、この戦況だとかなり運の要素が強くなる作戦だった。
移動中に敵に見つかればあっという間に機関銃で蜂の巣にされる。
恐らくヘルッコ伍長自身もそれを承知でこの作戦を提案したのだろう。
ならば俺はそれに従うのみだ。
「分かりました。 」
ヘルッコ伍長の合図と同時に作戦開始。
2人でなるべく見つからない様に倒木や背の高い草木の多い場所を這いながら少しずつ固定機銃との距離を詰めて行く。
数秒毎にどこからか流れ弾が飛んで来て見つかったかとヒヤヒヤしたりしながらひたすら這って進む。
「見えた、あそこだ。」
雑草を掻き分けながら進んでいるととうとう目標を目の前に捉えた。
機関銃手はまだこちらに気付いていないらしく、左右に銃口を振りながら銃弾をばらまいている。
「行くぞ……。」
ヘルッコ伍長は俺とアイコンタクトを取ると手榴弾の底の蓋を外し、紐を引っ張って点火すると右手で塹壕の中に放り込んだ。
放り込まれた後、ロシア語の為何を言っているかは分からないが焦った様な声が聞こえてきた。
だがその声は数秒後に凄まじい爆発音にかき消された。
先程まで固定機銃があった場所は手榴弾によって木っ端微塵に吹き飛んでいた。
煙が収まってくると俺達は塹壕の中に突入した。
「残りの固定機銃も破壊するぞ!」
ヘルッコ伍長は俺を連れて塹壕の中を走りながら道中で鉢合わせしたソ連兵をスオミで無慈悲なまでに蜂の巣にした。
そして、もう1つの固定機銃が設置されている場所を見つけ、そこに手榴弾を投げ込み爆発後にそこに更にスオミで生き残りを掃討する。
後はこれの繰り返しだった。
固定機銃を破壊し、道中のソ連兵を撃ち殺し……と。
固定機銃が無力化されて行くと、分隊も勢いを取り戻し、前進し始めた。
これは俺とヘルッコ伍長の実力ではなくただ単に幸運が成した戦果だ。
固定機銃や周りの歩兵に位置がバレなかった、塹壕の中であまりソ連兵と出くわさなかった。
これらの幸運のお陰でこの戦いでは勝利を収めることが出来た。
残った残党も掃討され、分隊はソ連兵の死体があちこちに転がっている森の中を進んで行った。
全く、"昔の自分"とは別人のように変わり果ててしまったもんだな。
俺、ラゲイ・イーヴァリは心の中でそんな事をポツリと呟いた。
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