ドゥアーム教団の非道

● 第55話 外出先で見付けた逸品と、頼まれ事。

 「どうした? ソンナに驚いた顔して……。

 俺は、言ったはずだゼ。

 『オマエがまだこの街に居るのなら、また会う事もあるだろう』ってな。

 突然で悪いんだが、少し話したい。顔、貸してくれると助かる……」


 何で、コイツがココに居るんだよ?

 偶然か? いや、ソレは無いだろうな……。

 張り込んでたって訳か。

 『箱』の結界を張ってなかったのは、迂闊だった。


 でも……今、話したいって言ったよな。

 それに最後の話し方からすると、イキナリ仕掛けてくるって事は無さそうだ……けど、オレは思わず振り向きサッキまで見ていた、完全に気に入ってしまった例の【カスタム・カランビットナイフ】の方に目をやった。

 うぅ~、お金持ってないから買えないけど、名残惜しい。


 「何だ、ソイツ買う所だったのか?

 なら、ソノ後でいい。待っててやるゼ……ん、どーした?」

 「あんたの言う通り、オレはこのナイフが気に入った……んだが、買えないんだよ」


 「あ? そんなに、高価たかいってのカ? 

 チョイ見してみ……、ほぉ~コイツぁまた上物じょうモノのブツを見つけたな!

 確かに、値段はソレなりにするがコイツの価値は値段以上だ。

 匠の技で出来た逸品だからな。

 オマエ、目が利くじゃねーカ! 金が足りないなら、俺が出しといてやるゼ」


 「いや……、あのさ。

 そう言ってもらえるのは、ホント嬉しいんだけどね。

 足りない……とか、以前の問題なんだわ。

 金、持たずに来ちまったから……」


 言うなり、紅の亡霊クリムゾン・ゴーストは豪快に爆笑していた。

 まぁ、当然の反応だわな。

 でも、買うつもりで来た訳じゃないし……。

 来たら、たまたま見つけちゃったんだから、しょーがないじゃんか!


 「いやぁ全く……、やっぱりオマエは、俺が思ってた以上に面白いヤツだ!

 よし! 事情は解ったから、ココは俺に任せとけ。

 おい、店主! チョット相談なんだがヨ……。

 この【カスタム・カランビット】なんだけどナー……」


 何だか知らんが、オレの知らない所でまた話が進んでるなぁ……。

 こういう展開って、一体何度目だろう?

 だけど、コノ紅の亡霊クリムゾン・ゴーストは何でオレの為に親身になって話をしてるんだ?

 コイツって、敵であるドゥアーム教団に雇われてるんだよな。


 そんな事を考えていたら、

 「よぉ! 上手く話まとめてやったゼ」

 「え? まとめてやった……って、どういう事だよ?」


 「カンタンなッタ! 

 俺は、傭兵って職業柄アッチコッチの武器商人に顔が利くんだワ。

 しかも、ちったー名も知れてるからヨ……。

 武器屋からしたら、上得意な訳ダ。

 まぁ、そんな事より……ホレ!」


 差し出された手には、明らかに一品物で使いやすそうな革製の専用シースに収められた、あの【カスタム・カランビットナイフ】が握られていた。


 「ちょ……ちょっと待ってくれ!  

 話をまとめてくれたのは、正直嬉しいけど、アンタは例の教団に雇われてるんだろ? オレは……、言っちまうけど教団に両親を殺されてる身だ。

 だから、アンタの依頼主の敵って事になる。それに、少し前に三人ブッ倒したの見ただろ?


 なのに……、何でアンタはオレにココまでしてくれるんだ? 

 ソノ理由が解るまでは、受け取れない。

 何か、企んでるのか? それとも、見返りが目的か?

 言っとくけど、サッキさらおうとしたお嬢さんは絶対に渡せないよ……」


 「オイオイ……ソレ、勘違いだって。

 とりあえず、ソノ殺気でオマエの言った事がホンキなのは理解出来たから、チョット落ち着いてくれ。俺がオマエと話をしたいのには、ワケがアルんだ。

 ソレも、俺にとっては大事な……な。

 この【カランビット】は、挨拶代わりだと思ってくれると嬉しい」


 それまでの豪放磊落ごうほうらいらくな話し振りから急にトーンダウンし、後半はどこか苦悩にも似た表情を見て取る事が出来た。

 どういう事だろう? 

 「それで……、ダナ。

 場所を変えて話したいんだが、受けてくれるか?」


 「解った。聴くだけは聴くけど、その後の事は何も保証出来ない。

 それでも良ければ……。

あと、その【カスタム・カランビット】を受け取るかは、話の内容で決めるよ。

 挨拶代わりって言われても、ソコまでしてもらう縁も義理も無いから……」


 「まぁ、全てオマエさんの言う事がもっともダナ……。

 じゃ、早速だけど行こうか。時間が惜しい。


 ……よぉ主人、世話になったナ。今度、埋め合わせすっから待ってろよナ!」

 「いえいえ……、こちらこそ何時もありがとうございます。

 またのご来店、お待ちしております」

 店の主人は、イヤな顔をするどころか逆に嬉しそうだった。

 どんな裏取引したんだろ?


 

 ――そして、オレ達二人は近くの酒場に入った。客は、誰も居なかった。

 いや、オレ酒飲めないんですけどネ……。どうしようかな?

 「オヤジ、悪いけど奥の個室使うゼ……」

 店主の返事も待たず、勝手知ったる我が家の様に普通に店の奥へ入って行く。


 完全に店舗のスペースとは別の区画に入り、突き当りの鉄の扉の方に向かう。

 見張りだろうか、抜身の剣を持った男達二人に軽く手を振ると、彼らは即座に剣を収め厚く重そうな扉を開けた。


 オレの事を、いぶかしく見ている見張りの連中に気づいた紅の亡霊が、

 「大切な友人だ。失礼の無い様、肝に銘じろ」

 そう一言告げるなり、二人ともが深々と礼をした。何だよ、コレ?

 部屋の中は、酒場の店内や通って来た通路とは打って変わって、ゴージャスな雰囲気だった。


 「ココは、コノ街の俺の隠れ家の一つだ……。

 この部屋なら何を話しても、秘密が外に漏れる事はネェ。

 ホレ、この店自慢のカフィールだ。

 良かったら、飲んでくれ……」


 互いに座り心地のイイ、本革の豪華なソファで向き合い自慢だと言うカフィールで乾杯をした。

 「まず先に、オマエがあの『武器屋』に入るのの後を付けさせてもらった事を詫びる。ああでもしないと、話せなかったからな。許して欲しい」

 「やっぱ、付けて来てたんだな……。

 まぁ、別に気にしてないからもうイイよ」


 「あくまでも、目立たず自然な形で逢うのが必須だったんでな……。

 で……早速だが、本題に入りたい。


 ――ムリを承知で頼む!

 ……」

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