3話 奇妙な「それ」②

 音が立たない地面を探りつつ、気配を隠して慎重に進む。

 どうしても出てしまう音は、周りの音がかき消してくれている、はず。相手が何らかの獲物に注意が行ってるとしたら、猶更。

 見通しの悪さが、気を休める時間を許さしてくれない。咄嗟の事に対処できるよう、左手に魔法攻撃の用意をする。


 怪しい体感時間ながら、そろそろ音がした場所に着いてもいい頃。

 剣を抜く心構えもしつつ、木の隙間から様子をうかがう。


 まず視野に入った不審は、青いひらひら。加えてその青い服を着てる、おそらく子供。

 そして、向かい合う大熊。


 あんなデカブツ、まともに正面からぶつかれば勝てる見込みはほぼ無い。

 幸い、まだこちらには気付いてない様子。今ならあの子をオトリにすれば、逃げ切れるだろう。

 食の為の狩りであれば、わざわざ追ってまでこちらまで襲う理由も無い。

 このまま身を引き、大人しく街へ向かった方が身のためだ。



 けど、気が付いたら剣を抜き、突撃していた。



 その子に襲い掛かる大熊、左手に溜めてた魔力を炎に変え、大熊の顔面に向けて放つ。

 しかし距離で威力が減ったのか、大熊は意に介さず。

 そのまま剣を抜き、振り下ろされた腕を脇へと弾き飛ばす。


 何で飛び出したのか自分の考えの整理の付かぬまま、こうなった以上はと大熊と対峙する。

 簡単に得られそうだった食を邪魔され不機嫌なのか、次の手まで間は無かった。

 大熊が崩れた体勢を強引に立て直しながら、腕の振り上げ攻撃へと繋ぐ。

「逃げて!」

 そう背後の子に言いながら、慌てて剣で受け流す。が、勢いを殺しきれず後ずさってしまう。

 そこに大熊の踏み込みながらの一撃。まともに受けたら、ただでは済まない。

 刀身で斜めに受け受け流しつつ、勢いを利用して横にかわす。


 が、よぎる嫌な予感。

 逸らした攻撃が向かった先には、さっきの青服の子。足がすくんだのか、まだ座りこんだままだ。

 逃げるようには言ったし、少しだけど時間は稼いだ。それで逃げれてないのは、想定してなくても仕方無い。というか、そもそもこんな場所に一人で、武器も護身道具も持たず来る方が悪い。自分はできるだけの事をした。

 一瞬が長く感じ、そんな思考が一気に回る。


 が、血が飛散する事は無かった。

 大熊の爪で引き裂かれたその体は、血の代わりに透明な水となって辺りに散る。


 あふれる疑問を後回しにし、現状を見る。

 大熊の体勢は大きく崩れ、すぐ近くに頭が来た状態。

 思いっきり魔力を左手に集め、頭に直に放つ。サイズこそ小さいが、ひときわ高温な一撃。



 耳がおかしくなりそうな程の咆哮を残し、大熊が逃げ出す。

 足音が遠のいていくのを確認し、一息つく。


 そして、青服の子供は何事も無かったかのようにそこに居て、声をかけてきた。

「だいじょーぶですか?」

「ま、まぁね。」

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