光の差す方へ 〜古の巫女と伝説の島〜
藤道 誠
序章
動き出した歯車
「ッ、ハァ……ハァ……ハァ……」
夜の暗闇が支配する、深い森の中。
「ハッ、ハ……ッ……」
草を踏み分ける音と共に、荒い息遣いが響き渡る。
背後から迫り来るのは、濃い『影』の気配。
暗く冷たい空気は、恐怖となって心を蝕んでいく。
それから逃れるように、その者はひたすら走り続けた。
足を止めれば、瞬く間に『影』に呑み込まれてしまいそうな気がしたからだ。
次の瞬間、場を包む空気が一転する。
「っ!?」
前が見えない程の暗闇の中に、一筋の『光』が差し込んできたのだ。
先程までの恐怖を洗い流す、柔らかくて温かな光。
その者は戸惑いのあまり、身を強ばらせた。
だが、困惑はいつしか、母の腕に抱かれているような、絶対的な安心感に変わっていく。
その間も、食い入るように光を見つめていた。
息をするのも忘れる程に。
不意に、ギリギリまで張り詰められていた緊張の糸が、プツリと切れる。
途端に崩れ落ちる体。
慌ただしく駆け寄ってくる足音を聞きながら、その者は静かに意識を手放したのだった。
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